優先席に優先して座るのだ
電車やバスには優先席というものがある。
主にお年寄りや体の不自由な人、妊婦さんなどが優先して座る席だ。
対象外である人々は通常の席を選んで座るのが一般的であり、優先席に座ると白い目で見られることもある。
しかし私はあえて優先席に座ることにしているのだ。
その理由をご説明したい。
昔はシルバーシートだった
シルバーシート、現在の優先席が初めて列車に導入されたのは1973年9月15日(当時の敬老の日)。
国鉄中央線などに「高齢者の着席を優先する席」として設置されたのが始まりだ。
長らくお年寄りのための席とされてきたが、1990年代に入ると世の中が次第に高齢者以外の困っている人にも目を向けるようになっていく。
障害者や妊婦さん、怪我をしている人など、座って移動をするのが好ましい人にも使ってもらった方が良いということで「優先席」という呼称に変わっていったのだ。
さてこの優先席。
あくまでも「優先」であって「専用」ではない。
つまり「席を必要としている人に優先してあげてくださいね」という場所なので、本来は誰が座っても構わないのだ。
ところが世の中には頑なに優先席に座らない人がいる。
そして時にそういう存在は困ったことを引き起こすのだ。
絶対に優先席に座らないマン
以前山手線に乗っていた時のこと。
ラッシュ時ではなく昼間の13時頃だったと思うが、その日は電車内がかなり混んでいた。
私はドアの端に立っていたのだが、隣の人と肩が触れそうな混み具合。
ふと目をやると、優先席が一席空いているのに気が付いた。
ぽっかり空いた席の前には50代ぐらいの男性が、大きなスーツケースを押さえながら立っている。
隣には娘さんと思しき高校生ぐらいの女の子。
「ねえ、座らないの?」という娘さんからの問い掛けに、父親は首を振る。
「優先席だから」
もしかしたら、娘に「お父さんは優先席に座らない立派な大人なんだぞ」というところを見せたかったのかもしれない。
優先席にホイホイ座るような尻軽な女になってほしくない、という思いがあったのかもしれない。
いや、座れよ。
この混雑した車内で優先席をスーツケースでガッチリ塞いでデッドスペースにすることに一体何の意味があるのか。
むしろ1人座ることによって空間にほんの少し余裕ができる、その余裕がどれだけ周囲を助けるか。
乗車率100%ナメんな。
優先席に座る理由
高須智士著「君を、愛している」の中にこんな一文がある。
本書は高校生の性とドラッグ、友人の死を通して成長する姿を鮮やかに描いた青春小説なのだが、絶版です。
絶版書ばっかり紹介してて申し訳ない。
高校生の頃、優先席に座らないようにしていた私はこの本に出会い、ひとつの答えを得たのだ。
私が座って譲ればいいんだ、と。
もちろんそれを人に押し付けるつもりはなく、いわば私の信条みたいなものだ。
優先席でスマホゲームに熱中しているヤツに陣取らせるよりは、あらかじめ譲る気満々の私が座っておいたほうが良かろう、というだけなので。
これを実践し始めた私は、スマートな譲り方について研究を重ねた。
気持ちの良い譲り方
優先席に座るようになってから、自分の目の前に立つ人の特徴に気を配るようになった。
腰が曲がって明らかに席を求めているお年寄りは言わずもがな。
「おなかに赤ちゃんがいます」のマタニティマークも目ざとく見つけられるまでに成長した。
そして席を譲るタイミングも大事だ。
走行中に立ったり座ったりは危険なので、駅に停車している時に声を掛ける。
スッと立ち、相手の顔をしっかり見て笑顔で「どうぞ」と言う。
この時、席にバッグや荷物などを置いてキープしておかないと、不届き者がサッと席に座ってしまうので要注意だ。
席を譲ることに成功したら、入れ替わって立った場所で文庫本などを読もう。
相手に気を使わせてはいけないので、「私はもう自分の世界に入ってます」というアピールをするのだ。
もしも相手が「いえ、大丈夫です」と遠慮してきた場合は、にっこり笑って席に戻ればいい。
変に押し問答に発展すると周囲に迷惑となるので、断られたらすぐに引くことも肝要だ。
疲れた人も優先席に座っていい
何も「電車では席を譲る思いやりを持ちましょう」みたいな道徳の教科書の話をしたいわけではない。
勉強や仕事でクタクタの人が無理して席を譲れば、その親切心がやがて自分の首を締めることになる。
席を譲るなんていう行為は、私のように暇を持て余した神々の遊びをしているようなヤツがやればいいのだ。
疲れた人は堂々と優先席で寝ていていい。
家族や自分のために日々頑張っている人だって「優先」されるべきだ。
先日電車に乗っていた時のこと。
座っていた席の前にお年寄りが立ったので、いつものように「どうぞ」と声を掛けた。
するとこんな言葉が返ってきたのだ。
「いやいや、お若い人たちのほうが疲れているんだから、どうぞ座ってて下さい^^」
謙虚で聡明な先輩方にはやっぱり敵わない、と思い知らされる若輩者です。