家庭の味
農作業で夫と一緒にいる時は、仕事、子どものこと、気になること、時事問題、なんでもかんでもいろんな話をする。
特別気が合うのか?すんごい仲良しというわけかどうか?他に話し相手があまりいないから、というのが大きな理由で、特に、今日の夕飯どうする?というのはほとんど毎日してるんじゃなかろうか。
先日、翌年のメロンやトマトに使う敷き藁を回収する作業をしていた時のことだ。
藁というのは、稲刈りをして、その時に残るものなので、自然とお米の話になった。
日本人は米を食わなくなったんだよな。
(そう言う夫だって、好きな食べ物はラーメンなんだけどな。)
そう思いながら、まあ和食って手がかかるからね。と答えてみた。
ご飯を炊くのにお米を研いで浸水してから炊いたり、それに合うおかずや汁物が必要で、何品か無いと栄養バランスが気になる。
今時の炊飯器は優れものだし、無洗米もあるから格段に楽になったとはいえ、ご飯だけで済ませるというわけにいかないような気がして副菜など気にしてしまう。
パスタなどなら一皿だけでも、それにサラダかスープを添えれば良いような、気がする。
ただでさえ忙しい現代人の生活スタイルに和食は揃えるものを想像してなんとなくハードルが高く感じる。
そもそも、家庭の味っていうのが、日本人は多様なんじゃないかと思うよ。
家庭料理が和食(和食の定義も杓子定規で収まらないのではないか)のみならずイタリアン、中華、最近なんかエスニックも好きな人は作るし、こんなにいろんな食事をする民族って他にいるのだろうか。
と、私は食料生産に関わる仕事をするようになってから、そんな風に思うようになったことを話していた。
それまで、家でも、外食でもどんなジャンルのご飯でも、日本にいながらなんでも食べられることに何も疑問も持たなかったのに。
そんな話をした矢先、稲刈りも後半戦に差し掛かったという時に、1000時間以上乗っているコンバインがとうとう替え時になってしまった。
今年はまだ、だましだまし使って、あと2品種の米を刈り取りして、どうにか終わらせたいと粘っている。
コンバインやトラクターなど、どれだけの時間乗ったら機械が傷んでくる、というのが目安であるので、それは乗用車でも一緒かもしれないが、ともかく数年前から、まだいけるか?どうだ、まだ動くか、よし!と乗ってきたのだけれど、もうそれも農機メーカーさんによると無理なのだそう。
直すための部品がもう製造していない、だいぶ古い機械である。
うちは田んぼと畑と両方作る農家で、田んぼだけ作る農家なら田んぼの面積が少なく、ビニールハウスなどを使って他の野菜もたくさん作る複合の形態ならちょっと広すぎる。
田んぼは生産量を調整するために減反といって、持っている田んぼの面積の何%を米で作付けして、あとは別のものを作るか、作らなくてもトラクターで起こしておきましょう、という決まりがある。
米だけを専門に作る米農家さんとは規模が小さいため、田植え機やコンバインなど田んぼに使う機械に乗る時間が1年間で数えると短い。
その分長い年数乗れる計算になるが、長く同じ機械を作り続けるメーカーさんはいないので、壊れるころには部品も製造してない、ということになるのだ。
さて、そのコンバインが壊れるとなると、今の農業の状況を考えるとかなり判断を迷うことになる。
というか、迷わず米はもう作れません、と言いたいけど、それができない。
お米のお客さんはもちろんいるので作れませんと言うのは申し訳ないと思う気持ちがあるのは勿論なのだが、それ以上に問題なのは、他に田んぼを任せられる農家さんがもういない。
うちが割と若い農家になるので、むしろ他の人たちがどうしようかと考える時に、こちらへやってくれないかと頼まれるような、そんな状況だ。
それでは、誰もがお手上げになって手付かずになると、途端に雑木林になり、やがて小山に飲み込まれて地面は消えていく。
近くにある人里は獣と境界線を保つのに大変な状況になる。
それがわかっているので、放棄する、というのも覚悟がいることになる。
田舎と都会は地続きなので問題はすぐに都会に波及する。
田んぼをやるというのは、田んぼを起こすトラクター、田植え機、コンバイン、乾燥機、籾摺り機、などもろもろが規模に応じてセットになって付いてくる経営になる。
それぞれ年間数日稼働するだけだけど、莫大なお金がかかる。
それを、またこの先続けていきます。
というには、燃料費だけでなく、水のやりくりの問題、需要と供給の問題、国土の問題、天気もついてまわる大きな話になる。
そこで立ち返るのだ。
家庭の味って、何か。
その主食は、何なのか。
ちなみに、私のよく作る料理は鶏のさっぱり煮で、子どもたちは食べ過ぎて飽きてしまった。
夫の得意料理は大根の唐揚げで、大根を細かく切って茹でて下味をつけてから揚げる手間のかかったもの。
どちらもご飯のお供で、私たちは仕事が忙しいので作る時間のある方が料理を作る。