呪い
夜、眠れなくてこのnoteを書いている。
隣では彼が寝てる。わたしのiphoneの光でも起きないくらい、ぐっすり寝てる。
呪いを解くということ 好きな男の子が改札をくぐって公共のものに、個人の生活に戻っていくのを目で追っていたらその姿が見えなくなってもしばらくその場を動けなくなり途方にくれていた経験を忘れただ安心して暮らすということ まばたきをしても涙が落ちないということ
呪いを解くということ 自室より広い試着室や家賃より高いワンピースのために歓楽街に出かけていく女の子たち 心が体につられる男の子たち 見透かしているということを悟れてしまう瞬間 やたらと震えていたからほどけなかった繋がれた手を思い出す夏 退屈と恍惚が同義だと気付くということ
呪いが、とけたかもしれない。
まだ、はっきりとはわからない。
けれどここ1年以上、わたしをどこかで縛っていた呪いが、いま少しずつ、とけようとしている。そんなふうに、感じる。
友情とも愛情とも言い難いその呪いは、わたしの日常を少しずつ侵していた。少しずつ、ほんとうに少しずつ。
わたしが気づいて足を踏み出そうとしたときには、辺りはすでに水溜りに囲まれていて。
靴が、濡れる。足が、汚れる。踏み出すのを、ためらってしまう。
逃げることができないと、思っていた。
逃げたとしても追ってこられると、思っていた。
あのひとにとって、要らないひとになりたい。
あのひとにとって、わたしが必要である限り、あのひとから逃げられない。
でも、もしかしたらわたしは、いつのまにか水溜りに、あるいはその向こうに、足を踏み出していたのかもしれない。
靴は濡れるし、水は足を汚すけれど、そんなことにも気づかないほど夢中で、駆け出していたのかもしれない。
あなたが欲しいのは、空っぽのわたし。踏み出せないわたし。か弱い女の子のままの、わたし。
水溜りなんて、なんでもないものなのに。きっと、踏み出せないと思い込んでいただけ。
わたしたちは、ずっと前に死んでいたんだ。あなたも、わたしも、気づいていなかっただけで。
生きている 生きていく
生きてきた 愛の隣で
わたしたちはいつか死ぬのよ
夜を越えても
-呪いは水色(大森靖子)
あと少し。もう少し。
靴を乾かして、汚れた足を拭くことができる日がくることを、信じている。