つくりものの魂
作リ物ニハ作リ物ノ魂ッテノガ宿ルカラナァ
何かの漫画のセリフだった。確か「魔法使いの嫁」だったか。原作が実家にあるので詳細はわからない。
私は、つくりものである。
決して天然物とは言えない私は、アップデートを繰り返しながら緩やかに老化していく。
本を読むことで、脳のなかに質量を増やす。いつか世界中の面白い文化を全て詰め込んだ脳みそになりたい。
夜歩くことで、筋トレを繰り返すことで、からだのなかに力を増やす。いざというときに振るえる力は多い方が良い。
芸術に触れることで、心のなかに視点を増やす。世界がこんな風に見えている人が、この星の上にいる。このように見える可能性を孕んだ世界に生きていることを、忘れないようにする。
買ったものを捨てることで、私の人生の輪郭が見えてくる。かつてお金だったもの。私なりの価値と変えたもの。今はもう、価値のないもの。私の変化の証である。
さて、そうして毎日アップデートしても、老化と共に感受性が減ってきているのがわかるのがもどかしい。日々劣化していく網膜に映る景色が少しずつ色褪せていくように、同じものを接種しても、おそらく10代20代の頃のようには感じられないだろう。
私の魂が劣化していくのを感じる。それでも一番若いのが今であり、網膜が一番美しく君を映すのもまた、今である。そう思って、隣にいる年下の恋人の横顔を眺める。彼の目には、私よりも美しくこの海が映るのだろうか。
私は、しぬまで私を作ることを止めないだろう。
私は、つくりものである。
私の作り手が私である、という意味で。
この物語はフィクションである。名前はまだない。