![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/60026071/rectangle_large_type_2_731014f389563f1a93875f0874278d9e.png?width=1200)
【第1回】口癖|言葉とこころの解剖室
言葉から人の心やコミュニケーションのヒントを紐解きたい。その思いから『言葉とこころの解剖室』という連載を書くことにしました。
無意識に使う言葉や、言葉に対する感覚から「自分」を知り、言語コミュニケーションを通じて「相手」を知ることができます。決して正解のない世界ではあるものの、言葉という高度な道具をできる限り大切に、そして有用に使いたい。
執筆業に携わる者としても、いち人間としても、言葉と心をもっと追求したい!ここは言葉やコミュニケーションを分解、分析して明らかにする「解剖研究」のお部屋です。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【第1回】口癖
人の口癖がすごく気になってしまう。一度気になりだすと、口癖にばかり耳が反応し、肝心な話の内容が全く頭に入らないことも多々ある。
わたしは食器を洗うとき、とあるお笑いコ突くンビがパーソナリティを務めるラジオ番組をよく聞いている。果てしなくくだらない内容から、物事の神髄を突くような話まで幅広い。昔からとても好きなふたりなのだが、最近になって、コンビの片方が「ある種」という言葉を多用することに気づいてしまった。この口癖に気づいてからというもの、わたしの耳はその口癖に過剰反応するようになってしまったのだ。
一般的には「それって“ある種”の○〇なんじゃないのかな」という感じで使われることが多いと思う。語調を整える役割として使われることもあるが「まぁ」とか「その」とかとはちょっと違っていて、耳につきやすい口癖だなと思う。
以前よく交流していた知人にもこの「ある種」を多用する人がいたのだが、そのときも非常に気になってしまった。わたしは自分がこの言葉をほぼ使わないので、余計に気になったという部分もあるかもしれない。
それ以来、このお笑いの方はなぜこの「ある種」を使っているのかに少し注意度を寄せて聞くようになった。しかし、ただ聞いているだけでは「ある種」に続く言葉にはっきりした規則性があるようには感じられず、モヤモヤしていた。
そして、相方には「かもしれない」という口癖があるような気がしている。「かもしれない」は会話の中に自然に溶け込む自動詞なので、それほど目立つわけではない。「ある種」に比べて、使える場面も多い。
たとえば、ちょっと自信がないことは「そのとき着ていた服は赤だったかもしれない」言うだろう。自分のことなのに「俺は変態かもしれない」と言っても全然おかしくないし「それアリかもしれないね」と言えば、いろいろな人や考えがあっていいと受容する表現になる。便利だから使っているだけかの可能性もあるが、やわらかい印象を持たせる働きがあることを無意識にわかって使っているの「かもしれない」。
「俺ってバカだからさ」と言うよりも「俺って、バカなのかもしれない」と言った方が、周りが変に気を遣いにくい。「バカでない可能性を残しておく」ことができるからだ。
このふたりの口癖は全く違うし、性格もポジションも違う。でも、相方の「かもしれない」という口癖を発見して思ったのは「ある種」を使うのも、似たような理由なのではないかと思った。
ある種を使うときはおそらく、彼の中では「一か八か」なのかもしれないなと思った。他人から見て、その発言が「偏見の強い意見だ」とか「そんなこと言っちゃう?」という派手な発言ということではない。彼が自分の中にピン!とくるものを即座に発するときに「ある種」を使っているように感じた。
慎重派な性格の人は、頭にパッとひらめいたり浮かんだりしたことを、その場ですぐ言葉に出すことを「怖い」と感じることがあるのではないだろうか。わたしはある。
でも、ラジオやテレビで即興のアドリブで乗り切らなければいけないとなれば、怖いだのなんだのとは言っていられない。話すことを仕事にする中で、無意識の防衛というか、自分の中だけでしかわからない一呼吸、いや「景気付け」のような感じなのかなと思った。「ある種」ということは、それ以外の種もあるということだ。「自分の意見がすべてではない」「ひとつの考え方だ」という風に、それ以外の可能性を残しておく働きもある。
口癖の原因を追究したいわけではない。ただ、なんとなくこのコンビのふたりの心にはちゃんと共通点があるように感じられて、ラジオの時間がさらに味わい深い時間になったような気がするような、しないような。
◇
口癖から読み取れるその人の心理、性格、というような分析をしている記事なども目にしたが、当たっているように感じるものもあれば、いい加減だなと思うものもあった。確かに〇〇を多用する人は△△なところがある、という一定の傾向性はあるかもしれないけれど、言葉というのは年代・場面・職業・環境といったあらゆるものに影響を受けているものだと思う。
その人の口癖を観察することは、その人の性格を読み取るというよりは「相手がどんな思いで会話しているか」「どんなふうに人と接したいのか」を読み取る重要な手がかりになると思う。
話している「内容」だけでなく、その人の口癖や言葉のパターンを読み取ることで、相手の意向をくみ取ることもできれば、自分がどう立ち回ることができるかを考える、とても良質な材料になる。
ちなみに、わたし自身の口癖は何だろう?と思うのだけど……自分ではちっともわからなかった。