病葉日記
【1日目】
悪寒がして目が覚める。
身体を起こした瞬間に発熱を確信。
私の記憶が正しければ、約1年半ぶりの風邪だ。
いま家には夫が居る。
これは困ったことになった。
というのも、夫は看病の類が一切出来ない人間だ。
むしろ居ることによって私の仕事が増えるまである。
震えながら毛布を出して布団に掛け、リビングへ向かった。
すでに起きてテレビを見ていた夫に「寒気がするからしばらく寝る」と伝える。
「また大袈裟なw ちゃんと布団に入って寝てたらあったかいはずでしょw」
ね?
こういう人間なんですよ。
寝室に戻り、加湿器に水をセット。
冷蔵庫からイオンウォーターのペットボトルを取り出してベッドサイドに置いた。
900mlのデカいやつしか無いけど仕方ない。
そうして布団に入り、ひたすら身体を暖める。
少しウトウトして気付けば昼だった。
寒気は消え、身体が本格的に発熱しているのが分かる。
体温計で測ると38.3℃。
昨日は何ともなかったのに今朝から急に発熱したり関節や筋肉が痛み始めたことから、多分インフルエンザだろう。
風邪もインフルエンザも治し方は同じだ。
栄養と水分を摂って薬を飲んで暖かくし、適度な湿度を保った部屋でひたすら眠る。
夫が部屋に入ってきた。
「大丈夫?なんか買ってこようか」
「イオンウォーターの500mlを5本と、レンチンでそのまま食べられる汁入りのうどん買ってきて」
「うーん。今すぐ必要?後で出掛ける予定あるから、その帰りでも良い?」
じゃあなんで今訊いたんだよ貴様ナメてんのか。
答える気力が無くなり布団に潜り込む。
すると「はぁ~」と溜め息を吐きながら出掛けて行った。
病人に向かって溜め息を吐くとか本当に凄いな君。
どうやら買い物に行ってくれたらしく「冷蔵庫に入れておくから。俺出掛けてくる」と言ってまた出て行った。
とりあえず何か腹に入れて薬を飲もう。
体温を測ると38.6℃。
うん、インフルだな。
気合いを入れて起き上がり、何とかして冷蔵庫に辿り着く。
扉を開けて愕然とした。
そこにあったのは900mlのポカリスエットが3本と、パックの冷凍うどん(3個入り)。
もちろん「汁は自分で用意してください」タイプのやつ。
一旦冷蔵庫を閉め、しばらく動けなくなった。
これ私が悪いのかな。
「何故500mlでなければならないのか」「何故チンしてそのまま食べられるうどんを所望したのか」についてきちんと説明しなかった私が悪いのか。
うん、きっとそう。
あの人は病人が何を欲しているのかとか興味無いもんな。
冷凍うどんを冷蔵庫に入れておく辺りに若干発達障害みを感じるけど60過ぎの人間に「冷凍食品は冷凍庫に入れてね」って言わなきゃならない私の気持ちも少しは考えて欲しい。
よし、とにかく今は私ひとりしかいないのだから自分の身は自分で治そう。
結婚していても所詮は他人だからな。
途中で休憩しながら何とかうどんを作って食べ、薬を飲んで寝た。
夕方、夫に起こされる。
「何食べたい?なんか買ってこようか」とまた言ってきた。
何か頼んだとして、おそらく私の望む物を買ってきてはくれないだろう。
「家にある物で食べるから大丈夫」と丁重にお断りした。
夜、36.8℃。
鶏雑炊を作って薬を飲む。
念の為お風呂はキャンセルした。
ついに風呂キャン界隈デビューである。
【2日目】
7時起床。
お茶漬けを食べてから薬を飲む。
37.6℃あるが、今日は重要なミッションをこなさなくてはならない。
そう、洗濯である。
服の仕分けをし、洗濯機を回している間はリビングに横になって待つ。
終わりのメロディが聞こえたら起き上がって干す、を3回繰り返している内に夫が起きてきた。
「こんなとこで寝てるの?そんなに具合悪いなら病院行ってくれば?」
私が病気になることは、多分この人にとって迷惑でしかないのだろうな。
自分の食事も作ってもらえないし「早く回復してくれないとこっちが困る」と思っているのだろう。
ようやく洗濯が終わったのでセブンNOWで食品やドリンク類を注文。
「20分後に配達来るから受け取ってもらえる?」
「そんなの頼まなくても俺が買いに行くよ」
「いやもう頼んだから」
セブンNOW到着。
レンチンだけで食べられる食事類と栄養食品、そして500mlのスポーツドリンクが手に入った。
「俺昨日ポカリ買ってきたじゃん」
「うん、ベッドサイドに置きたかったから『500mlで』ってお願いしたつもりだったんだけど」
すると夫がブチギレて激昂した。
「買い物も満足に出来なくてすみませんでしたねぇ!!」
病人に向かってよくそんな怒鳴れるよね感心しちゃう。
そのまま夫はまた出掛けて行った。
もしかして男性更年期障害というやつだろうか。
それとも老化による前頭葉機能低下で感情のコントロールが難しいのかもしれない。
昼、じゃがいもスープと薬を飲んで寝る。
夕方になり夫が帰って来て「凛ちゃん大丈夫?」と妙に優しく話しかけてきた。
流石に反省したのだろうか。
それともどっかで一発抜いて落ち着いたのか。
熱は36.5℃まで下がった。
食欲も出てきたし、そろそろ栄養も不足しているので夕食はUberで釜飯を注文。
お風呂に入って寝る。
【3日目】
36.2℃。
まだ咳は残っているがようやく倦怠感から抜け出せた。
お見舞いコメント下さったみなさんありがとうございます。
おちんこだりもしたけれど、私は元気です。
早く𰻞𰻞麺食べたい。
そんなメリークリスマス。