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【悪性リンパ腫・闘病記⑬】スキンヘッド・イズ・ワンダフル!

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突然ですが、禿げました。

自分の掌よりも大きくて広いおでこがコンプレックスで、前髪で隠し続けてきた。2年に一度くらいの頻度で、短所は実は長所になる的な思考に虎われて前髪を分けたり、短髪にチャレンジしたくなってしまうのだが、大学1年生の時にとある美容師から言われた「お客さん、結構奥行きありますねー」の一言にひどく傷つき、その日から、将来の夢はお金持ちになって植毛することになった。毛根は浅いかもしれないが、この問題は根深い。

実は高校生になるまで美容室など行ったこともなく、手先が器用な母に切ってもらっていた。当然、整髪剤の付け方なんぞわかるわけもなく、中学校の卒業式では肥大化したナルシズムに身を任せ、割とサラサラな髪の毛に大量のジェルワックスをつけ、前髪はおでこに張り付き、そのほかはベタベタな前衛的なヘアスタイルで出席した過去がある。そのナルシズムが美容室に行く方向へ向かえば良かったのに、と今でも後悔している。

そんな私は人生で一度だけ、坊主にしたことがあった。高校2年生の夏、陸上部のおしゃれな友人から「徳ちゃん(高校生の時のあだ名)もツーブロックにしなよ」と勧められた。サイドとバックの髪を短く刈り込み、トップの髪を長く残す髪型のことである。校則では禁止されていたが、もう少しで夏休みということもあり、見渡せば同級生たちは髪で遊び始めていた。

「なあ、それって自分でできる?」

「(???)多分、できると思うけど・・・」

※あの時、全力で止めてくれなかった陸上部のG君。もう覚えてないだろうけど、ちょっぴり恨んでます。

バリカンでサイドを刈るだけだよ、と友人は言った。母に所在を聞き、ドライヤーが入っている棚からバリカンを見つけ出した。家電を買っても説明書を見ない性格なので、専用の箱の中には色々と部品が入っていたけどとりあえず無視した。「ブーーーーン」と音が鳴り、側頭部に当てると「ジジジッ」と、照明にぶつかった虫が燃えるような音が鳴った。

「このまま、サイドを刈り上げて、、、できたかな?」

鏡を見ると、側頭部が全て刈り上げられ、見事な角刈りヘアが出来上がっていた。一瞬混乱したが、自称進学校に通う平均的な頭脳を用いて極めて冷静に、目の前の問題を整理した。問題点は以下2つ。

  1. 刈り込んだサイド部分を隠す、トップの髪まで一緒に刈ってしまった。

  2. いくらなんでも髪の長さが短すぎる(ほぼスキンヘッド)。

まず、問題1について。通常、ツーブロックは刈り上げたサイド部分を隠すためにトップの髪を少し長めに残す。そのため、事前に残す部分をダッカールと呼ばれるクリップで留めて残しておく。そんなこと知らないので、愚かな私は全てのサイドの髪を刈ってしまったのだ。

正しいやりかた

続いて問題2について。結論を言えば、アタッチメントと呼ばれる長さ調節の部品をバリカンに付けず、刃を直接頭皮に当ててしまっていたのだ。数年後に髪が伸び、初めてオシャレのために美容室に行ったとき「サイドは何mmにされますか?」と聞かれ、ようやくアタッチメントの存在理由について理解した。大体6mm-9mmくらいが相場らしい。ちなみに、アタッチメントを使わないと1mmくらいの短さになってしまう。野球部はこれを「五厘」と呼んでいるらしい。

アタッチメント
これを付けずに刈ってしまった

みすぼらしいニワトリのような髪型の男が鏡に映っている。この時点で美容室に駆け込むのが正解だろうに、この愚かな男は無駄な抵抗を見せた。「まだ何とかなるはず」と。いいですか皆さん?時には諦めも必要なのです。

