大学周辺の鳥目録更新メモDec. 2023
かねてより制作を続けている大学周辺の鳥目録、8版の暫定リストが公開されたのを機に学名を検討することにした。
2023年8月版の時点で既に、いくつかの種の学名はClementsなどを参照していたため7版と異なっており、それ以外の種についてメモする。
変更の概要
近年の学名の変更は、主にゲノムを読んで行われた属の再編成とsplitの2つによって生じている。
例えば水面採餌ガモの大部分を含んでいたAnas属が再編成された。マガモなど川によくいる種を含むAnas属、やや海沿いに多いヨシガモやヒドリガモを含むMareca属、沼に多いハシビロガモやシマアジを含むSpatula属、Spatula属の基底に位置してトモエガモ1種だけ独立したSibirionetta属に分割し、これに伴って順番も変更している。
splitは種内変異(例えば亜種)としていた2つ以上の分類群を別種として分割することである。日本固有種のアホウドリを鳥島と尖閣で2種に分けるのはsplitである。同じく日本固有種のアカヒゲも、男女群島とトカラ~奄美群島で繁殖して一部が渡るアカヒゲと、沖縄本島にいて渡らないホントウアカヒゲの2種になる。
まず、splitした種のほとんどは既に他のリストに従って学名を変更していたが、ノビタキ Saxicola stejnegeri のみ残っていたので変更した。また、コルリの亜種小名を bochaiensis から nechaevi に変更した。
シジュウカラは8版だと南アジアのクロシジュウカラ Parus cinereus の亜種になるようだが、東アジアのシジュウカラ Parus minor のままにした。
亜種小名を書いていなかったコガモ、タシギ、アカハラ、サメビタキを亜種レベルにした。なお、ダイサギ、アカハラ、カワラヒワの3種は各2亜種が普通種として観察されている。他に当地で複数亜種が記録されている種はいない。
アカゲラは北海道の個体群を含む ssp. japonicus group、ゴジュウカラは本州や九州の個体群を含む ssp. roselia group として扱っている。いずれも世界全体を見渡した時にいくつかの亜種グループがいるものの、亜種グループ内の差異はとても小さく、亜種グループ間の差異により注視すべきと考えたため。アカゲラに関しては、北海道-本州間で個体の行き来が多く、冬季に白っぽいアカゲラが観察される。
マガモ、スズガモ、ホオジロガモ、キジ、カッコウ、カシラダカは亜種が区分できるのかよく分からなかったため種レベルに留めている(検討パート参照)。アマツバメは2亜種が記載されているが、分布についての知見が不十分で依然としてよくわからない。
検討パート
以下、分布は明記しない限り繁殖地を指す
マガモ
北半球に広く分布する基亜種と、グリーンランド南西部に固有の ssp. conboschas とされる。広く分布しているのにグリーンランドだけ分けている理由がよくわからなかった。
なお、オジロワシもグリーンランドだけ分けられている。
スズガモ
ユーラシア大陸にいる基亜種と北アメリカ大陸にいる nearctica の2亜種。どちらも飛来する可能性があり、かつ太平洋を挟んでは形態差が連続的らしいので識別は困難。
ホオジロガモについても同様。
キジ
4亜種が記載されているが、狩猟鳥としての移動の歴史もあって識別は極めて難しいと思われる。
カッコウ
ユーラシア大陸に広く分布し、ヨーロッパから東アジアまでの温帯以北で繁殖するのが基亜種、より南で繁殖するものがいくつかの亜種に分けられているが、広域分布かつ長距離移動種のためどうなっているのやら。
コチドリ
Charadrius dubius dubius:フィリピン、ニューギニア島周辺
Charadrius dubius jerdoni:南~東南アジア
Charadrius dubius curonicus:北半球の主に温帯から冷帯
ヨーロッパに生息しているのに、なぜヨーロッパにいるのが基亜種ではないのだろう?(ハジロコチドリの種内変異と思われていたせいらしい?)繁殖分布は一見するとカッコウと似た関係にあるが、カッコウよりも渡り距離の違いがある。
3亜種は、画像検索してみると繁殖羽では見分けがつきそう。jerdoni と dubius は下嘴のピンクがはっきりしており、dubius はさらに熱帯の鳥という感じがする。(jerdoni と curonicus の識別についてはタイの方がわかりやすくブログを書いておられ、幼鳥や非繁殖羽でも識別可能。)
タシギ
かつて亜種扱いだったアメリカタシギ(G. delicata)はsplitとして、アイスランドからイギリスの北の島々に赤みの強い ssp. faeroeensis がいるらしい。
モズ
2亜種いて、中国中央部の限られた所で繁殖しているものと、日本海を囲む地域の2つ。はっきりと分けられそう。
キレンジャク
ユーラシア大陸の東と西、北アメリカの3亜種。分布は北半球ぐるっと一周しており、そもそも"highly nomadic"な鳥なので果たして分けられるのだろうか。
アカハラ
千島列島で繁殖するオオアカハラと、サハリンから本州で繁殖するアカハラの2亜種。ゲノム解析でも分かれている模様。当地では双方がよく観察されている。
コサメビタキ
本州より北の緯度で繁殖している亜種と、東南アジア以南?ヒマラヤ?で繁殖している亜種に分けられそう。ヒタキ類は近年 split させがちだが、サメビタキ属は種の識別でさえ苦労するし主観的な判断が異なってきそう。ボルネオなどに最近縁種ミナミコサメビタキ Muscicapa williamsoni というのがいておもしろい。
ホオアカ
繁殖地が北モンゴル~太平洋岸、中国中南部、ヒマラヤの3つに分断されている。分断された年代にもよるが、渡りは比較的短いので分化はしそう。
カシラダカ
極東の個体群が分けられている?分布は連続しそう。
ミヤマホオジロ
中国北東部で繁殖し、日本や中国南部に渡る ssp. elegans と、中国中南部でほぼ渡らない ssp. elegantula の2亜種。渡るのと渡らないのがいるのはおもしろい。亜種小名、語尾変化しただけなのはもうちょっと何か一ひねりしてほしかったような。
亜種やその分布の情報は、avibase、xeno-canto、誠文堂新光社のカモ図鑑を参考にした。