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【放送概論風味】::NHK「のぞき見ドキュメント 100カメ」第1弾:ジャンプ編集部

カメラ100台を、撮影期間4日にわたり、漢18人の週刊少年ジャンプ編集部に設置した。撮影スタッフはその場にはいない。通常(というのか、いままでの)ドキュメンタリーとはかなり異なる手法でのアプローチ。
NHKが近年開発した定点観測型ドキュメンタリの「72時間」をいわば空間的に拡張した、と考えてもいいのかもしれない。あるテーマを持って取材し構成するというのではなく、その場で起きていることを映像から発見していくというタイプである。

テレビはお茶の間にあいた窓なのだという定義を随分と前にした覚えがある。何かをしていて、ふと窓を眺めるとそこに季節の移ろいや近所の生活、偶然通りかかった人やながれゆく雲がみえる。いつもの室内での暮らしの中でふと気づく外の景色、それがテレビなのではないかと(その意味ではテレビはもはや「ながら視聴」ではなく「ふと視聴」なのではないかとも考えている)。
だがここでジャンプ編集部へと繋がれた窓は、ふと気がつくとというようなものではない。オードリーの二人にナビゲートされるからではなく、むしろそこで起きていることそのものに引き込まれてゆく積極的のぞき窓だ。それだけジャンプ編集部は面白いということなのではあろうが...。

「今朝かみさんと喧嘩したんだよね〜」
「おまえあれほど優先すべき仕事だっていっといたろ〜」
「仕事できるやつほど嫌われるんだよ。だからおまえは、イイヤツ...」
「は〜なんもおおもしろくねえな〜」
「会議が嫌だよ〜〜」
などという会話が次から次へと出てくる。他人が仕事しているところを覗くのがこんなに面白いものなのかとのめり込むように見てしまう。いやもちろん、精鋭の中の精鋭からなるジャンプ編集部だからだとはわかっている。おそらくだから面白い。優秀な人たちも毎日はこんな感じなのかと。

そして番組には大きな山場が来る。自分が担当している作家の連載の打ち切りが決まったのち、その作家さんのことを同じく彼が担当しているハンターハンターの巨匠、冨樫先生がその才能を高く認めていたことを知る。
「作家にはおれたちには見えてないものが見えている。はやくそこをみつけないと...」
編集者歴が決して短くはないエリートにしてこのセリフである。この一言だけでも100台のカメラを4日間も回し続けた甲斐があるのではないだろうか。

思えばテレビ番組を作るという仕事も同様である。自分という個人が前に出ることはなく、社会の出来事を切り取って紡いで映像にして届けてゆく。さまざまな作家を動かしながらその創作物を紡いでいく雑誌とどこか似ているのかもしれない。読者に視聴者に、どんなものをどう届けるのか。その日々の悩める思いを見事にとらえたといってもいい。
そしてこの番組は、編集者の鼻歌で終わってゆく。
「ネバーエンディングストーリー♪」
悩める思いは終わりのない物語なのだといいたげに。

とてもぐうたらな社会学者。芸術系大学にいるがこれでも博士(社会学)。