捨て猫
「起きた?」
真上から降る言葉に私は咄嗟に疑いのフィルターをかけた。
「誰」
「覚えてねえか」
そう言う彼はため息を零した後、続けた。
「拾った。捨て猫みてえにボロボロでか弱い女が泣いててほっとける訳ねえだろ」
「お前の過去も知らないし、どうしてそうなったかも聞かない」
彼はこちらに話しているにも関わらず、キッチンへと向かう。
「お前も来い。仮に辛い過去があったとしても、もう変えてあげらんない。だから俺と一緒に楽しい思い出なり作って、その過去薄めればいいだろ」
彼のいるキッチンへと足を進め、私は彼からエプロンを掛けられる。
「うん」
嘘偽りない彼の笑顔は、私を本当に捨て猫かのように優しくゆっくりと包み込んだ。