Kan Sanoピアノライブ──ただ I MA、有楽町でI’M A SHOW
Kan Sano Solo Piano Live 2023 “ただI MA" を、 有楽町のI’M A SHOWで。
幼い頃とはすっかり様変わりした銀座有楽町。
有楽町マリオン別館7FのI’M A SHOWは、2022年12月1日にオープンしたばかり。「有楽町で逢いましょう」からのネーミングが粋。内装もお洒落で、大人の銀座を感じる。
昨年のCRAFTROCK CIRCUIT。会場に満ち満ちた熱を浴びてまだ冷めやらぬまま、ライブ活動休止の報を目にしたのをよく覚えている。
あの時から、静かにゆっくりとただ待っていた。ずっと。思っていたよりもはやくその日が来て、Kan Sanoさんは折りたたみ自転車に乗ってあらわれた。
オフマイクの「ただいま」に向けられるあたたかい拍手。「おかえり」の声。はにかむような笑顔。
Kanさんの大好きな赤でまとめられた私物コーナーは、リラックスの場所。グランドピアノは仕事場。座席まで赤くてテンション上がる、なんて笑って。
お馴染みの「My Girl」ではじまり、ともさかりえさんと一緒に作った「Play Date」、そして「Flavor」と続く。「旅の途中」の歌詞がしみること。ピアノ弾き語りもピアノソロも、素晴らしい。
リラックススペースのギター弾き語りでは、フィールドレコーディングだろうか、リリリと虫の音が安らぎを添える。子守歌のように穏やかな「きらきら星」から、お友達のお子さんご誕生によせて作ったフォーキーでかわいい楽曲「朝子のうた」、わたしの大好きな「Stars In Your Eyes」へ。まるで夜空のもとで聴いているよう。
積もる話があるんですよ──と語られる近況。久々に会った旧い友人に話すように、ところどころで問いかけもしながら。
──最近ライブに行ってる?声出しあり?世間はおさまった雰囲気だけど、まだ続いているような気がしているんだ。
抱えたつらさやどう過ごしてきたのかを、時に茶目っ気あるポーズを交えては深刻になりすぎないように。言葉をほぐしながら紡いでいるのがこちらに伝わってくる。
Shin Sakiuraさんが美味しい焼肉に誘ってくれたこと。「崖の上のポニョ」の舞台となった、広島・瀬戸内の鞆の浦に行ってきた話。撮影で公園だと言われて編みサンダルを履いて行ったら、森のような場所で虫に22箇所も刺されたこと。それでも第二弾で群馬に行ったこと。心療内科の話、そしてカウンセリングの話。心理士である母親の仕事を、あらためてすごいと思ったこと。
体力をつけるためにはじめたプランクは、実演も。「やばい!」の声に、だんだん速くなっていくカウント。ホースみたいな楽器、赤いハーモニーパイプを振り回すさまの楽しそうなことといったら。
──ライブ、「そんな上手くないし」と凹んで「大丈夫だよ!」って慰められながら曲やって、40分で3曲とかでもいい?
いい。車座で積もる話をゆっくり聞くのでも、必要としてくれるのならばわたしはそこにいるだろう。
インスタライブやストーリーに度々アップされてきた練習、特に他人の楽曲をカバーすることがメンタルによい影響を及ぼしていたとの話に、なんだかうれしくなった。もしかして・・・・・・とは思っていたけれど、おかえりの時までの帰路を見せていただいていたんだな。
Kanさんが休養中によく聴くようになったラジオ。J-WAVEで出会ってお気に入りになったRungHyangさん「Trapped」と阿部芙蓉美さん「highway,highway」の2曲。
生はこれまで以上に魅力的だった。いつか「いかれたBaby」のように何かにおさめられたらいいなと思う。
本編ラストの「Pマママ」、客席をも照らす幾つものやわらかく白い光が「ひとりひとりが大切で、ひとりひとりが音楽」と言っているかのようで、視界がじんわり滲んでいった。会場のあちらこちらから降り注ぎ、横を通り抜けていく音たち。ハッとして思わずそちらを見やる。音の主がそこにいなくても、たしかに息づいている。あれはひとつの祝福のかたちだったと思う。
アンコールに「瀬戸際のマーマレード」、そしてこの日ラストに奏でられた曲はやはり「Natsume」だった。
素敵なことの具現化、ただいまの場所にいられて良かった。ライブアレンジに歌に、心が打ち震えた。
Kan Sanoさん、おかえりなさい。いずれまたI’M A SHOW。