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エースで、4番で、キャプテンで。

甲子園愛が溢れすぎて2500文字になってしまいました。
お時間のある時にお読みください。

第104回全国高校野球選手権大会、準決勝第2試合。
山口の下関国際高校が滋賀の近江高校を8-2で破り、初の決勝進出を果たした。

今大会の注目選手だった近江高校・山田陽翔の夏は、残念ながらここで終了となる。
彼はエースピッチャーであると同時に主力打者であり、さらにはキャプテンという重責まで背負っていた。
まさにチームの大黒柱

エースで4番でキャプテン。
高校野球ではよくあることだが、近年は「ひとりに背負わせすぎだ」として否定的な見方もある。

エースで4番でキャプテンの是非について考えてみた。



浸透しつつある分業制

2009年に「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」という小説が発売された。
野球部の女子マネージャーが、ピーター・F・ドラッカーの組織管理書「マネジメント」を読み、その手法を部内に取り入れていくというストーリーだ。

発行部数は280万部を突破。
アニメや実写映画も作られたので、ご存知の方も多いだろう。

本書はドラッカーの「マネジメント」の内容を分かりやすく紹介すると共に、高校野球の在り方について様々な提起をしている本でもある。
そのひとつが分業制の推奨だ。

キャプテンという役割が重荷になっていた中心選手には、野球に集中できるよう、主将の肩書きを他の選手に譲渡したり。
足は速いが打率の良くない選手を、代走専門として起用したり。

実際に「もしドラ」を参考に意識改革を行った野球部もあり、新時代の高校野球のモデルケースを提示した形だ。

しかし、未だにひとりの選手に複数の肩書きを任せる学校は多くある。
それには高校生スポーツ特有の理由があるのだ。



身体能力が全て

人には持って生まれた運動神経というものがある。
運動センスと言い換えても良いだろう。

高校野球においては、この運動神経が全てと言っても過言ではない。
身体能力が高い選手は、投げても打っても、走っても守っても安定した力を発揮することができる。

監督としては、一番良い球を投げる投手をエースにしたいし、一番打つ選手を4番にしたい。
だから飛び抜けてセンスが良いオールラウンダーがいた場合、両方の肩書きをひとりに任せざるを得なくなるのだ。

加えてそうした選手は部内からの人望も厚い。

エースが頑張っているからバックは絶対に死守するぞ。
4番が打ってくれるから何としてでも打席を繋ごう。

エースで4番の選手がキャプテンになるのは、もはや自然の摂理なのだ。

が、もちろん弊害もある。



タスクは少ないほうが良い

「もしドラ」でも語られている通り、個人の役割というのは得意分野に特化したほうが、より力を発揮できるものだ。
プロ野球の投手に先発・リリーフ・ワンポイント・抑えが居るのは、それぞれの仕事のみに集中してもらうためでもある。

近年、高校野球でも「投手の投げさせすぎ」が問題となっており、人材豊富な強豪校では投手も分業制となっているのだ。
投球数やその日の調子を見ながら、ひとりだけに負担が掛からないようにする。

こうした取り組みは「怪我の防止」といった観点からしても、非常に理に適っているし、推奨されることだろう。
そしてこれは投手起用に限ったことではない。

もしもエースで4番という役割だった場合、投げることと打つことの両方について常に考えなければならなくなる。

どちらか一方に集中できない。
両方で結果を出し、チームに貢献しなければならないという重圧。
そこにキャプテンという役割が加わったらどうなるか。

キャプテンの仕事は「チームの団結を高める」なんていう精神論だけではない。
部員ひとりひとりに声掛けをし、悩みの相談に乗ったりアドバイスをしたり。
時には監督や部長・コーチといった大人たちと、高校生である選手間との橋渡し役も担わなければならない。

だからエースで4番でキャプテンは負担が大きすぎる。

しかし、近江高校の山田陽翔はその重責を受け入れた。
何故か。

彼は、それが自分の使命だと知っていたからだ。



賛否とは別格の存在

「今年の近江は山田のチーム」
「監督は山田におんぶに抱っこ」

そうした批判は実際にあった。
だが、近江高校の多賀章仁監督は、元々「投手分業制派」。
ひとりの選手と心中するような考えの監督ではないのだ。

今年は山田選手以外に粒立った投手がいないこともあり、彼に多くの役割を任せるのは、監督としても苦渋の決断だった。

スポーツ誌「Number」のインタビューで、副キャプテンの津田基選手は山田選手をこう語る。

「山田は本当に『魂』という言葉が似合う選手なんです。野球に対する真摯な姿勢。そういうところに仲間も僕も引き付けられるし、学ばせてもらっています」

津田基選手・談

今年春のセンバツ準決勝・浦和学院戦。
山田陽翔は打席で足にデッドボールを受けた。
患部は内出血で黒ずんでいたほど。

それでも彼は次の回、マウンドに上がった。

「マウンドを譲る気はありませんでした。『エースで4番でキャプテン』だと自覚しているので、自分が折れてしまえばチームはズルズルいってしまう。『折れてはいけない』と思いながらプレーしていました」

山田陽翔選手・談

鬼気迫る表情で投げ抜き、近江高校を勝利に導いたのだ。
試合後、多賀監督は胸の内を吐露した。

「甲子園という舞台が山田をそうさせているのかもしれませんけど、甲子園以外でも本当に感動させられる場面が多くて……。涙が止まりませんでした」

多賀章仁監督・談



甲子園という魔境

甲子園は球児の夢の舞台だ。
しかし私は、時に「ここは地獄だ」と感じる時がある

灼熱のマウンドは体感温度40℃。
どんなに打ち込まれても、アウトを3つ取るまでは投げ続けなければならない。

途中交代したものの、山田陽翔は最後までチームを鼓舞し、チームのために全力を尽くしたのだ。
敗戦という結果に涙しながらも、その表情にはキャプテンとしての毅然とした誇りが窺えた。

エースで4番でキャプテンを、自分の使命にできるカリスマは存在する。

試合後、彼はプロ野球志望届を提出すると明言した。
彼の今後の活躍と、決勝戦・仙台育英高校対下関国際高校の好ゲームを期待しながら、終わります。



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