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我が家もついに来た、体内記憶のはなし

5歳の息子が、ついに体内記憶の話をしてくれた。

そんな話をする子がいる。

おなかの中にいたときの記憶がある子がいる。

聞いてはいたし、以前何度かお風呂でゆったりしているときに、さりげなく話をふってみたりもしたけれど、ふにゃふにゃとあいまいな言葉しか出てこず、そんなものかなと思ってました。

けど、今日は表情豊かに、しっかりとした口調で話してくれて。

そのことを、書いていこうと思います。

きっかけは、私を待つ息子が、寝室のドアから顔だけ出して床に寝転んでいたこと。

「ちょっとー、首だけ出てたから、驚いたよ」

そういうと、「かみさまかと思った?」と聞き返してきた。

どうやら「幽霊みたい?」と言いたかったみたいだけど、そんな風に言ってきたから「神様、見たことある?」と返してみた。

「うん、あるよ」

そういって、息子が話し始めてくれたのは、どうも「お空の上の世界」の話のようでした。

「ぼく、おきなわにいったことがあるよ。ホテルにとまったの。ベッドも枕も、みーんなピンクのかわいい部屋。ごはんはタダ。ももとか、りんごとかなしとか、くだものもいっぱいあってね、海があって、その上にアスレチックがあったから、遊んでたよ」

「めちゃくちゃ楽しそうだね!他に誰かいた?」

言葉がどんどん出てくるから、私も息子が楽しく話せるように、食い入るように聞いて話を促してみると。

「そうしたら、パパのともだちと、ママのともだちが、あいにきてくれた。それで、パパとママと三人かぞくになったんだよ」

「神様は、いたの?男の人?女の人?」

「かみさまもいたよ。おんなの人。スカートもはいていたし、けっこん...のときの服も着てた」

「うん、ドレスかな。きれいな人?」

「きれいなひと。...ママも好き?」

「うん、きれいな人は、ママも好きだよ。そしたら、ママのおなかの中のことも、知ってる?」

「しってるよ。なんか、ももみたいな感じだったよ」

「うーん、なるほどね」

そして、息子は驚くような話を始めて。

「おなかのなかにはね、がんがあったんだよ」

「え?がん?」

「びょうきだよ。それを、ぼくはぱくっとたべちゃったんだよ」

けらけらと笑いながら、話を続ける息子。

「ふたつに分かれてたから、ひとつずつたべたよ。おいしかったよ」

「がんって、どうしてそんな言葉、知ってるの?」

「テレビで言ってたよ」

我が家はほとんどテレビはつけないし、見ても笑えるバラエティばかりだから、がんという言葉を息子が知っていたことに、本当に驚きました。

「がんは、いらないものだから、たべちゃったよ」

「じゃあ、ママのおなかのがんを食べてくれたから、ママは元気なの?」

「そうだよ」

「...まだ、おなかの中にある?」

そう、実はその時私は、しくしくとおなかが痛かったんですよね。だから、本当にびっくりしました。

ずっとふみとどまっていた胃カメラ、いよいよか...ていうか、明日内科にいこうかな...そんな風に悩んでいたほどで。

まさか、とか、子宮と胃の位置はちがうし、とか、いろいろなことが頭をめぐったけど、聞かずにいられませんでした。

「え?もうないよ。たべちゃったから」

息子はからりと答えます。

「そうなんだ...」

「おなかからでてくるときも、いたかった。たいへんだったんだよ」

「そうだろうね、分かる分かる」

「おしりから出てくるのは、むりって思った。だからあたまから出てきたよ」

ふぅ、と肩で息をつきながら、眉をしかめる息子。

「そういえばね、生まれてきたとき、えーんって、泣かなかったんだよ。それは知ってる?」

息子は数日保育器に入るほど、低体重で生まれてきて、出産の瞬間も泣き声をあげませんでした。先生方のケアのおかげで、無事に泣いてくれましたが、その数十秒が私にはものすごく長く感じられて。

こっちの世界にちゃんとおいで、大丈夫、世界は楽しいよ、おいで。

そんな風に、出産直後へとへとになりながら、ぐわーっと祈ることしかできませんでした。

そのあたりのことは覚えているのかな?と思って聞いてみたところ、息子は笑顔で答えました。

「ああ...あんしんしちゃったんだよね」

「...あ、そうだったんだ」

”一仕事”終えた息子は、安心してしまったそうです。。

「そうなんだ。ママの病気をとってきてくれて、ありがとう。そんなことして、赤ちゃんは大丈夫なの?」

「だいじょうぶだよ」

「そのおかげで、ママは今も元気なんだね。ありがとう」

そんなことを言って頭をなでると、息子は両手を伸ばし、私を抱きしめてくれました。

その後、眠りについてしまった息子。

明日、同じことを聞いて、同じように答えてくれるかは、分かりません。

この話も創作かもしれない。夢を勘違いしているのかもしれない。

でも、私が言うのもなんだけど、息子にそこまでのボキャブラリーはないし、私に「嘘をついて甘える」とか、そんなことをするとは考えにくくて。

あまりによどみなく話してくれたから、私も驚いていて、記憶が新鮮なうちに書いておこうと思いました。

息子の言葉に勇気づけられたものの、とりあえず、まだ痛い胃をさすりながら、明日内科に行こうと思います。

胃カメラも、予約しよう。恩人を、まだまだ育てていかなきゃいけないんだから。

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