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「夏と秋」マガジン 第6号

【はじめに】

 こんにちは。こうさき初夏と秋月祐一の創作ユニット「夏と秋」です。マガジン第6号をお届けいたします。note に引っ越してきて、2号めとなります。楽しみいただければ幸いです。

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今回のマガジンは、
【2018年自選五句/秋月祐一】
【2018年自選一首/こうさき初夏】
【2018年自選五首/秋月祐一】
【こうさき初夏の一首評(前編)】
【短歌評 「あめにふられて」内山佑樹/こうさき初夏】
【読者投稿欄でぐでぐ(3)】
【カピバラ温泉日記】
という内容でお送りいたします。

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【2018年自選五句/秋月祐一】

踏切を越えたら海の初景色

冬といふことばを猫に教へをり

芽キャベツのはな恋人のできた春

はつなつの樹上生活ほーいほーい

妻の服ちつちゃ勤労感謝の日

【2018年自選一首/こうさき初夏】

ぽつ ぽつぽと梟が鳴いてゐたよと吟遊詩人(バード)啼き ぽつ

【2018年自選五首/秋月祐一】

今度こそ失敗しないバツ2だし猫飼つてるしときめいてるし

あなたには恥づかしいとこ見られても構はないんだ 春のおもらし

駅前のイオン・西友はしごする父の愛とか売つてないかと

ゆでたまご。といつも答へる買ひ物のついでを聞くと、さも真剣に

ぼくの死後のことをあかるく話したりして年の差の夫婦ふはふは

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【こうさき初夏の一首評(前編)】

ツイッターの「#いいねした人の2018年の短歌から一首選んで感想を書く」というハッシュタグ企画で、こうさき初夏が書いた一首評です。作品の転載をご許可くださった皆様、ありがとうございます。

あるいは、都会の祈りは地下にある電車待つ人のスマホのひかり/近江瞬

スマホをいじりながら地下鉄を待つ人たちの景が浮かびます。スマホの発するブルーライトを祈りと表したところに新しさを感じます。初句四音と四句目八音で韻律を調整していて、規則的に聞こえるiの音も気持ちがいいです。

ふくろうになっちゃったよと呟いてわたしを起こす愛らし妹(いも)よ/未補

ふくろうになるって、夢のなかでのことでしょうか。思わず隣にいた姉を起こしてしまった妹を可愛らしく思う主体の気持ちが伝わります。それにしても、ふくろうになっちゃったよ、ってそれだけで面白いですね。

まっすぐに私を見ないで右斜め22度なら見つめてもいい/ミツル

2通り読むことが出来て、①主体にとってビジュアル的に絶対にこの角度で見てほしいのが22度である。②右斜め22度という鋭角、斜め前とも言いがたいほぼ横からくらいなら見つめられることに主体がたえられる。考えがいがありました。

アワダチソウぼんやり夜に浮かびおりきょう新盆の父を迎える/西巻真

三句目と四句目の間に切れがあります。アワダチソウと父の新盆を迎えることのイメージが合っています。心地よい短歌です。父の新盆の夜にアワダチソウがぼんやり見えてくる、写実的なのに幻想的でもあります。

憎む者などあろうはずなきベッドの上でふたり食すはかりんとう饅頭/一ノ瀬礼子

自由な韻律です。定型の範疇だと私は思います。やすらぎの場所ベッドでふたりでかりんとう饅頭を食べている。気になるのは「憎むものなどあろうはずなき」の表現ですが、作中のふたりの関係は一体? 想像させられます。

オートバイ、2トントラック、さやえんどう水たまりにはいくつもの夏/あひるだんさー

土ぼこりをあげてオートバイやトラックが田舎道を走っていくイメージ。先の名詞3つを写し出していたのは、実は水たまりだったのが面白い。さやえんどうから、その前までの対象物との距離が変化したように読めます。

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【「あめにふられて」内山佑樹(「未来」2018/7月号)】

こんにちは、こうさき初夏です。歌人の内山佑樹さんのnoteを読んでいて創作意欲が湧いてきたので、評を書きました。

内山佑樹は雨の人である。いつも雨にふられるように自走する言葉が彼を捕らえて離さない。歌会やツイキャスでご一緒したことがあるが、ギミックに満ちた言語感覚がありながらも、歌を論理的に読み解こうとする姿勢には舌を巻くばかりだ。言語の神さまがいるのなら、愛された子であるに違いない。

