シジュウカラはなぜParus cinereusになったのか
シジュウカラは、森林によく見られる小さな鳥です。
近年、文法を有して会話しているという研究で注目されました。
今回はシジュウカラの分類の話です
シジュウカラの学名が変更されて腑に落ちません!
2024年に日本鳥学会より日本鳥類目録改訂第8版が出版されました。
ここで、シジュウカラの学名が以前と変わっています。
Parus cinereus
P. cinereus はもともと「クロシジュウカラ」という和名がついており、今回の改訂ではシジュウカラとクロシジュウカラが同種扱いになりました。
(cinereus は灰色の意)
個人的な話をしますと、シジュウカラの学名は私が最初に覚えた学名のひとつでした。学名が載っていたのは、小さい頃に買ってもらったニューワイド学研の図鑑。私が生物に興味を持ち、今なお専門でいるきっかけとなった本です。
私が持っていたのは2005年のもの (第12刷)。当時の学名は Parus major でした。ラテン読みすると パルス・マーヨルです。小学校低学年の時はローマ字読みしていたのではないでしょうか。
その後しばらくして、いつのまにやら学名が Parus minor になっていることを知り、major (大きい) と minor (小さい) じゃ逆やんけ!と思いました。
シジュウカラ種群の系統
シジュウカラ種群(Parus major Group)はユーラシア大陸に広く分布し、30-40程の亜種から構成されます。
このシジュウカラ種群を何種に分けるかについては様々な議論がされてきました。ゲノム解析では200万年前までに分岐した3-5のグループを含むことが示され、複数種に分けることが妥当だろうと考えられるようになりました。
Song et al. (2020) では改めて多くの地域からのサンプリングに基づいて複数のゲノム領域の解析を行い、5グループを示しています。その結果は、
まず東西で大きく分かれ、西 (Great Tit: ヨーロッパシジュウカラ) は中央アジアの腹が白い個体群 (地図中の赤紫) とそれ以外 (地図中の橙)。
東は東アジア (青)、南アジア (赤)、東部ヒマラヤ (緑) の3クレードに分かれました。
実はこの結果、これまで提唱されてきた亜種グループと一致しない部分がありました。
これまで言われてきた5クレードと Song et al. 2020 の5クレードを比べると次の表のようになります。
Vaurie’s (1959) の提唱していた P. cinereus と P. minor の区分はゲノムによる5区分と一致せず、 P. cinereus の基亜種と P. minor の基亜種がどちらもEA (East Asia) グループに入りました。
西側は良いとして、東側の2種の概念が崩れたわけです。
よって P. cinereus と P. minor は同種と見なされることとなりました。Japanese Tit が消えて残念!
Asian Tit は一種類が妥当なのだろうか
P. cinereus の基亜種と P. minor の基亜種がどちらも東アジアグループに入ったことにより、Cinereous Tit (クロシジュウカラ) と Japanese Tit (狭義シジュウカラ) が統合されて Asian Tit になりました。
とはいえ Asian Tit は東アジア(EA)、南アジア(SA)、東部ヒマラヤ(EH)の3クレードを含むことから今後またsplitする可能性はあります。
しかしながら P. cinereus の基亜種はジャワ島と小スンダ列島に生息するため、P. minor の基亜種と同じ東アジアグループに入ることは確実で、Japanese Tit (P. minor) が復活することは無さそうです。
ヨーロッパから東アジアまで分布する Great Tit の分布が広いことと、東アジアの3系統の近縁さを踏まえて Asian Tit を一種としているのではないでしょうか。
eBirdへの記入(2024時点)
eBird の2024年の分類アップデートでは、南アジアクレードと東部ヒマラヤクレードの対応が曖昧になっており、それぞれ Cinereous と Japanese のグループに含まれています(そのうち変更されるでしょう)。
日本では亜種シジュウカラ (Japanese)、亜種アマミシジュウカラ (Amami)、亜種オキナワシジュウカラ (Okinawa)、亜種イシガキシジュウカラ (Ishigaki)の4系統が採用されています。
もし日本において亜種レベルで記録する際は場所(島)によって選ぶことになります。
というわけで、シジュウカラは Asian Tit 𝘗𝘢𝘳𝘶𝘴 𝘤𝘪𝘯𝘦𝘳𝘦𝘶𝘴 になりました。
お見知りおきください。
参考文献
Gang Song et al., Great journey of Great Tits (Parus major group): Origin, diversification and historical demographics of a broadly distributed bird lineage. Journal of Biogeography Volume47, Issue7, July 2020
Sahar Javaheri Tehrani, Laura Kvist, Omid Mirshamsi, Seyed Mahmoud Ghasempouri, Mansour Aliabadian. Genetic divergence, admixture and subspecific boundaries in a peripheral population of the great tit, <i>Parus major</i> (Aves: Paridae). Biological Journal of the Linnean Society, Volume 133, Issue 4, August 2021
日本鳥学会 2024. 日本鳥類目録改訂第8版
2024 eBird Taxonomy Update
https://science.ebird.org/en/use-ebird-data/the-ebird-taxonomy/2024-ebird-taxonomy-update
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