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【悪性リンパ腫・闘病記④】部分麻酔で胸を貫くか、全身麻酔で脇を貫くか。


-前回の記事はこちら-


・・・

「胸部に部分麻酔を当てて、針を刺します。約1mmくらい腫瘍が取れます。全身麻酔に比べて身体への負担が少ないのがメリットです。リスクとしては、取れる腫瘍の量が少ないので鑑別がつかない可能性があること、あと、万が一刺す位置がズレて心臓に刺さったら…ヤバいことですかね」

いやいやいやいや、怖い怖い怖い怖い。

腫瘍の正体を確かめるために実際に腫瘍を少しだけ摘出する「生検手術」。てっきり全身麻酔で行われると思っていた私はまさかの提案に驚きを隠せず、また、意識を保った状態で胸に太い針を刺されるという拷問じみた処置に強い恐怖を感じた。

さらに、私は以前親知らずを抜く際に部分麻酔を経験したのだが麻酔が全く効かず、激痛に悶えながら抜歯を試み、それでも抜けなかったので「相徳さん!拉致が明かないので一気に抜きます。3秒数えますね!1...2...3!!!」と一気に歯を抜かれ、1時間ほど苦痛で涙が止まらなかったことがある。この経験から、私は部分麻酔に対して微塵も信用がない。

さらに鑑別がつかない可能性や、心臓に針が刺さるというリスクまで付帯するとなれば、術中に意識を保てる自信がない。怖い、怖すぎる…。

「ただ、身体への負担が少ないです」

放射線科の先生がそう強く言った。まだ完全に理解できていないのだが、病院というのは実に多くの専門に分かれていて、その数だけ先生がいて、その数だけ違った意見があるらしい。少なくとも私のオペには、実際に手術を担当する外科、レントゲンを見ながら指示を出す放射線科、麻酔をかける麻酔科が関わっていることが分かり、この日は全ての先生に一度診断を受けなければならなかった。

状況がよくわかってなかった私は、部分麻酔しか選択肢がないことを悟りしぶしぶ承諾した。そして病室を後にし、つぎは外科の診察室に入った。

「相徳さん、本当に部分麻酔で良いですか?鑑別がつかない可能性もありますが…私としては全身麻酔を推奨します」

いやどっちやねん、、、!

これも学びだが、以前までの私は、病院は患者に関わることは全て面倒を見てくれて、全ての責任を負ってくれる場所だと思った。どうやら違うらしい。最終的な決定権は「患者」にあるのだ。

全身麻酔のメリットは取れる腫瘍の量が多いこと。1cmくらい取れるらしい。デメリットは術後の負担が大きいことで、部分麻酔が2泊3日の入院で良いのに対し、全身麻酔だと1週間は入院しなければならない。まあ、家にいても入院してるようなものだし期間の長さはそれほど問題ではない。

部分麻酔への恐怖、鑑別をハッキリさせて欲しいという焦り、そして全身麻酔を経験してみたい好奇心によって、私は即座に「全身麻酔にしてください。」と力を込めて言った。結果としてこの決断は後に英断だったと褒められることになるのだが、術後の負担の大きさなんて微塵も想像ついてなかった。

入院が始まった。窓際の薄暗い病室。隣のおじいちゃん、ちょいといびきが爆音すぎないかい??大音量の音楽を聴きながら寝れるわけもなく、ほぼ徹夜で手術当日を迎えた。

「朝の8時半にナースセンターに来てください」

専用の服に着替えて、定刻通りに集合する。手術室に案内されると、ドラマで見たことがあるまんまのベッドと大量の機材たち。今から本当に始まるんだと、緊張と不安とワクワクと、様々な感情がごちゃ混ぜになって逆に冷静になった。太い針を手の甲に打たれ、看護師さんから「今から麻酔を入れていきますね」と合図がかかる。

ところで、麻酔ってどんな感じだろう?

日々を生きている中で、他者から意識を失わされることなんでない。だから、私は全身麻酔は擬死体験だと思うようになった。きっと、死ぬ時の感覚って突然電源を切られたテレビのように、きっと「今から死ぬ」って自覚なんて無く、プツンと目の前の景色が消える感じなんだろうなって。そんなことを考えながら目を開けたまま、天井に吊されたライトを見続けた。

「相徳さん、お疲れ様です!終わりましたよー」

???

ん?

あれ?

目も瞑ってないのですが?

事態が飲み込めない。

え?終わった?

突然すぎる場面転換。瞬きする間もなく、気づいたら手術が終わっていた。これが全身麻酔。噂には聞いていたが、本当に一瞬でびっくりした。今回の手術では、右の脇腹に三箇所穴をあけ、内視鏡を使いながら腫瘍を摘出した。腫瘍はホルマリン漬けにされ、さっそく検査に回されるらしい。少しの怠気を感じた。

そして、傷ついた腫瘍からの出血を吸引する必要があったのでドレーンと呼ばれる管を胸部から体外に通された。排泄のコントロールのために尿道にも管を通され、完全に植物人間状態に。すると、時間が経てば経つほど右脇に激痛が走りだした。術後の発熱で大量の汗を掻き始め、背中が蒸れてめちゃくちゃ痒い。しかし、管を通されているせいで身体を起こすことも寝返りを打つこともできない。

「すみません、この状態はいつまで続きますか?」

午後13時、看護師に聞くと

「2日くらいですかね」

おいおいまじかよ、聞いてねえぞ。

一分一秒が永遠に感じられる、そんな時間の始まりだった。

-次回へ続く-

【悪性リンパ腫・闘病記⑤】痛みと異臭と喉の渇き、イビキがうるさいおじいちゃん。












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