見出し画像

いつの間にか痴漢を警戒する側ではなく自制する側になっていた

出オチ気味のタイトルですいません。
痴漢というのは圧倒的に女性が被害に遭う可能性が高いものですが、男性も被害に遭うことがある。

痴漢、ダメ。ゼッタイ。

ということで痴漢についての話です。



痴漢=強制わいせつではない

痴漢=犯罪ではあるのだが、多くの場合「迷惑防止条例違反」に当たるため、必ずしも「強制わいせつ罪」になるわけではない。

この線引きは難しいのだが「下着の中に手を入れたかどうか」で判断されることが多い。迷惑防止条例違反の場合は程度によって罰金or懲役となるが、強制わいせつ罪は懲役一択だ。

しかしどちらにせよ社会的な信用を失い、家庭崩壊も待ち構えている。

世の痴漢は相当なリスクを背負いながら、それこそ人生と引き換えにお尻を触っているわけだ。
そう考えると随分無謀なギャンブラーである。

中学生から満員電車で通学していた私は、毎日のように痴漢に遭っていた。

痴漢は大人しそうな子を狙うので、おさげ髪でセーラー服の女子中学生は恰好かっこうの餌食だったのだろう。

よく「痴漢に遭うと怖くて動けない」と聞くが、私の場合は「怖い」よりも「気持ち悪い」の方が勝っていた。

車両を変えても電車の時間をズラしてもまた別の痴漢に遭うだけなので、通学鞄でガードしたりアンダースコートを履くことで痴漢との攻防を繰り広げていたのだ。

そんなある時、事件が起きる。



痴漢への怒り爆発

中学2年生の頃だったと思う。
クラスメイトにクミコちゃんという子がいた。

彼女はいつもニコニコしていて皆から好かれており、その日もお弁当が入ったかわいい手提げと一緒に朝の教室へ現れた。

周りの子達とおしゃべりをしながら席に着き、お弁当の手提げを机に掛けようとした時だった。

「キャー!」

突然悲鳴を上げてクミコちゃんが手提げを床に放った。
静まり返る教室。
虫でも入っていたのかと、私も恐る恐る手提げを覗く。

かわいらしいお弁当箱の上に、白濁液が入った薄いゴム製の袋が乗っかっていた。

当時まだ現物を見たことは無かった私だが、これは男性のアレだとすぐに分かった。

クラスメイトの数人が先生を呼びに走り、他の数人が泣き出したクミコちゃんを慰める。
話を聞くと今朝痴漢に遭ったらしく、どうやらそいつの仕業らしい。

ゴム製の袋は先生達によって処理されたが、彼女はショックのあまり早退していった。

夏木は激怒した。

やはり痴漢をやり過ごすのではなく、警察に突き出さなければならない。
義憤に駆られた私は戦う覚悟を決めたのだ。



痴漢冤罪という壁

「痴漢を見つけたらとっ捕まえてやる!」と息巻いていたものの、現実はそう簡単ではない。

普通の女子中学生にとって、大人の男性というのはやはり怖い存在なのだ。
しかも「やめてください!」と声を上げれば車内の注目を浴びることになる。

恥ずかしい思いをするのが嫌で、結局中学生時代は痴漢を検挙することができなかった。

しかし男を知るにつれ、そうした痴漢達を段々と見下す余裕が出てきた。
こうなればこっちのもので、お尻を触っていた手をガッと捕まえて「何してんの?」と言うことも出来るようになる。

ところがここで新たな問題が発生した。

「この人が痴漢だと思ったけど、もしかしたら別の人かもしれない」という冤罪への懸念だ。

痴漢というのはかなり動きが素早いので、こちらが捕まえるより早くサッと手を引っ込めることも多い。
だから現行犯逮捕が難しいのだ。

万が一、冤罪だった場合は、善良な男性の人生を壊してしまうことになる。
悩んだ私は、痴漢を捕まえても警察に届け出ないことにした。

その代わり車内で痴漢に向かって「二度とすんじゃねえぞ」と言うようになった。
すると周囲も「え?なに?痴漢?」と騒ぎ始めるので、痴漢は針のむしろになる。

冤罪だった場合に備えての措置なので、多分あまり正しい対処法ではない。
防犯カメラが設置されている電車もあるが、やはり満員電車内での痴漢を確認するのは難しいと思う。



痴漢、アカン。

歳を重ねる内に、痴漢に遭うこともなくなっていった。
そんなある日のこと。

友人のアユミと一緒にしこたま飲んだ帰り、満員電車に乗り込んだ私は急激な寂しさに襲われた。

飲んだ後に1人で帰っているとよく起こる現象で、どうしようもなく人肌が恋しくなってしまうのだ。
この日は相当飲んでいたこともあり、私はこの寂しさをどうにかして埋めるべく、とんでもない行動に出た。

前に立っていた知らない男性の背中に手を当て、もたれるように顔を埋めたのだ。

痴女です

ギリギリの理性により、手を回して抱きつくことはしなかったものの、突然背中に体温を感じた彼は驚いたことだろう。

男性は動揺していたようだが、振り払われることはなかった。
そのまま最寄り駅に到着した私は電車を降りてハッとした。

後ろから男性が声を掛けてきたのだ。

ヤバイ!
捕まる!!

必死にホームを早歩きして逃げた。
冷静に考えれば痴漢とまでは言えない行為だったとは思うが、鉄道警察24時に出演してしまうのが怖かったのだ。

あの時のお兄さん、不快な思いをさせて大変申し訳ありませんでした。

みなさん、痴漢は犯罪です。
自制しましょう。

いいなと思ったら応援しよう!