最終的に、スキンヘッドに海苔が張り付いたみたいな髪型になりました。

翌日、様々な視線を浴びながら、一方で誰からもフォローをされることなく、学校に登校した。校門に立つ我がラグビー部の顧問が驚きと怒りの表情を浮かべ、人生2度目の生徒指導へと連行された。ちなみに1度目は中学校の時で、私が生徒会副会長だったとき、当時の生徒会長が恋人と喧嘩をし、学年主任の先生から「会長の問題は副会長の問題でもあるの!あなたがちゃんとサポートしてあげないからよ!」と冤罪も冤罪すぎる理由で連行された。会長、その恋人、泣きすする2人の横でなぜ立たされていたのか、今でも謎である。

「何だその髪型は!?」

そりゃあ、その反応だよな。だって昨日まで真面目を絵に描いた出来杉君カットだった生徒が、翌日頭に海苔を貼ってくるんだもの。校則違反の髪型にチャレンジして、髪を失う。犯罪を犯す意思はあったが想定外な出来事が起こったので説明が難しかったが、正直に話すしかないので白状した。

「バリカンで直接髪を刈ってしまいました」

事情を汲み取ってくれた先生は薄ら笑いを浮かべながら言った。

「にしては中途半端ではないか?」

「はい、僕もそう思います。潔く坊主にしてきます」

人生初めての美容室は、駅前にできた1000円カットだった。「何があったんですか…?」と美容師に心配され「友達と悪ふざけして…」と心苦しい嘘の言い訳をした。こうして、初めて坊主になった。高校の友達はこれが作り話ではない実話なことを証言してくれるはずだ。

坊主時代


野球が好きだったので中学生は野球部に入ることを検討したが坊主が嫌でやめた。それくらいくだらない奴だったのだが、少し反省した。坊主生活は結構楽しかったのだ。石鹸一個あれば全身を洗えるし、ドライヤーで髪を乾かす必要はない。坊主期間に彼女ができることは無かったが、その分練習にも身が入り、一番プレーが上達した期間でもあった。しかし、髪が生えたら嬉しくてまた伸ばしてしまって、毛の長さに比例しておでこコンプレックスが増大していった。いつしかこの体験は存在感が薄まり、やっぱり禿げたくない!おでこを隠したい!と強く願うようになってしまった。

10年後、私は禿げた。

今度は綺麗さっぱり文字通り禿げた。抗がん剤の副作用なので覚悟はしていたが、やっぱり禿げることに心理的な不安はあった。しかしいざ禿げてみると、高校時代の坊主の体験が呼び起こされ、髪がない生活が一周回って面白い。とにかく楽だわ〜としか思えなくなった。禿げたおかげで頭頂部が少しとんがっていることが発覚したのだが、「あんたはお腹の中から出てくる時、頭がでかくて出口に引っかかってたから、トイレのスッポンみたいなので引っ張ったのよ。その影響だろうねww」と母から爆笑しながら伝えられた。妹は一瞥したあと「なんか陶芸とかしてそうだね」とだけ言って部屋に戻って行った。犬からは誰だお前はと吠えられた。

髪が無くなると生え際の位置も分からなくなるし、頭皮を清潔に保てるし、悪いことはない。Instagramや街で見るゆるふわパーマorさらさらセンターパート男子を見ると軟弱者にしか見えなくなった。「全員喧嘩弱そう〜」って本気で思ってる。男なら素材で勝負しやがれなんて危険な差別思考を育てながら歩いていると、めちゃくちゃオシャレな坊主の人がいたりして、カッコ良すぎて危うく恋をしそうになる。女性の皆さん、髪型ごときに惑わされてはダメですよ。もうおでこを隠すのはやめて、似合う短髪を探してみるのも良いかもしれない。

だがしかし、私にはもう一つ悩みがある。

脱毛してから2週間ほど経過したので、ほんの少しだけではあるが髪が生えてきた。手でなぞると、「ジャリッ」と音がする。スキンヘッドも楽しいけど、やっぱり髪が生えてくるのは嬉しい。

しかし、頭頂部だけいつまでたってもツルツルなのである。このまま行くと、ザビエルカットまっしぐらですが大丈夫そう…?

Francisco de Xavier

-次回の予告-
【悪性リンパ腫・闘病記⑭】ミッドナイト・イン・ホスピタル

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