[うたの素]「雨の谷」
「雨の谷」
夏が立ちこめる ビルの底に
降り出した銀色の雨
熱を奪おうとしてるみたい
激しくて誰かに似てる
ぜんぶ失くした気がした
ぜんぶもらった気がした
ふたりの間には雨の谷
みんな大事な気がした
みんな消えてく気がした
迷いは解けぬまま濡れてゆく
緑むせかえる 深い匂い
ささやかな森からの風
ひとを裏切らず生きるなんて
わたしには出来そうにない
ぜんぶいらない気がした
ぜんぶ求めた気がした
鼓動の間には雨の谷
みんな素直な気がした
みんな卑怯な気がした
ゆびきり出来ぬまま明日をゆく
だけど信じた気がした
そして愛した気がした
だけれど今はただ雨の谷――