natsume
オリオン座の3つ星が1つ消えてしまった あの日、滝鳴街は地下に移された。 kの住む町では大きな雨音が辺りに響き、 道にはいくつもの水たまりが出来ていた。 あのとき夜の中で目が合ってしまった。 いつも何かに見られているような 夜の気配はどんどん濃くなっていく。 ひっそりと身を潜め 沈んでいた物が次々と浮かび上がってくる。 背後に引きずるような影を抱えて歩く人。 笑っていたが影はずっしりと重たそうだった。 kは夜に出歩くことが好きではなかった。 大きな目玉は闇に浮かび
竜が人間界に銀河の風をはこんでいた遠い昔。 少年は竜の背に乗って様々な空を旅した。 竜の背中から観る世界の広さに 空の大きさに胸は高鳴った。 頬にあたる風の冷たさを手のひらにそっとのせてみると 風は少年の手の中でさらさらと消えていった。 遠くの高い空から世界を見渡し 精一杯目を見開いてみたのだけれど 少年の小さな瞳には広い世界の一部しかみることができなかった。 すると竜は 眼のずっとずっと奥の方から見てごらん。 正面から見るのではなく後ろの方からみるんだよ。 そうすると世界
22175 右目が見えなくなった11歳の誕生日の夜に楓は現れた。 月が綺麗な夜だった。 カーテンの向こうがわは月明かりに照らされ ひっそりとしたシルエットがポツンと浮かんでいた。 「楓だよ」 楓が姿を現したとき ジャスミンの香りが遠くからしていた。 楓の現れた翌朝は 部屋のあらゆる物が壊され荒らされていた。 その後しばらくの間、楓は姿を見せなかった。 月が半分に欠けた晩、楓はまた何時ものようにやって来た。 「双子座流星群がそろそろ落ちてくる頃だよ。」 楓は岬の手
学校の帰り道、細い路地を入ると右側に少し傾いたとても古い家がある。今にも崩れてきそうで、かつては白かったであろう壁には苔がびっしりと生え、雑草だらけの庭にはいつもたくさんの猫がいる。 ちょうど通りに面している家の縁側にはいつも猫と猫じじいが一緒に座っていた。 なつこたちの帰る頃、縁側に座りたくさんの猫たちに囲まれ「おかえりー」というのである。 手にはいつも猫の絵が描かれた缶詰がある。 今日は朝から雨が降っていた。じめじめするし、なつこの頭は爆発していた。
私であることもすっかり忘れて 真っ黒な空間をプカプカと浮いていた。 何度も何度もそのチャイムは鳴り続け、 とうとう翔(かける)は目が覚めてしまった。 マルコポーロ荘は壁が薄いのだ。 そんなにならすと隣の八さんからまた苦情が来る。 八さんは翔の部屋の隣に住んでいる白い猫だ。 以前、翔がここに引っ越してくる前に住んでいたタンバリンの男は 帰って来ても、出かける時も、鍵をかけるときも、 とにかくタンバリンを鳴らしていた。 更に昼間はタンバリンの道を究めるため、猛烈な練習を繰り
南十字路珈琲 しんしんと雪の降る寒い夜だった。 山小屋は暖炉で暖められ、Kは珈琲を飲みながらゆっくり椅子に座り 本を読んでいた。 「コンコン」とドアをノックする音が聞こえる。 ドアを開けてみたが誰もいない。 そこには真っ白な銀色の世界があるだけだった。 「あの...」 かすかに声が聞こえる。 「あの、、、、私の話をきいてください」 と足下から声が聞こえてきた。 みるとkのふくらはぎくらいまでの小人だった。 山での隠遁生活が長すぎて 目の覚めた夢でも見ているのだろう
さなぎを育てよう! さあ、あなたもさなぎで快適生活を手に入れよう! 春子は駅前のスーパーで配っていたチラシを見ていた。 さなぎセット大特価と書かれたチラシには、 いろんな色のさなぎがあった。 だいたい、1メートル前後のさなぎだが中に入ると驚くほど広い空間が広がっているのだという。 春子がチラシをまじまじ見ていると、 「お客さん、さなぎの素質ありそうだわー」 とチラシを配っていた女性に話しかけられた。 その女性は40代半ばぐらいに見えた。小柄で、ふっくらしており、 ほほ骨が
空は重たい雲でとうとういっぱいになってしまいました。 人間達の心からはみ出した感情は 吐き出す息と共に煙となり モクモクと空に上昇していくと雲にまとわりつきました。 空の隙間は埋め尽くされ ギューギューという何かをひねり上げるような 不気味な音と稲光が空を走っていました。 世界の時間も空に合わせて走り 早送りの時間の中で 人間達はあっという間に年を取り死んでいき 次々に新しい命が誕生していきました。 空がもうこれ以上満杯になると世界に落ちそうだというので 月は世界の時計
