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登山初心者が八ケ岳で自分と闘った日②
初登山を八ケ岳の双子山に決め、意気揚々と出発した朝8時。
歩き始めて5分でいきなり岩場に遭遇し、震え立つ私!
目の前には大きな岩がゴロゴロ。そして上り坂。
そりゃそうだ、山頂目指してるんだから上り坂なのは仕方ないとして、岩がゴツゴツと立ちはだかる目の前の景色に圧倒されてしまう。
ただこれはまだ序盤の壁なのだ。
陸上部だった中学時代にノルマでやってた「腿上げ」トレーニングよりも
さらに腿を高く上げて岩場を進む。
30分ほど進んだのち、いきなり視界が開けて双子山の山頂に着いた!
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選んだコースが序盤に山頂を通るルートだったので早々にテッペンに着いたけど、山の上に広がる壮大な景色に励まされ、この先もがんばろう!と思える絶景を拝むことができた。
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この時点ですでに体は温かく、スタート前に着込んだ服を1枚脱いで次の目的地へ。
道なき道のような山肌を下ったり、笹の葉が生い茂る草原を颯爽と横切ったり、コロコロと変わる景色に圧倒されながらも足元をしっかりと踏み締めて進んでいく。
歩きながら他のことを考えていると、ズルッと滑って転びそうになる。足元に集中しないと途端に危険に遭遇してしまうのだ。本当に脳と体って正直にできているんだな。
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山歩きの小さな気づき。
①「緑」の種類が多い!
濃い色、淡い色、優しい色…たくさんの緑色が森を作っていることに感動。
②ひとりごとが増える!
うわーとか、きれいだなぁとか「きみはなんていう植物だ?」とか…(笑) 自分が今いる状況を体に言い聞かせるように、感想を口にしながら歩く。
山道をしばらく下ると双子池に到着。
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湖の底まで見えそうな澄んだ水と、周りを囲む紅葉が始まる木々のコントラストが本当に美しくて、しばらくここに居たくなった。
岩に座って少し休憩しながら息の上がった体を整える。
そういえば、ここに到着するまで何人かとすれ違ったけど、皆トレッキングポール持ってたな。やっぱりあれ、ラクなのかなぁ。
…なんて考えながらドライフルーツを体に取り込んでトレイル再開。
双子池を過ぎて亀甲池のほとりまでやってきた。
こちらの池もまた圧巻。岩の黒々とした濃い色が太陽の光を浴びて宝石みたいにキラキラしていた。
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ここでおにぎり休憩。そして日光浴。
風が優しくて、温かくて、眠気を誘う心地よさ。
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鳥の声と風の音だけが聞こえる空間で、体内をめぐる空気が一新された気分。そしてやっぱりしばらくすると体が冷えてくる。汗ばんだ体が冷たい空気にさらされると、途端に体温が奪われていくこの怖さ。
おにぎりチャージの後、私は再び歩みを進めた。
ここからのルートは少しハードで、序盤に突破した岩場みたいな場所が続き、霜が溶けた山道は少しぬかるんでいて、何度も転びそうになった。
それでも、木々の美しさや苔の絨毯みたいなフワフワ空間、森を通り抜ける風の音が私を元気にしてくれて、歩くペースは落ちなかった。
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そして、途中から笑いが止まらなくなってきた。幸い他人には見られていない…はずだ。
一生懸命で必死な自分におもしろくなってきたのと、なんだか森を攻略していく気分になって、楽しくなってきたからだ。
そして、スーパーマリオがスターをゲットした時の無敵状態さながら、不思議なベールをまとった感覚に陥った。
歩きながらのトランス状態。はじめての感覚。
山登りに魅了される理由がわかった気がした。
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自然が背中を押してくれて、守ってくれて、私は無事に5.95kmの道のりを完走することができたのだった。
爽快!!!
脚はブルブルしてるし、なぜか背中が痛いけど、体の痛みよりも心の開放感が勝って、なんとも言えない高揚感に包まれた。
よくがんばった、私!
初登山で学んだこと。
邪念を取り払って、自分自身の一挙手一投足に集中することが大切。
自分の内側に集中したら、精神がキリッとスッキリと整うし、日々の悩み事がとても些細で小さなことに思えてきて、自分の脳の大半を占めることがなくなった。
歩く場所によって変わる景色が本当におもしろい。そして、高い山を目指さなくても長い距離が歩くことが楽しい。高い所に行きたいわけじゃなかった。
だから私は、富士山登山には今後も興味を持てなさそうだ。
結果、どんなにハイになって現実逃避できるツールがあったとしても、私には登山でハイになるほうが合っている気がする。
今度はどの山を目指そうか。初心者らしく、コツコツと日本のいろんな森でトリップしてみようと思う。
登山を通して私自身のことが少しわかる気がした、初心者の北八ケ岳・双子山での一日。