「前月に、佐川前理財局長の証人喚問が行われた。誰にともなく感情移入してしまい、つらい思いで、泣きながら仕上げた」(内山佑樹のnote「あめにふられて」の述懐部分から引用)

創作者にとって作品と人格は、切り離して考えるべきであるが、だとしてもこの述懐にふれるとき、彼の人間性に一瞬でも想像が及ばないと言えば嘘になる。

早速彼のgift(才能)が形となった作品を読み解いていこう。

東京メトロ濃霧国会議事堂前 コクリコクリ黒塗りに眠る

ぬばたまの国会予算委員会衆院因習参院陰惨

国会空転輪転機回転めまいグーテンベルクルクルク

「あめにふられて」(未来2018/7月号)は10首連作であるが、似た特徴を持っている歌を抽出した。

「東京メトロ~」は不穏な国会議事堂前で居眠りしている国会議員についてである。不穏さと「コクリコクリ」というオノマトペの相反が妖しいたのしさを描き出す。

「ぬばたまの~」は黒々としたイメージの国会すべてについてである。リズムによってその陰惨さが伝わる歌である。

「国会空転~」は国会とメディアの迷走について詠んでいる。国会も輪転機もまわり、めまいが起きたところに活版印刷の祖であるグーテンベルクをおく軽妙さ。読んでるこちらも回ってしまいそうだ。

この三首をこのように読んでいるが、これらの歌はあまり景を読み解く必要がないように感じる。なぜならば言葉の自走が短歌になっているからである。読者は目で読んで、声に出してそれを短歌としてのみ込めばいい。すると内山の頭のはたらきが少し見えてくる。それは内山佑樹の作家性と呼んで差し支えのない言葉のダイナミズムである。

ひょっとしたら彼には、短歌の勉強やインプットは必要ないのかもしれない。すでに彼の形において作家性を備えてしまっているのだから。

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【読者投稿欄でぐでぐ(3)】

投稿者の瀬戸さやかさんと、秋月祐一のメールのやりとりを紹介させていただきます。短歌の推敲がどのようにして行われているのか、その様子をご覧ください。

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瀬戸さやかさん→秋月祐一

でぐでぐ宛に一首

宇宙葬一人で星になるならばそれもいいかと真っ暗な部屋

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秋月祐一→瀬戸さやかさん

ご投稿ありがとうございます。

宇宙葬一人で星になるならばそれもいいかと真っ暗な部屋

すでに出来上がった歌と言えるかもしれませんが、さらなる可能性を追求してみましょう。

まず「宇宙葬」という言葉を立てるためにも、「一人」は「ひとり」とかな書きにしたほうがよいかと。

つぎに、結句の「真っ暗な部屋」は、「宇宙葬」とイメージがほぼ重なっているような気がします。

それが一首のわかりやすさにつながっているのですが、それ以上のイメージの広がりに欠けるきらいもなくはないでしょう。

宇宙葬とうまく衝突して、イメージがスパークするような結句がないか、考えてみてください(異質なものを組み合わせて、そこにポエジーを生じさせる、いわゆる「二物衝撃」の発想法です)

