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被覆空間と基本群の関係

最近,被覆空間の理論について知りたいと思い Singer-Thorpe を眺めてみたところかなり面白かったので,備忘録としてまとめておきたいと思います.

ただし,証明まではきちんと追っていないので,万が一間違っていた場合はすみません.詳しく知りたい方は Singer-Thorpe を参照してください.

被覆空間の定義

被覆空間の定義にはいくつかパターンがあるようだが,ここではSinger-Thorpeに倣って次のようにする.

定義1
$${X,\tilde{X}}$$を弧状連結かつ局所弧状連結な位相空間とし$${p \colon \tilde{X} \to X}$$を全射連続写像とする.組$${(\tilde{X}, p)}$$が$${X}$$の被覆空間であるとは次の条件を満たすことをいう.
条件:任意の点$${x \in X}$$に対して開近傍$${U \subset X}$$が存在し,$${p^{-1}(U)}$$が開集合の非交和になっていてその各開集合が$${p}$$によって$${U}$$と同相になっている.

またこのとき$${X}$$を底空間と呼び,$${p^{-1}(x)}$$を$${x \in X}$$のファイバーと呼ぶ.

例:$${n}$$次元球面$${S^n}$$は射影空間$${\R \mathrm{P}^n}$$の被覆空間であり,特にその構成から二重被覆である.

定義2
$${X}$$の被覆空間$${(\tilde{X}_1, p_1)}$$と$${(\tilde{X}_2, p_2)}$$が(被覆空間として)同型であるとは,同相写像$${h \colon \tilde{X}_1 \to \tilde{X}_2}$$であって$${p_2 \circ h = p_1}$$を満たすものが存在することである.

リフトに関して

定理3
$${(\tilde{X}, p)}$$を$${X}$$の被覆空間とする.また位相空間$${Y}$$は連結かつ局所連結であるとする.連続写像$${\alpha, \beta \colon Y \to \tilde{X}}$$が次の2条件を満たすなら$${\alpha = \beta}$$である.
(i) $${p \circ \alpha = p \circ \beta}$$
(ii) 点$${y_0 \in Y}$$が存在して$${\alpha(y_0) = \beta(y_0)}$$となる.

すなわち$${X}$$上に射影したときに一致する2つの連続写像は,どこか1点で一致するなら全体で一致するということである.

系4 (道のリフトの一意存在)
$${(\tilde{X}, p)}$$を$${X}$$の被覆空間とし,$${\alpha \colon [0,1] \to X}$$を道とする.$${x_0 = \alpha(0)}$$とし,ファイバーの点$${\tilde{x}_0 \in p^{-1}(x_0)}$$を取る.このとき道$${\tilde{\alpha} \colon [0,1] \to \tilde{X}}$$であって$${\tilde{\alpha}(0) = \tilde{x}_0}$$かつ$${p \circ \tilde{\alpha} = \alpha}$$を満たすものが一意的に存在する.

初期値を1つ与えると,被覆空間上の曲線であって底空間上の曲線をなぞるようなものが一意的に存在するということである.

基本群との関連

系5
$${(\tilde{X}, p)}$$を$${X}$$の被覆空間とする.$${p_{\ast} \colon \pi_1(\tilde{X}, \tilde{x}) \to \pi_1(X, x)}$$は単射である.

したがって自然に$${\pi_1(\tilde{X}, \tilde{x})}$$は$${\pi_1(X, x)}$$の部分群と思うことができる.

系6
$${(\tilde{X}, p)}$$を$${X}$$の被覆空間とする.$${x \in X}$$とし,そのファイバーの点$${\tilde{x} \in p^{-1}(x)}$$をとる.このとき$${p^{-1}(x)}$$と$${\pi_1(X, x)/p_{\ast}\pi(\tilde{X}, \tilde{x})}$$との間には自然な一対一対応がある.

この自然な全単射について説明する.
$${c \colon \pi_1(X, x) \to p^{-1}(x)}$$を

$$
c(\lang \alpha \rang) = \tilde{\alpha}(1)
$$

で定める.ここで$${\tilde{\alpha}}$$は$${\tilde{\alpha}(0) = \tilde{x}}$$となる$${\alpha}$$のリフトである.$${c}$$はwell-definedである.さらに全射でもあることに注意する.

$${H = p_{\ast}\pi(\tilde{X}, \tilde{x})}$$とおく.$${c}$$は各剰余類$${\lang \alpha \rang H}$$上では一定なので

$$
\tilde{c} \colon \pi_1(X, x) / H \to p^{-1}(x), \quad \tilde{c}(\lang \alpha \rang H) = c(\lang \alpha \rang)
$$

が定義できる.これが欲しかった全単射である.