どこまでも青く深い紺のネイル この色を見ているとまるで自分がどこか遠くへと深く潜れたような気がしてくる。 気がつくと時計は12時をさしていた。 いつもの眠る時間を超えていた。 「寝なくちゃ。明日も仕事だ。」 kは昔からそうだった。気がつくといつまでもいつまでも深い青を眺めてしまう。 明日で5連勤が終わる。 最近は3日目あたりから体の疲れがとれにくくなっている。 明日は仕事の帰りに銭湯へ行こうと思った。 家で入るよりも、銭湯の湯に浸かるととてもスッキリする気がするのだ。
拝啓 k様 お久しぶりです。お元気ですか? 毎日暑い日が続いていますがいかがお過ごしですか? 昔は梅雨も雨もそんなに好きではありませんでしたが 灰色の空をみていると だんだんと梅雨の時期が好きになりました どんより重たい雲も雨の降る音も ほんのり薄暗い景色も少し落ち着きます あじさいの花がとても好きで 梅雨時期には沢山のあじさいを見ていました 映画も見たくないし 本も読みたくないし 旅にも行きたくないし 目標や夢も特にないのだけれど この世界に沢山の花を植えて 邪
寝袋の中で寝ていると 2匹の猫が入ってくる。 kは寝袋で眠るのが好きだった。 寝袋に包まれていると落ち着くのだ。 その日は雪の降るとても寒い夜だったので kは顔も全部寝袋に入れて お腹を隠すようにくるまって寝ていた。 しんしんと雪の降り積もる音が 部屋の中まで聞こえてきた。 すると何時ものように猫も一緒に入ってきた。 kの家には2匹の猫がいる。 1匹は額にmと書いてあるキジトラ柄の猫で名前は寅。 もう1匹は真っ黒な猫でしっぽが2つに分かれている名前は黒。 黒のほう
kは毎日星を食べます 空に手を伸ばし 一つ一つ星をつまみます kが星をほおばると 星のしずくがさらさらと 口からこぼれていき 宙には無数の星のくずがキラキラと舞います 星屑達は集まって また一つの星になります kがまた一つの星を食べようと 手を伸ばすと うっかり落としてしまいました 落ちていった星は湖の底深くまで潜っていき ぼう ぼう と水の中から発光しています 湖の発光を宙から見ていたkは ひょいっと雲から降りて湖に飛び込みました 湖の中はひんやりと
掃除が終わったあとkは 床に寝転がります 床はひんやりしていてとても心地が良いのです しばらくぼんやりした時間を過ごします すると足下の方に何かがひょっこり顔を出しているのが見えました その何かは何なのかkには初め分かりませんでした 丁度kの足のサイズと同じこびとのようです ひょっこり顔を出したり隠れたりしながら kの様子をうかがっています kは心地よい睡魔に襲われそのまま すやすやと眠りにつきました 窓からは気持ちの良い風が吹いています 風鈴の音も聞
町が海になった 海の中をさまよう スローモーションの人影 空にはいくつもの青と黒のグラデーションが出来ていた 自然に呼吸が出来ているのは酸素ボンベがあるからだ 世の中が海になる前に 人々に配られたものだ 酸素ボンベは思ったよりも軽い kがいつも行っている商店街の入り口には コンビ二がある コンビニの中には 酸素ボンベが積み重なっておいてあった。 酸素ボンベには ピンクと青があった それを耳につけるのだ いやカーフのようになっていて それをつけるこ
kはコンコンと眠っていました kが眠ってからというもの 毎晩のように7人のこびと達はkの元を訪れます まずkの顔のパーツを一つ一つはずして 目、鼻、口を ベットの脇に置きます そしてkの顔を白いタオルで拭いていきます キュッキュッキュッ と音がなり kの顔はピカピカになりました そしてこびと達は慎重に一つ一つのパーツを kの顔に戻していきます 1ミリのずれも許されない慎重な作業です 顔のパーツの作業が終わると 安堵のため息が聞こえてきます 今度は
本当の青 青の向こう側 青のこちら側 何かのいろ 何もない色 不確かな匂い 染みついた匂い 五感をそらにほおむった 宙に浮き 地球にキスをする 月が照らす 闇夜の海 熱帯の茂み かすかな香りを漂わせながら 風鈴の音をきく 夏のおと めまいがする熱気 意識が遠のく かすかな木漏れ日の中 うたた寝をする なつのおわり