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瀬戸さやかさん→秋月祐一

改作です。

宇宙葬ひとりで星になるならばそれもよいかと満員電車

よろしくお願いします。

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秋月祐一→瀬戸さやかさん

ご改作、ありがとうございます。

孤独な「宇宙葬」と、人でいっぱいの「満員電車」という対比ですね。

ないものねだりのようですが、こんどは「真っ暗な部屋」にあったさびしさが、感じづらくなったような気が……。

たとえば、電車だったら「最終電車」とすると、すこしニュアンスが変わりますよね。ほかには、いっそ「一人カラオケ」とか。

にぎやかだけど、圧倒的なさびしさを感じるのって、どんなときだろう、と結句をあれこれ想像してみてください。

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瀬戸さやかさん→秋月祐一

考えてみたのですが…

クリスマスイブ
カプセルホテル
プラネタリウム
湯船の中で

「さびしさ」を入れようとすると、なんかハマりすぎる感じなものばかりです(>_<) 引き続き、考えます。

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秋月祐一→瀬戸さやかさん

たくさんの案のご提示、ありがとうございます。

結句に託したい感情は「さびしさ」ではないのかもしれませんね。そこのところも含めて、さらにしっくりくる言葉を探してみてください。

あと、秘伝をお伝えしますが、短歌は、ああ、と共感してもらう前に、えっ、ああ、といったん驚きが入ったほうが、読者にインパクトを感じてもらいやすい詩型なのです。

意外性があるけど、なるほどそうか、とわかってもらえる、いう感じでしょうか。こちらも併せて、検討してみてください。

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秋月祐一→瀬戸さやかさん

一例ですが、

砂浜に二人で埋めた飛行機の折れた翼を忘れないでね/俵万智

埋めたのが、単純にかわいいものや楽しいものでは、この歌のインパクトは生じません。

「飛行機の折れた翼」で読者をギョッとさせてから、ああ、海辺でふたりで模型飛行機で遊んだ、楽しいひとときを思い出しているのね、と想像させる作りになっています。

折れた翼からは、ふたりの未来を暗示させる悲痛さも感じられて、飛行機が単なる小道具を超えた、喩として機能している点にも注目してください。

ご参考になれば幸いです。

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秋月祐一→瀬戸さやかさん

やりとりを読み返して、これまでに出てきたものの中では、

・真っ暗な部屋(原作)
・湯船の中で

の2つが場所を示すだけでなく、お布団の中とか、お風呂の中の自分、という体感を感じさせてくれて、いいような気がしました。この2つをさらに練ってみるのもありかもしれませんね。

別の案も、ひきつづきお待ちしております。

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瀬戸さやかさん→秋月祐一

「部屋」と「湯船」を練って、

カオスの部屋で
ユニットバスで

というのを考えましたが、他に、

ぬか床混ぜる
ソファーに沈む

というのを考えて、個人的には、「ぬか床混ぜる」が気に入って、それもありかと思っています。

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瀬戸さやかさん→秋月祐一

でも、「ユニットバスで」あたりが一番はまるんですかね。

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秋月祐一→瀬戸さやかさん

ご改作、ありがとうございます。

「ぬか床混ぜる」とてもいいと思います!!!

ぬか床って、それ自体が1つの宇宙ですよね。しかも毎日の世話が必要で、自分とも密接に関わっている。主婦の方のご苦労もしのばれ、読者が多義的なイメージをふくらませることが可能になっていると思います。

(可能性としては、糠床まぜる、もありかもしれません。語の区切りが視覚的に明確になりますが、このへんはお好みで)

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瀬戸さやかさん→秋月祐一

秋月さん、ぬか床よかったですか!!ありがとうございます。

私は、基本的には、自分がパッと手で書けない漢字は使いたくないというのはあります。

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秋月祐一→瀬戸さやかさん

ぬか床のほうが、自然な感じがしますね。

ぬか床がいいと思ったのは、今回のお歌を拝読して、ぼくもあれこれ改案を想像した中で、まったく思いつかなかった表現だからです。それと同時に生活感や、ぬか床を混ぜるときの手ざわりも、まるっと入っている。こういう手ざわり感、短歌ではとても重要だと思います。

【最終稿】
宇宙葬ひとりで星になるならばそれもいいかとぬか床混ぜる/瀬戸さやか

このかたちを最終稿とさせてください。ありがとうございました。

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瀬戸さやかさん、ご投稿ありがとうございました。
読者投稿欄でぐでぐでは、皆様からのご投稿をお待ちしております。
→natsutoaki.degdeg◎gmail.com(◎を@に変えてください)

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【カピバラ温泉日記/秋月祐一】

◼️2018年12月1日(土)

[読書]佐藤りえさんの句集『景色』(六花書林)を拝読中。無季の句の割合が多くて、俳句ってここまで自由になれるんだ、と阿部完市が好きなぼくでさえ驚くような感じ。自分の句集を出す前に読むことができて、よかったと思える一冊です。

◼️12月2日(日)

[読書]宇都宮敦さんの『ピクニック』を購入。少年ジャンプの大きさの歌集です。読む前に抱えているだけで、うれしくなります。

◼️12月4日(火)

[短歌]短歌を作るとき、連作を意識せずに何首か作って、今回のテーマはこれだ!と気づく瞬間が好き。その前のやみくもに作っているときも好き。テーマが決まってからは、一気呵成に作ります。

