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ナンバーワンと元ナンバーワン
以前キャバ嬢時代の話を書きました。
夜の蝶になることを夢見て銀座に就職したものの夢破れ、諦めきれずにとある繁華街のキャバクラでナンバーワンになった話です。
キャバ嬢時代のエピソードは掃いて捨てるほどありますが、ふいに書きたくなったので1年ぶりに書いてみることにしました。
今回はナンバーワンの光と影について。
※当時と現在ではキャバクラの時給やシステムにかなり違いがあります。
あくまでも「その頃の話」なのでご了承ください。
ナンバーワンになった夜
入店から3ヶ月後のランキング発表で、自分の名前が1位に記されていた。
私がこの店のナンバーワン。
興奮と喜びと、けれどもそれをあまり表に出してはいけないという自制心で、私はぎこちなくスタッフからの拍手を受けた。
周りにいる他の嬢からの冷たい視線が突き刺さる。
この店に在籍している100人余りの女の中で私は1位になった。
それは途轍もない光栄であると同時に、周囲の嬢からの反発を生み出す卵であることも私には分かっていたのだ。
アフターミーティング後、マネージャーの星野くんが声を掛けてきた。
「店抑えたんで、一緒にお祝いしましょう」
着替えてから星野くんと落ち合うと、いつもの居酒屋ではなくちょっと高級なお店に連れて行かれた。
この時すでに0時を過ぎており、店の看板の照明は落とされていたから恐らく星野くんが頼んで特別に開けてもらっていたのだと思う。
案内された個室にはボトルクーラーの中にキンキンに冷えたシャンパン。
「僕、シャンパンの中でヴーヴ・クリコが一番美味しいと思うんですよ。凛さん、ナンバーワンおめでとうございます」
店では単価の高いドンペリが出ることが多く、私はあまり美味しいと思ったことがなかった。
けれどこの時飲んだヴーヴ・クリコは素直に美味しいと思った。
これ以降、私はシャンパンの中でヴーヴ・クリコが一番好きになった。
私がナンバーワンになったお祝いの銘柄だから。
真鯛のカルパッチョを食べながら星野くんが言った。
「大変なのはここからですよ」
この時私は「ナンバーワンになると常連のお客様も増えるし、忙しくなるもんなぁ」ぐらいの意味合いに受け止めた。
しかし彼の真意に気付いたのはそれから1ヶ月後。
元ナンバーワンの逆襲
私が入店した当初、ユウナさんという人がナンバーワンとして君臨していた。
見た目のギャルっぽさとは裏腹に、おっとりしていて女性らしく、他の嬢からも好かれている人だった。
ナンバーワンを私に明け渡してからも特に意地悪をしてきたりはせず、普通に接してくれていたのだが。
自分のお客様に対してエグいぐらいの営業をかけ始めた。
「ユウナ今日全部飲んじゃうかも~♡」と、ボトルをその場で2本入れさせるのは当たり前。
「今日勉強が忙しくて全然ご飯食べられなかったのー><」と寿司をデリバリーさせたりフルーツ盛りを頼ませたり。
ある意味めちゃくちゃ見習うべき嬢である。
売上を考えるならとことん毟り取るべきだ。
が、彼女の営業攻勢によって私は一抹の不安を覚えた。
もしかして私、来月はナンバーワンになれないかも…。
ナンバーワンの意味
翌月、僅差で私はナンバーワンを維持できた。
だがユウナさんの追い上げには鬼気迫るものを感じる。
恐らく私は彼女のプライドを傷つけてしまったのだ。
たった100人余りという小さな世界ではあるものの、女王であった彼女の冠を私は奪ってしまった。
恨み嫉みだけではなく、実力者としての力を示して返り咲きたかったのだろう。
ユウナさんの姿に心苦しさを覚えた私は、いつもの居酒屋で星野くんに相談した。
彼は私の話を聞きながら長い時間をかけてアメスピを吸った後、灰皿に押し付けながら言う。
「凛さんはナンバーワンになりたかったんじゃないんですか? そんなお友達感覚で譲るんですか? ナンバーワンを維持するのは一握りの人間にしか出来ないことなんですよ?」
頬を叩かれたかのような衝撃だった。
そうだ。
私は友達を作りに来ているわけではない。
たとえ他の嬢に恨まれようと憎まれようと、ナンバーワンとして存在するためにこの仕事をしているのだ。
路線変更
星野くんのプロフェッショナルさの前に、私は自分を恥じた。
そしてお願いしたのだ。
もっとお客様を増やしたい。
そのためのアイデアが欲しい。
星野くんは私に路線を緩やかに変更することを提案してくれた。
前記事で書いたように、私はアイドル路線だった。
が、新規のお客様の性質によってはキャピキャピさを抑えればもっと顧客を増やせると。
「凛さんは勉強熱心ですし誠実さがあります。嘘を真実にする力がある」
これが褒め言葉なのかどうかは分からないけれど。
私は徐々に路線変更し、あらゆる性質のお客様へ対応できるよう舵を切った。
ドレスの雰囲気も少しずつ変えたことにより「ぽっと出の人気新人」から「納得のナンバーワン」と評価されるようになったのだ。
その後、ユウナさんはいつの間にか店を辞めた。
多分他店に移ったのだろう。
誰だって自分が一番だと褒め称えてくれる場所にいたいのだから。