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越えられなかった国境

8月に入ってから、カンボジアでは、全土の新規感染者数はいくらか減少しています。本日8月5日の新規感染者は591名、総感染者数は80,225名です。(カンボジアの人口は1,700万人ほど)。数値上の減少の理由ははっきりしていて、7月29日23:45に、タイと国境を接する7つの州+シェムリアップ州をロックダウンし、国境を封鎖したからです。

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それまでの1週間ほどは、「輸入症例」というのが連日300名ほどカウントされ、そのほとんどが、陸路タイから帰国する出稼ぎ労働者(英文では migrant workers=移民労働者。日本の技能実習生制度のように、両国の取り決めの元に正式な労働ビザが発給されていたのですが、実際にはブローカーを通じた違法就労者も多かったようです。)たちから確認され、デルタ株も相当数確認されています。

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カンボジア政府は、すでに4月のクメール正月の前から、移民労働者たちに帰国しないよう呼びかけていたようですが、この時期から、すでに帰国ラッシュは始まっていました。タイ国内でのcovid感染が広がり、バンコク周辺の建設現場が政府によって閉鎖され、職を失ってしまった労働者が大量に出てきたからです。また、感染の恐怖から逃れて自国に帰りたいと思うのは、合法非法を問わず当然のことでしょう。

タイの非政府組織「NGOモニター」は、タイに滞在しているカンボジア人移民労働者のうち、9000人ほどがcovid に感染している可能性があると発表しています。(7月21日付け)

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7月29日深夜に国境は閉鎖されました。そのニュースを知って、実は、私はとても気になったことがあるのです。

一般的に(私の経験上からは)、陸路で国境を越える場合、例えばタイからカンボジアに越える時、まずはタイ側のイミグレーションで出国手続きというものをします。出国手続きというのは、もう出て行く方だから普通はとても簡単で、パスポートと申請用紙さえあればほぼ自動的にポンッと出国スタンプを押してくれて完了します。陸路の場合、ひとりひとりスーツケースを開けるということもありません。

その後、タイのチェックポイントを出て、しばらく、多分5分くらいとか歩いて、今度はカンボジア側のチェックポイントで入国手続きをします。カンボジア国民の場合は比較的簡単だとは思うのですが、それでも荷物検査はあるでしょう。何か非法なものを持ち込まれては困るからです。入国検査にはかなり時間がかかります。

国際法上、どういうことになっているのかわかりませんが、この、タイの税関を出てから、カンボジアの税関に入るまでの間の空間(場所)というのは、もちろん様々なケースがあるでしょうが、私の経験上からは、けっこうな距離があるのです。

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私が気になったのは、今回のように突然国境が閉鎖された場合、この無国籍の空間に取り残される人々が出てくるのではないか?ということです。タイ政府とカンボジア政府がきちんと連携をとっていれば、問題はないのですが、やはりお互いが‶外国″だし、そもそも両国共に、‶感染予備軍″の労働者たちは、言葉はきついですが、いわば‶お荷物″のはずです。タイが出国スタンプを押して‶追い出した″人たちが、時間までにカンボジアの入国手続きを無事に完了することができるのだろうか?

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私の危惧はあたっていました。8月2日の Khmer Times に、次のような記事が出ていたのです。

〈 Hundreds of Cambodians stranded at border after border closure implementation 〉

「国が国境閉鎖を実施し、国境のパトロールが強化されているため、何百人ものカンボジア人がタイとカンボジアの国境で立ち往生し、帰国する方法がない。カンボジア人は、タイでのパンデミックと失業から逃れようとしたけれど、けっきょく国境が閉鎖されたのを見ただけだった。

バンテアイメアンチェイの共有国境の視察中に、第5陸軍師団のセンテアリン少将と第1大隊の司令官であるチュンマオ少将が地元に語ったところによると、国境地域を閉鎖する決定は、Covid-19ウイルス、特にDelta株を国内に持ち込むカンボジアの移民労働者の流れを食い止めるために行われた。

閉鎖後、少将は10人のカンボジア人移民労働者がカンボジアに忍び込もうとしたが、彼らは国境警備隊に逮捕されたといった。カンボジア当局はまた、何百人ものカンボジア人労働者が立ち往生し、タイ国境に沿って眠っていると報告した。」

hundreds of Cambodian workers were stranded and are sleeping along the Thai border

この、along the Thai border というのは、おそらくは上に書いた、‶無国籍地帯″ではないかと思われます。確実に何人かの感染者を含むであろう人たちが、自国への入国を拒否されて、密な状況で不安で危険な夜を過ごしているのです。家族連れで行く人たちの中には、幼い子ども達もいることでしょう。

タイ 出稼ぎカンボジア人労働者

タイには200万人の移民労働者がいて、その多くがカンボジア人といわれています。もちろん国境の検問所はここだけではなく、いったい何か所あるのか?とにかく膨大な数の人々が今まさに‶棄民″されようとしているのです。一刻も早く救済の手を差し伸べなければ、巨大なクラスターが発生するのは目に見えています。とにかく早く、速く、速く。

7月31日付けの Khmer Times によると、WHOが〈カンボジアはいま、危機的な状況にある〉という声明を出しています。「移民労働者によるDelta株の持ち込みによって、戦場はいまプノンペンから地方の国境地帯に移動している。我々は新しい亜種と競争している。我々は今日行動を起こさなければならない。明日後悔しないために、今すぐ迅速に行動しなければならない。次の2週間がカンボジアの covid-19 との闘いにとって最重要となるだろう。」

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この声明を受けて国境封鎖がなされたものと思われますが、日本のように隣国と国境を接していない国と違って、アセアンの他の国々、インドネシアやタイ、マレーシアの状況は、直接的に自国に深刻な影響を与えます。加えて、医療のレベルが格段に劣っており、プノンペンを除けば、重症化したらほとんど手の打ちようがないのが現状で、自国の民を守るために、自国の民を切り捨てるという悲劇的な事態を招いているわけです。

上の記事を見てから3日がたっていますが、今のところその後の状況を知らせる記事は見当たりません。国境で立ち往生している労働者たちの密入国を防ぐためにも、少なくとも、国境地域にたとえテント張りでも隔離施設を設けて、自国民に最低限必要なケアを与えるのが、国家の国民に対する‶礼儀″であろうと私は考えます。

現在は中国製ワクチンの接種を急いでおり、5日現在で、全国民の48.16%が、少なくとも1回目の接種を終えています。12歳から17歳の接種もすでに始まりました。8日からは、タイ国境地帯で任務に就く人々を対象に、アストラゼネカのブースターの接種が開始されます。中国製を打ちたくない人のために、ファイザーとモデルナの輸入も決まっており、これは有料接種になるようです。

8月5日現在、Delta 株の市中感染は全国で300例を越えていますが、プノンペンのパスツール研究所では最新の機器を導入し、臨床検査は2時間未満に絞り込むことが可能になったそうです。

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中国をはじめとして、イギリス、アメリカ、日本からもCOVAXによるワクチン供与が続いています。今夜には日本からアストラゼネカ製 668,000本が到着する予定です。日本のみなさんありがとう!

さて、シェムリアップですが、国境封鎖が行われても高止まりは止まず、連日100人近くの感染者が確認されており、州の南部はレッドゾーンに指定されたままです。先週には、私の部屋から歩いて行かれるところで、50代の男性がひとり亡くなりました。

私もいくらなんでもレストランを改造した隔離所には入りたくないので、‶正しく恐れ″、日々健康管理に気をつける日々を送っています。それでも、他にすることがないからタバコだけは止められないです。

*写真は Khmer Times と Bangkok Post より。



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