◼️12月8日(土)

[短歌]初夏さんが短歌界の “梁山泊” 西巻家へ出張し、ツイキャスで夏と秋の宣伝を。取り上げていただいたぼくらの歌は、下記の通りです。評をしてくださった皆様、ありがとうございます。

ぽつ ぽつぽと梟が鳴いてゐたよと吟遊詩人(バード)啼き ぽつ/こうさき初夏

時折、ぢやないですか、と敬語つかふ妻のこと、ぼくも「さん付け」で呼ぶ/秋月祐一

◼️12月10日(月)

[出力]Canon iNSPiC を購入。スマホから直接プリントできる、手のひらサイズのプリンターです。写真は裏がシールになっているので、手帳に貼りまくります。

◼️12月12日(水)

[音楽]俳人の田島健一さんとカラオケに行ったら、さだまさしとか大江千里の曲で、きっと盛り上がれると思う。

◼️12月16日(日)
[日録]今日は、冬の大試験(校正技能検定・中級)と、彗星集の忘年会でした。お目にかかった皆様、ありがとうございます。

◼️12月17日(月)
[音楽]#好きなアーティスト10組あげると作風が分かる

さだまさし
大江千里
佐野元春
ムーンライダーズ
あがた森魚
大貫妙子
原田知世
くるり
クラムボン
空気公団

*邦楽歌ものということで。

◼️12月18日(火)

[短歌]ぼくは、塚本邦雄の歌集だと『天變の書』『歌人』『豹變』など中期の、軽みを感じさせる作品が好きです。これらの歌集を語れるようになるべく、精進したいと思います。

◼️12月19日(水)

[美術]今日は表参道で、平岡瞳さんの版画展「とうじ」を観てきました。平岡瞳の青、と言いたくなる静謐な世界を、堪能してきました。過去の展示をまとめた作品集『ゆき』も購入。じっくりと楽しませていただきます。

◼️12月20日(木)
[読書]クール教信者さんの『さび抜きカノジョ』(一迅社)が面白かった。大学生なのに、小学生なみに小さくて、さび抜きじゃないとお寿司を食べられない彼女、リノとの日常を描いたほのぼのマンガ……と思っていたら、そこから怒涛の展開が(以下、ネタばれ自粛)

[抱負]来年は50歳を迎えるので、句集と歌集を両方出したい。

◼️12月21日(金)

[肩書]「校正者」というシンプルな肩書きの名刺を発注しました。校正者と名乗ることに、どきどきしています。

◼️12月22日(土)

[音楽]アルバム『Reborn〜生まれたてのさだまさし〜』を聴いてから、ファミマの入店音が、そうとしか聴こえなくなってしまった。

◼️12月24日(月)

[俳句]大江千里さんのソロピアノのアルバム『Boys & Girls』を聴きながら、『俳句のための文語文法 実作編』を読んでいるクリスマス・イブです。みなさま、どうぞよい夜を。

◼️12月25日(火)

[音楽]今日のBGMは、三宅純さんの『Lost Memory Theatre Act-1』。冒頭の曲「Assimetrica」から、ぐいぐいと独自な美意識の世界に引き込まれてゆきます。

◼️12月29日(土)

[俳句]『阿部完市句集』を読んでいる年の暮れ。個人的に激動の時期だったこの一年、座右に置いてきた一冊です。

◼️12月30日(日)

[片付]今日は、本の整理を行いました。押入れにしまう分を4箱、売る分を3箱、箱詰めしましたが、未開封の箱の山が大量に待ち受けていて、道のりは遠く険しいです…。

◼️12月31日(月)

[総括]2018年はお世話になりました。東京への転居、結婚、校正の勉強と、環境が激変した年でもありました。2019年、短歌は第5期を迎えるにあたり、作風を転じるかもしれません。第2歌集にもご期待ください。俳句は句集出版に向けて、より一層の作句に励みたいと思います。来年もよろしくお願いいたします。

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【編集後記】

『バカ姉弟』のおねいちゃんに似ていると言われます(夏)

アラフィフにして、就活に励んでおります(秋)

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「夏と秋」マガジン 第6号
夏と秋:こうさき初夏・秋月祐一
発行人:秋月祐一
無断複製ならびに無断転載を禁じます
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