異業種に転職して思うこと。
働き始めた。仕事は楽しい。前職と違うのは、昨日よりできることが増えた、と思うことが少ないこと。
本を読んでいて、この業界は先輩は外回りで忙しく、仕事が専門的な内容であるため、新人が育ちにくいとあった。働いている実感としても、1年経っても仕事の流れはよく分からないだろうなと思うし、先輩同士の会話はほとんど理解できない。
試験勉強だけでは実務で使う知識の濃淡は分からない。
法人税法の方が消費税法より覚える条文は多いのに、実務で使う割に怖い税法は消費税法だと知った。
相続税法をかじっているぐらいでは相続は任せてもらえるものでもなく、客層も高齢なため、若造が出てもよろしくないのでは?と思う。私に相続税法は100年早かったのかもしれない。
私の勤め先では、20代から60代までまんべんなく働いている。ブラック企業の特徴である新人とベテランのみで構成されているわけではなく、どの年代も在籍しているし、働きやすい職場なんだと思う。
個人的に驚いたのは、今の職場で怒号を聞いたことがないこと。誰も怒らないし、叫ばないし、威圧的な態度を取ってきたりしない。
前職がそうだったわけでもないのだけど、威圧的な態度には遭遇していた。そもそも税法を知らない人に説明する仕事だからか、分からない、知らないことを揶揄されたりしない。とにかく理不尽さが無くて驚くばかり。
頭が良く、キレたり圧を加えて場を制圧しようとする人がいないと、こんなに穏やかな職場になるのかと、勉強になる。こんな働き口はそうそう見つからないと思う。運が良かった。
それと同時に、専門職として働くことに思うこともある。
一介の店長として働いていた頃は、とにかく数字を上げるのに必死だった。昨日は予算達成しても、今日の売上は分からない。とにかく数字を上げるために毎日売場を走り回っていた。
そんな人間が出したであろう数字が、今の仕事ではスタート地点。働き始めて1週間くらいは、すごく高みから依頼主を見ているような気がした。
私は勘違いしていたのだけど、税理士はあくまで、依頼主が出した結果を元に、申告する数字を正しく出すのが仕事であって、売上そのものを向上させるために動くのは、コンサルの仕事だということ。
現場でどれほどの思いで働いても、私のもとに届くのは入力する数字だけ。ラクとは思わないけど、良いご身分になったねぇと、自嘲してしまう。
現場の缶コーヒー代が福利厚生費として計上されているのを見て、胸がギュッとなった。現場の人は本当に頑張ってるなぁと、会ったこともない人に、数字を通して思いを馳せてしまった。
話が飛躍しすぎかもしれないが、現場の人間がどれほどの労力を使って毎日駆けずり回って、死ぬ思いで働いているか、机の前で入力するだけなら絶対に分からないと思った。
政治家が国民の働き方を正しく捉えられないのは仕方ないのかも、と思うぐらいには、専門職とそうでない仕事の働き方は全然違った。
見方を変えて、簿記を入口に、専門知識を少し持っただけで、新人でさえこんなに立場が違う働き方になるのかと、資格の強みを思い知る。
しかし、売場を走り回っていたら1日が完結した頃とは違い、今の仕事には締切があり、訴訟のリスクもはらむ。弁護士も、司法書士も、社労士も、急に身近になった。この重さが、前職には無かった。
求められるスキルも真逆。前職は頭の良さより、声が出せるかどうか。とにかく体が動くことが第一。
声は普通でいいけれど、どれだけ知識があって、それを知らない人に説明できるか、正しく申告の処理ができるか、それが、今。
どっちの仕事も、大変なところや楽しいところがそれぞれある。向き不向きも。私はどちらの仕事もすごく得意ではないけれど、この仕事が好きだと思って取り組んでいるところは変わらない。
まとめると、前職も今の仕事も、超楽しい。ただ、今の仕事の方が、体的に長く続けられるのは事実。合格まで届いてなくても、国家試験の勉強をすることにして本当に良かった。
人生が80年以上あるなら、10年くらい試験勉強で潰れても、いい暇つぶしになるのかもなぁと、不合格まっしぐらなことを考えている。