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トランスジェンダーの子、修学旅行へ行く

私の小さなソーシャルアクション。

今日はトランスジェンダーであるエム氏が中学校の修学旅行に行く時の話を書こうと思う。

「修学旅行は行かないから。行きたくないし。」と言っていたエム氏。

一方で、学校の新学期の作文に『修学旅行が楽しみ』と書いていたことを心に留めてくださった担任の先生。
先生方が修学旅行に向けてのたくさんのサポートをしてくださったおかげで修学旅行に行くことになった。
行く前はめんどいーと言っていたけど、帰ってきてから修学旅行でこんなことがあったあんなことがあったと色々楽しそうにお土産話を話してくれて、本人にとってとても大切な想い出になったようだった。

実は、親である私は最初から修学旅行に行くことを諦めてしまっていた。
本人は行きたくないと言ってるし、本人も居心地悪い中で行きたくないだろうし、最初から諦めたほうが気が楽だと正直思っていた。

でも、先生たちの方が諦めずに粘ってくれた。

修学旅行は無理だと諦めているトランスジェンダーの当事者の子どもたちやその家族にとって、役に立つかもしれないので書いてみる。

私自身にとっても、申し訳ないおばけに屈することなく、早々に諦めずに粘って周りの力を借りてみることという大切なことをリマインドし続けてくれる記事になるかもしれない。

修学旅行が楽しみ?え、そうなの?!

エム氏が通っていた公立中学校は、中3で修学旅行があった。
エム氏は中1と中2の2年間、学校に行かない選択をしていたため中3になって学校に行き始めた。
学校には幼なじみ以外友だちも少なく、修学旅行に行くにしても部屋のこと、お風呂のこと、外でのトイレなど、様々なハードルがあることもあって、本人も行きたくないからと中3の4月からずっと言っていた。

私自身もせっかく中3になって学校に毎日行くようになり、このまま何事もなく卒業を迎えてくれる方がいいかも、変に刺激を増やさなくてもみたいな気持ちが芽生えていた。
修学旅行は、楽しいことや友だちとぶつかったりしたことも大人になっても心に残っていることもたくさんあるから、行けるのであれば行けるといいなと思ってはいたけど、本人が行きたくないならしれっと休めばいいとも思っていた。

そんなある日、担任の先生から電話をもらった。
「修学旅行のことなんですが、作文に修学旅行が楽しみと書いてくれていて、とっても嬉しかったんです!もし良かったらどんな風に修学旅行を過ごせると良いか本人交えて一度話しませんか?」と。
私は「え!?本人がそう書いてるんですか?うちでは行きたくない、行かないと言ってまして・・・まずは一度本人と話してみます。」とびっくり。

本人と話したところ、「えー、んーーー、なんか書くことないから適当に書いただけだし・・・。」みたいな返事。
あぁ、そうだよねぇと諦めてしまっている私もそう思い、じゃあ、まあ、休む方向だねーと家では話していた。

担任の先生に、「やはり乗り気ではないようでして、お気遣いいただいたところ申し訳ないです・・・。」とお伝えした。

でも、ここで親の私じゃなくて、先生が粘ってくれた。

「でも、修学旅行のことを具体的に知ったりすると気持ちも変わるかもしれませんし、やはり一度来校してもらって話しませんか?うちの学校の修学旅行は、班ごとに自由に行動できる時間がたくさんあって、観光するところもご飯を食べるところも自分たちで全部決めたりするのでなかなか楽しいと思うんです。それにお風呂や部屋割りのことについても少し考えがあってそのあたりもお伝えしたくて。一度話を聞いてもらってから決める形でもいいと思いますよ。」
と、ご提案くださった。

出た!「申し訳ない」おばけ

その話を聞いた時、無駄になってしまう可能性が高いと思っていたから、お時間を割いてもらうこと自体「申し訳ない」という気持ちが先に立った。

ただでさえ忙しいのに時間を使わせてしまって、申し訳ない。
結局、行かないって言いそうだし、申し訳ない。
配慮してもらうこと自体、申し訳ない。
たくさんたくさん申し訳ない。

でも、そうだ、中学校に入学した時に(下に貼った記事をぜひ!)、思ったんだった。
我が家のことだけど、我が家のことだけじゃないんだ。
我が家のアクションで、次の誰かに繋がることもあるんだ。

それに、確かに私も本人も色々知った上で選択することが大切だと思ったし、色々知った上での選択のためには先生方の力を借りることが欠かせないことだと思った。

そうだ、ここはサポートをリクエストするところだと思って、「それでは、お手数をおかけしてしまいますが、ぜひお願いします!私もエム氏も中学校の修学旅行がどのようなものかよくわかっていないので、先生方から具体的なお話をお聞きすることは本人の選択にとって、とても大切なことだと思います。本人とお伺いします。」とお願いさせてもらい、渋々な感じの本人と学校に行くことに。