例:被覆空間$${\pi \colon S^n \to \R \mathrm{P}^n}$$を考える.$${n \geq 2}$$のとき$${\pi_1(\R \mathrm{P}^n) = \Z_2, \pi_1(S^n) = \{1\}}$$である.$${\pi \colon S^n \to \R \mathrm{P}^n}$$が二重被覆であることを考えると,これは系6の内容と合致する.

定義7
$${(\tilde{X}, p)}$$を$${X}$$の被覆空間とする.$${\tilde{X}}$$が単連結であるとき,$${(\tilde{X}, p)}$$を普遍被覆空間という.

例:特殊直交群$${\mathrm{SO}(n)}$$の二重被覆空間をスピン群$${\mathrm{Spin}(n)}$$という.$${n > 3}$$のとき$${\pi_1(\mathrm{SO}(n)) = \Z_2}$$であるから系6より$${\pi_1(\mathrm{Spin}(n)) = \{1\}}$$でなければいけない.すなわちこのとき$${\mathrm{Spin}(n)}$$は$${\mathrm{SO}(n)}$$の普遍被覆空間である.
$${\mathrm{Spin}(n)}$$は具体的にはクリフォード代数の中で実現することができる.

基本群の部分群と被覆空間の対応

以下では被覆空間を考えるときには底空間に局所単連結性を課すものとする.

定理8
位相空間$${X}$$は弧状連結かつ局所弧状連結かつ局所単連結であるとする.$${\pi_1(X, x)}$$の任意の部分群$${H}$$に対して,被覆空間$${(\tilde{X}, p)}$$が存在して$${p_{\ast}(\pi_1(\tilde{X}, \tilde{x})) = H}$$となる.

命題9
$${(\tilde{X}, p)}$$を$${X}$$の被覆空間とし,$${X}$$は局所単連結であるとする.$${(\tilde{\tilde{X}}, \tilde{p})}$$が$${\tilde{X}}$$の被覆空間であるとき$${(\tilde{\tilde{X}}, p \circ \tilde{p})}$$は$${X}$$の被覆空間である.

定理10
$${(\tilde{X}_1, p_1), (\tilde{X}_2, p_2)}$$を$${X}$$の被覆空間とし,$${X}$$は局所単連結であるとする.ファイバーの点$${\tilde{x}_i \in p_i^{-1}(x)\,(i=1,2)}$$を1つずつとる.
$${(p_1)_{\ast}\pi_1(\tilde{X}_1, \tilde{x}_1) \subset (p_2)_{\ast}\pi_1(\tilde{X}_2, \tilde{x}_2)}$$なら$${\tilde{p} \colon \tilde{X}_1 \to \tilde{X}_2}$$であって$${\tilde{p}(\tilde{x}_1) = \tilde{x}_2}$$となり,$${(\tilde{X}_1, \tilde{p})}$$が$${\tilde{X}_2}$$の被覆空間となるものが一意的に存在する.さらにこのとき$${p_2 \circ \tilde{p} = p_1}$$となる.

定理11
$${(\tilde{X}_1, p_1), (\tilde{X}_2, p_2)}$$を$${X}$$の被覆空間とし,$${X}$$は局所単連結であるとする.
$${(p_1)_{\ast}\pi_1(\tilde{X}_1, \tilde{x}_1) = (p_2)_{\ast}\pi_1(\tilde{X}_2, \tilde{x}_2)}$$なら$${(\tilde{X}_1, p_1)}$$と$${(\tilde{X}_2, p_2)}$$は被覆空間として同型である.

以上をまとめると,$${X}$$が局所単連結である場合には基本群の部分群とその被覆空間に次のような系列の対応が見えてくる.

左の図において線は被覆の関係を表している.(上側が被覆空間)
右の図において線は部分群の関係を表している.(上側が部分群)

このように見ると,普遍被覆空間は被覆空間の系列で頂上にある存在だと理解できる.

例:連結な多様体は弧状連結かつ局所弧状連結かつ局所単連結なので以上の議論が成立する.

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