見出し画像

スイカは石油でできている


コロナ禍が明け、人も物も活発に動くようになった。と、思ったらロシアのウクライナ侵攻で世界情勢は不安定で、物はある所にはあるけれど、無い所に動くかといったら単純にそういうわけにもいかなくなった。

農園でコロナ前後、何か変わったことがあったかといえば、作付け品目から見たら何も変わってはいない。ずっと作ってきたメロン、スイカ、お米、トマト、大根、ニンジン、それぞれ変わらず作り続けている。だけれど、その裏では作る私たちには葛藤があり、コロナ禍の中で生活している皆さんと同じように不安を抱えて過ごしてきたことを今なら明かせる。

コロナという未知のウイルスが入ってきて行動制限がかかった時、農家仲間ではネットなどで先行きの不安なことを相談しあっていた。農産物、とりわけ嗜好品に属するメロンやスイカなどが今までのようにご利用いただけるのか、同じメロンやスイカを作っている仲間と議論になった。私たち夫婦はそれぞれお客さんへ問いかけてそれに応じて品目を変更しようかと話し合い、いろんな人へ聞いてみて生活に直結した野菜が欲しいという要望が多いようであれば、メロンやスイカはウリ科なので、キュウリを作ってみようかという話にもなっていた。

しかし、お客さんたちは一様にこういう事態の時だからこそ、いつもと同じように自分に、子どもや孫に送ってほしい、と言ってくれた。出荷先の大きなところは、売れるのか、という私たちの問いにどうでしょうか、と返したけれど、最近交流するようになったお店の方からは売りますよ!という力強い言葉もいただいた。

そういうことであれば、いつもと変わらない味をお届けしよう。腹を括っていつものメロンとスイカを作って発送し続けた。お客さんは喜んでくれて、送った先からのお問い合わせもいただいて、私たちはとにかくコツコツと作ることに専念することができた。
ただ、物流というものがいまや世界中に広がり、農業に必要な資材が思うように入ってこないのは種や資材が外国で作られていて、それを作る人たちが動けなければその品物を使って作物を生産する農家も物は作れないのだ、ということを常に感じることになった。

ようやくコロナへの対処の仕方もわかってきたのに、今度はロシアのウクライナへの侵攻が始まった。ここにきて、さらに石油由来のものがどんどん高騰していくことになる。

メロンやスイカはビニールハウスで栽培されている。糖度を求められるようになったこの甘い野菜たちは、屋根のビニールで雨水を防ぎ、苗を植えて守るために地面の温度を上げるマルチのビニールで地面を覆って温めてじっくり育てられる。屋根のビニールだけでは空間が大きく温度が下がりすぎるので苗が風邪をひかないように、トンネルのビニールをハウスの中にさらにかけて苗を育てる。植えてから根がしっかりした頃、水をやらない管理で育てる。実のなる作物は、子孫を残す種のある実をつけることで過酷な環境に対処しようとする、その特性を利用するからだ。そして、美味しい実がよい大きさになるように今度は潅水チューブで水をやる。それからは朝晩の寒暖差を利用して糖度を上げるためにトンネルのビニールを外し、壁面にあたる場所のビニールを開け閉めして温度管理することで、樹が弱らないようにし、じっくり熟したら収穫をする。スイカは特に寒がりで、雌花が咲いても雄花の花粉がないと受粉しないので温度を高めに保つ必要があり、実が大きくなり始めるまでトンネルを外さず保護してやる。長い期間ビニールに守られて、ようやく甘い野菜ができあがる。

このように石油由来の資材のビニールが甘い野菜を作り、そのための高い技術があるから日本の農産物は繊細で美味しいと言われる。

今後は環境負荷に対する農業の問題がますます大きく取り上げられていくことになるかもしれない。牛のゲップ、田んぼのメタンガス、化成肥料、肥料にプラスチックでコーティングする緩効性肥料、そしてビニールハウス。

昔の農家は作れるものを作ってそれを売るのが主流だった。だが、今の農家は消費者のニーズに合わせて物を作らないと売れないということを学んでいる。潮流はどちらへ向かうのか。農家はどう舵を取ればいいのか。



という通信を、今年はメロンやスイカの箱に添えて発送した。

私たち生産者は自分の意思だけでものづくりができるわけではない。

そして、勘違いしてる人が多いけれど生産者は自分の作った物だけで生活ができるわけではない。

昔の農家ならいざ知らず、タンパク質になる鶏、豚、牛は自分で飼うとなったら、地域の畜産農家に配慮しなければ、何かの病気になった時に迷惑をかける。

魚などの魚介類は漁業権もあって、勝手に釣っていいわけでもない。

山林は地主がいるので勝手に入れば違法行為だ。自分の山があったとて、それが生活に活かせるかといったら技術が必要だ。


分業化されたからこそ品質の良い商品を提供できるけれど、それ以外は素人なのだ。

通信を読んだからには環境問題のことなどを知らなかったと農家だけの責任にしてほしくないし、現場の一部や考えを知ることができる品物を手にしていると感じて欲しい。


そういうわけで、私は自分なりの発信をしていこうと思う。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?