最近,被覆空間の理論について知りたいと思い Singer-Thorpe を眺めてみたところかなり面白かったので,備忘録としてまとめておきたいと思います.
ただし,証明まではきちんと追っていないので,万が一間違っていた場合はすみません.詳しく知りたい方は Singer-Thorpe を参照してください.
被覆空間の定義
被覆空間の定義にはいくつかパターンがあるようだが,ここではSinger-Thorpeに倣って次のようにする.
例:$${n}$$次元球面$${S^n}$$は射影空間$${\R \mathrm{P}^n}$$の被覆空間であり,特にその構成から二重被覆である.
リフトに関して
すなわち$${X}$$上に射影したときに一致する2つの連続写像は,どこか1点で一致するなら全体で一致するということである.
初期値を1つ与えると,被覆空間上の曲線であって底空間上の曲線をなぞるようなものが一意的に存在するということである.
基本群との関連
したがって自然に$${\pi_1(\tilde{X}, \tilde{x})}$$は$${\pi_1(X, x)}$$の部分群と思うことができる.
この自然な全単射について説明する.
$${c \colon \pi_1(X, x) \to p^{-1}(x)}$$を
$$
c(\lang \alpha \rang) = \tilde{\alpha}(1)
$$
で定める.ここで$${\tilde{\alpha}}$$は$${\tilde{\alpha}(0) = \tilde{x}}$$となる$${\alpha}$$のリフトである.$${c}$$はwell-definedである.さらに全射でもあることに注意する.
$${H = p_{\ast}\pi(\tilde{X}, \tilde{x})}$$とおく.$${c}$$は各剰余類$${\lang \alpha \rang H}$$上では一定なので
$$
\tilde{c} \colon \pi_1(X, x) / H \to p^{-1}(x), \quad \tilde{c}(\lang \alpha \rang H) = c(\lang \alpha \rang)
$$
が定義できる.これが欲しかった全単射である.
例:被覆空間$${\pi \colon S^n \to \R \mathrm{P}^n}$$を考える.$${n \geq 2}$$のとき$${\pi_1(\R \mathrm{P}^n) = \Z_2, \pi_1(S^n) = \{1\}}$$である.$${\pi \colon S^n \to \R \mathrm{P}^n}$$が二重被覆であることを考えると,これは系6の内容と合致する.
例:特殊直交群$${\mathrm{SO}(n)}$$の二重被覆空間をスピン群$${\mathrm{Spin}(n)}$$という.$${n > 3}$$のとき$${\pi_1(\mathrm{SO}(n)) = \Z_2}$$であるから系6より$${\pi_1(\mathrm{Spin}(n)) = \{1\}}$$でなければいけない.すなわちこのとき$${\mathrm{Spin}(n)}$$は$${\mathrm{SO}(n)}$$の普遍被覆空間である.
$${\mathrm{Spin}(n)}$$は具体的にはクリフォード代数の中で実現することができる.
基本群の部分群と被覆空間の対応
以下では被覆空間を考えるときには底空間に局所単連結性を課すものとする.
以上をまとめると,$${X}$$が局所単連結である場合には基本群の部分群とその被覆空間に次のような系列の対応が見えてくる.
このように見ると,普遍被覆空間は被覆空間の系列で頂上にある存在だと理解できる.
例:連結な多様体は弧状連結かつ局所弧状連結かつ局所単連結なので以上の議論が成立する.