風向きが変わったので、退職します。
上司に退職の意思を伝えたのは、ちょうど一週間前のこと。引き止められたものの、わたしの確固たる意思は変わらないと伝わったのか、あっさりと退職が決まった。最終出勤は今月末で、1ヶ月ほど有休消化をした後、正式に退職となる。
ああ。わたしやっと、捨てられるんだ。
新卒で入った会社。最初に退職を考えたのは、もはや思い出せないほど前の話。それをずるずると何年も引きずって、いつのまにか30歳になっていた。
わたしはずっと、捨てられなかった。
事務にしては高い年収も。苦楽を共にした同僚も。安定した会社での安定した立場も。休みを取りやすい環境も、何もかも。
やりたいことや将来的なキャリアを考えれば答えは明白だったのに、それらはわたしを強く引き止めた。安定思考のわたしには、どれもとても大切で、捨てることなんてできなかった。転職活動をしていても、条件が厳しすぎることに対し「何かを捨てないと」と半ば呆れ気味にエージェントに言われた。
けれどそのタイミングは唐突に訪れて。あんなに悩んで捨てられなかったもの全部、どうでもよくなってしまったんだ。
捨てられるときがきたって、直感だった。
決定打は、ない。わからない。それらしい理由はいくらでも並べられるけど、どれも確かではない。
たぶん、そういうときが来たんだってこと。わたしの中の風向きが変わったんだって、そういうこと。あるときから急に、今までと違った風が吹いて。気づいたときには、導かれるまま素直に、それに従って歩いていた。さすがにそんなこと会社には言わなかったけれど(笑)。
ただずっと悩んだ分、心は軽やかで。不安と同じくらいの希望と、根拠のない自信があって。それはまるで旅立ちの日のようで。
どの街へ行こう。どんな景色をみよう。転んだらどうしよう?まあでも、なんとかなるよね。今の環境だって、だいぶしんどかった。次もしんどいかもしれないけどその分、世界の広さを知れるはず。
わたしは旅を愛していて、それは絶対に捨てられないものだから。
今掴んだ風を離さないように。いつだってそれに気づいたときが、一番のタイミング。
世界はそれを愛と呼ぶんだぜ