さよなら、黄色いレンガ道
「何か新しい音楽が聴きたい。私の知らない、あなたの好きな曲を教えて」と、友人から連絡がありました。
以前にすすめたジョン・レノンのWoman(ウーマン)を気に入ってくれたので、次は何がいいかなあとCD棚を眺めながら選んだのが、この曲。
エルトン・ジョンのGoodbye Yellow Brick Road(グッバイ・イエロー・ブリック・ロード)。
さよなら、黄色いレンガ道
上流階級の犬たちが吠えているところ
きみの高級な家に、ぼくを植えつけようなんて無理だ
ぼくは自分の場所に帰るよ
あのフクロウが鳴く森へ帰ろう
トゲのあるヒキガエルを捕まえよう
ついに決心したよ
ぼくの未来は、この黄色いレンガ道の向こうなんだ
都会に出てきた若者が、やっぱり田舎に帰ろうと決心する、そんな歌詞です。
“黄色いレンガ道”とは、『オズの魔法使い』で主人公ドロシーが歩いていく道で、魔法使いの住む、きらめくエメラルドシティに続いています。
その道に、別れを告げる曲なのです。
とはいえ、歌詞も曲調も、全く後ろ向きではありません。
惨めさは微塵もありません。
「ぼくの未来は、この黄色いレンガ道の向こうなんだ!」
吹っ切れたような明るさと、突き抜けるような爽やかさ。
もちろん、歌詞をそのまま読んだら、「都会から田舎に帰ろう」という内容です。
でも、「無理してここに留まり続けるより、自分らしくいられる場所に行こう」という解釈で聴くこともできます。
自分の価値を認めなおしてあげる曲、と言っても良いかもしれません。
昨年公開された、エルトン・ジョンの自伝的映画『ロケットマン』(デクスター・フレッチャー監督/2019年)では、このGoodbye Yellow Brick Roadが流れるシーンが、とても好きでした。
実は、エルトン・ジョンの曲の歌詞は、ほとんどバーニー・トーピンという人が書いています。
彼が詞を書き、エルトン・ジョンが曲をつける、というスタイルで、ふたりはずっと一緒に創作活動をしていました。
大きな成功を収め、都会で豪奢な生活をするエルトンに、相方のバーニーが「ぼくはもう、ここにはいられない。ぼくは自分の場所に帰るよ」と詞を書いたのです。
それを思うと、この曲がまた違う意味合いで聞こえてきます。
バーニーが書いた「きみ」という言葉の先には、ずっと相棒であったエルトンがいます。
でも、エルトンは、自分に突きつけられたこの残酷な詞に、これほどまでに美しい旋律をあてがうのです。
切ない……。
そして、そんな背景を知ってからも、やはり私にとってGoodbye Yellow Brick Roadは、明るい方へと向かっていくような、とても爽やかな曲なのです。
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