【映画レポ】生きることは役目を果たすこと|実写版「ゴールデンカムイ」
1月19日に封切りとなった映画「ゴールデンカムイ」。
私は原作漫画・アニメのファンではあるものの、いやだからこそ、実写化に対して懐疑派でした。
しかし先月、同じく原作ファンである人権が欲しい林田さん(私はリンダさんと呼んでいる)が絶賛されていまして。
リンダさんがそこまで言うなら見てやろうじゃないの!と勇ましく映画館に突撃したわけです。
先に言っておきます。
素晴らしい出来でした。
可哀想なアイヌではなく、強いアイヌ
ゴールデンカムイは野田サトルによる漫画作品であり、2018年からアニメ化もされている。
時代設定は明治末期。
日露戦争後の北海道並びに樺太を舞台に繰り広げられるサバイバル冒険活劇だ。
この漫画の最も特徴的な点がアイヌ文化に焦点を当てたところ。
作者の野田氏は実際にアイヌの人々に取材をし、詳細かつ繊細にその文化を描写している。
取材中、彼はアイヌの人からこう言われた。
「可哀想なアイヌではなく、強いアイヌを描いて欲しい」
迫害・差別など暗いイメージのあるアイヌだが、本来は自然と共生する誇り高き狩猟民族である。
これを受け、作者は「カッコよくて面白いアイヌ」を描くことを決めたのだ。
この方針がゴールデンカムイという漫画の底知れぬ魅力の根源となっている。
漫画の実写化を成功させるために必要なこと
これまでにも多くの漫画作品が実写化されてきた。
漫画というのは「日常系」と「非日常系」に大別できる。
日常系は元々の作画が写実寄りだったり設定が現代なので、割りと実写化が容易い。
対して非日常系はファンタジー要素があったり時代や世界観の設定が複雑なため、実写化のハードルが高いのだ。
日常系は成功する確率が高いものの、必ずしもそうとは言えない結果になるのは昨今のニュースでみなさんもご承知だろう。
実写化の成功と失敗を分けるものとは何か。
原作へのリスペクト?
制作側の情熱?
俳優陣の気合いの入れ方?
それらも勿論求められる要素ではあるが。
答えは案外シンプルだ。
制作費の多さである。
地上波のプライムタイムのドラマを1時間(正味45分)制作するのに必要な金額は約3,000万円。
これに対し、128分の映画であるゴールデンカムイの採算ラインは25億円と言われている。
TVドラマと映画は単純に比較するものでは無いが、ドラマよりも映画のほうが何十倍も制作費を注ぎ込めるのだ。
これが何を意味するか。
2次元と3次元の溝を埋められるのは金
漫画の実写化に際し、原作ファンが一番気を揉むのがキャラクターの再現性だ。
「もしも実写化したら」という妄想でファンはあれこれと役者の名前を挙げたりするが、現実的にはギャラ問題が発生する。
制作予算は決まっているので、その中で配役を考えるとなると、キャラクターにそぐわないキャスティングになったりもするのだ。
その点ゴールデンカムイの配役は完璧だった。
山崎賢人や眞栄田郷敦などの旬の俳優を配しつつ、舘ひろしや玉木宏といったベテラン俳優、更には「漫画からそのまま抜け出してきた?」と言いたくなるほどのハマり役な矢本悠馬に勝矢。
制作陣のこだわりが窺える。
そしてもうひとつ大事な点が、セットと背景だ。
低予算な作品はロケ地や小道具・大道具に十分な予算を割けない。
そこでCGの出番となるわけだが、その技術も金額によってピンキリなのだ。
安っぽいCGは視聴者側としても「CGだなぁ」と分かるほど浮いてしまう。
が、ゴールデンカムイはSpade&CoというプロのVFX集団を起用したことにより、全く違和感の無い映像に仕上げてきたのだ。
金の話ばかりして申し訳無いが、予算をどれだけ使えるか、は作品のクオリティに直結する。
だが勿論ゴールデンカムイが成功した理由は予算だけではない。
俳優陣の努力
正直に言う。
ゴールデンカムイ実写化のニュースが報じられた時、主人公役が山崎賢人だと聞いて私は萎えた。
主人公の杉元佐一は屈強な軍人であり、作中で「不死身の杉元」と二つ名を付けられる程の人物だ。
細身の俳優である山崎賢人に演じられるわけは無い、と切り捨てて当初は観る気もなかった。
だが実際に鑑賞して驚いた。
思わず謝罪したくなる程に山崎賢人の役者魂は凄かった。
この役を演じるに当たり、彼は10kgの増量を伴う肉体改造をして撮影に臨んだという。
劇中、上半身裸のシーンが映し出されるのだが、素晴らしい肉体だった。
さらには「戦争で人を殺めた」という過去から迫り上がる狂気をはらんだ表情の演技力。
彼は完全に杉元佐一になりきったのだ。
そしてアシリパ役の山田杏奈。
原作では12歳(推定)とされているキャラクターを23歳の女性が演じることに疑問を持つ人もいるだろう。
しかしアシリパは精神年齢が高い登場人物なので、ほぼ大人と言えるような振る舞いをする。
だから20代の女性が演じてもそれほど違和感は無い。
そして技術的な面でも、アクションシーンや弓矢の扱いをもしも10代前半の子役にやらせた場合、諸団体からクレームが付くことも予想される。
こうしたコンプラ面の配慮はエンドロールにも示されていた。
全方位に抜かり無し
私の記憶が確かならば、エンドロールにこのような一文があった。
「この映画の撮影に際し、動物に危害は加えられていません」
アイヌは狩猟民族なので、少なくとも作中の時代にはクマやリスにシカ、カワウソなどを獲って食べていた。
映画内ではそうした動物を殺したり捌くシーン(表現はソフト)もあるのだが、全てVFXで作られている。
人に危害を為す熊を猟友会が仕留めるだけで「熊が可哀想」とクレームを付けてくる人がいる時代だ。
徹底されたコンプラ意識には頭が下がる。
アイヌという文化を知り、楽しむ。
映画の冒頭で「カント オㇿ ワ ヤク サㇰ ノ アランケプ シネプ カ イサㇺ」という一文が出てくる。
アイヌ語で「天から役目無しに降ろされたものは一つも無い」という意味だ。
この言葉だけで、本作品が単なる面白おかしいエンタメでは無い、ということを分かってもらえるはず。
ゴールデンカムイは公開から17日間で興行収入16億円を突破し、これからもロングランが予想されている。
映画一作目はまだほんの序章に過ぎない。
WOWOWが出資しているので、今後ドラマと映画のどちらで続編が作られるのかは分からないが。
邦画としてはトップクラスのアクションシーンと個性あふれるキャラクター。
北の大地の美しさとアイヌ文化の清らかさ。
そして続きが気になって仕方無いほどの緻密なストーリー。
漫画の実写化はこうあるべきだ、というお手本のような作品です。
物語の最後まで、どうかこの素晴らしいキャストとスタッフで制作が行われ続けることを心より願います。
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