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満開の桜に背を向ける。自分との約束を守るために。
やわらかい日がさして、暑くも寒くもない今日。
満開まであと少しと、アクセルをブンブンふんでる桜の木々を横目に、私はカラオケルームの扉を開けた。自分との約束を守るためだ。
いま、私は週に一度、自分ひとりで"挑戦"する時間を作っている。
一時間でもかまわないから、週に一度、新しい体験や、ずっとやりたかったけれどできていなかったことをやる。予定を立てたら、できるだけ動かさない。そして、一人でやる。
気楽にできそうな条件に思えるのだけれど、これがまあ、難しかった。
予定を立てたはいいけれど、やりたいことや行きたい場所が、出発の直前まで変わる。せっかくだからと息子も連れていき「育児の時間」に変えてしまう。そんなふうに、グラグラしてしまうのだ。
こんなふうに予定がくずれると、いろいろとうまくいかない。
息子と行くと「"大人の私"と遊ぶ予定だったのに、息子にとられちゃった」と、心の中にいる小さな私を傷つけてしまう。
よかれと選んだ「お出かけ先」も、神社仏閣や工場見学など、私の趣味全開の場所ばかり。先日、とある場所に行く朝、ついに「…僕は行きたくない」と小さな声で言われてしまい、深く深く反省した。
息子にも、小さな私にも、どちらにも無理強いをすることになる。
だからこれからは、自分ひとりで出かける時間と息子と出かける時間を、明確に分けようと決めた。
それでも、今日も、揺れた。
息子を何度も「一緒にカラオケ行く?」と誘う。悩みながらも息子は、首を横に振った。
今度は行き先を迷う。こんなにいい天気なのだから、桜も満開なのだから、京都の名所に出かけたほうがいいんじゃないか。そろそろ、伏見稲荷大社のお山にも登りたい。それなら、息子も一緒に行くのかな?
さんざん迷って、私は、満開の桜に背を向けた。
ちゃんと一人でカラオケに行き、リュックを下ろし、リモコンの液晶画面を見た。
気づいたら一時間、ノンストップで歌っていた。WHITE BREATHとサウダージを熱唱していた。めちゃくちゃスッキリした。
そうして、いまこのnoteを書いている。
カラオケルームは、コンセントもドリンクもある。個室だから人の視線にさらされることもなくて、とても落ち着く。
部屋は、だいだい色の落ち着いた光量のライトで照らされている。窓はない。外の桜も見えないどころか、昼夜もよく分からない。
けれど、いま、私はとても充実した気持ちでいっぱいだ。感動すらしている。おそらく、私の中の小さな子どもが喜んでいる。
いまこの時を咲き誇る桜よりも、息子よりも。
約束を守るべき、一番大切なひとは、あなた。
そう自分に知ってもらうためにも、この習慣は続けていこうと思う。