こんなに一生懸命考えてくれていたなんて

担任の先生と修学旅行担当の先生が出迎えてくれ、修学旅行について話をしてくれた。

驚いたことに、宿泊予定のホテルの室内施設の配置図やものすごい細かい旅程表(まだ子どもたちにオープにしていないもの)まで持ってきてくださっていた。

宿泊予定の複数のホテルの室内施設の配置図を見せながら、「お風呂は体調の関係とかで個別に入る対応の子は他にも何人かいてね、ここの通路を通ってここのお風呂に一人ずつ時間を決めて入ってもらう形になるんだよ。だから、他の人の目に触れたり目立ったりはしないようになってるから。それから、こっちの日のホテルはね・・・」とか。

さらに細かい旅程表を見せながら、「ここの日とここの日は1日中、班行動なんだよ。全員で行動する日ってほとんどなくてね、班で色々観光したい場所をテーマに沿って決めて、ルートも自分たちで決めるんだよ。お昼ごはんを食べるお店も事前に自分たちで決めておいたりするし、みんなで決めるの楽しいみたいでね。毎年生徒たち最初はめんどくさいーとか言ってるんだけど段々乗り気になっていくんだよ。」とか。

他にも部屋割りについても、こういうやり方もできるし、ああいうやり方もできると思うよ。

などなど、細かいことが気がかりになるであろうエム氏に寄り添って、いくつか具体的なアイデアを話してくれた。

最後に、「今、行くか行かないか決めなくても大丈夫。ギリギリ出発の一ヶ月くらい前までゆっくり考えてくれて大丈夫。それまでの間に修学旅行の班が決まったり、授業の中でも準備していくから、その様子を見て最終的に行くかどうか決めていいよ。」とのこと。

エム氏は終始、静かに聞いていて、最後にどう思った?と聞かれて「自分は・・・ご提案くださった形で大丈夫です。」とぼそっと答えた。

前の記事にも書いたけど、終始「あなたが決めていいんだよ」と子どもを真ん中に置いてくれながら話してくれる姿。
最後の中学校生活1年間の中で少しでも心に残る想い出をつくってあげたいと思ってくれたんだろうなと伝わってくる時間。
本当にありがたかったし、嬉しかったので、その旨を先生方には丁寧にお伝えした。

結局、修学旅行を満喫したとな

その後、修学旅行の班が決まり、幼なじみの子たちとも同じ班になり、とても穏やかなメンバーだったみたいで、今日も修学旅行の準備があったーと話してくれる日が増えた。
ここの場所ではこういうところ行くことになったとか、ご飯はここで食べることになったとか、少しずつ修学旅行に向けて見通しが立ってきた頃に、「修学旅行は結局、行くことにする?それともやめておく?自分で決めていいよ。」と聞いたら、「ここまで準備したし、まあまあ楽しそうな気もしてきたから、行くわ。」とのこと。

実際に行く前もまあまあ楽しそうに準備などして出かけて行き、帰宅してからも楽しかった!とニコニコしながら修学旅行中のエピソードを話してくれた。
人生で一度きりの中学校の修学旅行を楽しんで過ごせたのは本当に良かった。
あの時、早々に諦めていたのに、粘ってくださった先生方には本当に感謝の気持ちが表しきれない。

それは、どんな本人の選択だったのか?

正直なところ、修学旅行は行きたくないのなら行かなくても良かったし、行きたいなら行けば良いと思っていたし、今でもそう思ってる。

ただ、何よりも、本人が納得して選択すること自体がとても大切だとは思っていた。

はずだった。

私は早々に本人が納得して選択したんでしょ?と思って諦めてしまっていた。

でも、様々なハードルや制限についてどう解決したら良いかイメージできないまま、選択肢を切り捨てていたに近いことを本人がしていたのを真に受けてしまっていたのだと思う。

きっとエム氏の中には、
「修学旅行に行きたい気持ちもなくはない」
「配慮してもらうことをお願いするのは面倒」
「わざわざ自分のために何かをしてもらわなきゃいけないのは申し訳ない」
「いちいち説明するのも大変」
「お母さんも先生たちも忙しそう」
などなど色々な気持ちや配慮や困り感があって、単に修学旅行に行くということに、たくさんの障害物があったのだろう。

そういう障害物をどけた先に、あるいはどけられる見通しを一緒に探りつつ、「どうしたい?」を聞いてあげられるのが一番良かったかなと思う。
本人が持つしんどさ、悩み、困りごとなどすべてをわかることはできないんだけど、横に立って一緒に考えることはできるから。

ちなみに、その反省を活かして、今からエム氏の高校の先生には来年度の修学旅行について聞いているという気が早いことまでしている今日この頃。
さすがに気が早いけど、こんな話を聞いたよーとエム氏にちまちま話しておくだけで、見通しが少しずつ少しずつ立って、本人の納得のいく選択をしてくれるといいなという願いをこめて。


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