水槽のなか 10首連作
水槽のなか こうさき初夏
かつて豚だつた足裏そこかしこ爪が空(くう)へと向かふシンクで
性欲のなかつた頃はどうやつて恋してたつけ ポンと抜く栓
母となら年の離れた姉妹だと思つてるから LINE 知らない
念仏と母の泣き声まざりあひいつか必ずわたしが喪主さ
実家なる場所へはけしてもどるまいもはやわたしは死んだ子なのだ
永遠に目覚めたくない起きたくないセミの幼虫ならばよかつた
見覚えのある割烹着まつ白の蝶結び二つやつぱり祖母だ
大泣きが先か目覚めが先なのか軽くなりゆくわたしの躯
メビウスの最後の一本吸ふときに墓のある方角へけむりを
たては3なら横は5の家系図よつまりわたしの産む数は1