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【NETFLIX】大相撲の光と闇「サンクチュアリ -聖域-」
2023年5月4日、Netflixで非常に挑戦的なドラマが配信開始となった。
一言で言えば「相撲ドラマ」。
だが、相撲をよく知らない人でも8割の人はハマるんじゃないか、と思うほどの稀に見る怪作である。
その魅力について解説したい。
なお作品のあらすじには触れるものの、核心部分のネタバレは一切ありませんのでご安心ください。
あらすじ
北九州に住む小瀬清(のちの四股名「猿桜」)は、かつて柔道に邁進する少年だった。
しかし両親の借金や家庭内不和によってアウトローな道を進み始める清。
そんな折、相撲協会所属の親方・猿将からスカウトを受ける。
「土俵にはね、全部埋まってるんだよ。金、地位、名誉、女…」
金のため、そして未知なる欲望のために清は相撲界に身を投じ、横綱という頂点を目指す。
日本相撲協会「非公認」
実在する競技や団体を主題としたフィクション作品は、映像化に当たって「公認」のお墨付きを得ることが多い。
例えば実写ドラマ「海猿」は海上保安庁が全面協力したことで実際の巡視船を撮影に貸し出してもらえたり、アニメ「ハイキュー!!」は日本バレーボール協会とコラボした天皇杯・皇后杯も行っている。
たとえフィクションであっても実在の団体に公認してもらえれば、あらゆる面で相互利益が出るものだ。
ところが「サンクチュアリ -聖域-」は、日本相撲協会から一切の協力を得ていない。
何故か。
協会としては容認出来ない赤裸々過ぎる内容だからだ。
単なる暴力行為にしか見えない「かわいがり」。
八百長による星の貸し借り。
親方同士の確執。
タニマチの闇。
こうした一切を土俵の外から、極めて淡々とドラマティックに切り取った作品を、どうして相撲協会が公認など出来ようか。
ドラマをヒットさせる「反転系」
話題作となるドラマにはいくつかの法則がある。
「痛快系」「裏切り系」「予定調和系」など様々だが、本作品は「反転系」だ。
視聴者の側に立った狂言回し(ストーリーの進行役)に、あえて序盤は主題に対して否定的な意見を述べさせる。
しかし回を追うごとに主人公への理解を深め、最終的には寄り添う立場となって「反転」させ、同時に視聴者を共感させるのだ。
本作での狂言回しを担ったのは、報道部で問題を起こしてスポーツ部へ異動させられた新聞記者の女性。
アメリカ生まれの帰国子女で、ハラスメントに対して非常に敏感な「扱いにくい系女子」だ。
相撲の四股に対しても「効率的でない」とバッサリ切る。
だが仕事として相撲を取材していく内に、そして主人公との出会いにより、彼女の中で何かが変わり始めるのだ。
元力士を起用、だけではない
相撲ドラマだけあって、今作には元力士が出演している。
九重部屋に所属していた千代の眞。
中村部屋に所属していた飛翔富士。
しかし多くの力士役は一般俳優。
本作品の出演に当たり1年以上もかけて肉体改造をし、本気の相撲稽古をして本物の力士に見える身体にしたのだ。
「撮影当時は本当に相撲部屋のようだった」とインタビューで染谷将太が語っている。
特筆したいのは龍貴役の佳久創だ。
彼は元ラグビー選手の俳優であり、大河ドラマ「鎌倉殿の13人」では武蔵坊弁慶に抜擢され、役作りのために30kgも体重を増やした。
今作でも「相撲界のプリンス」に相応しい肉体と風貌を作り上げて撮影に臨んだ。
現役力士でもここまで均整の取れた身体には中々お目にかかれない、というほど素晴らしい肉体美を披露している。
力士役以外の、脇を固める俳優陣には豪華な顔ぶれがずらり。
小雪・中尾彬・松尾スズキ・余貴美子。
中でもやはり猿将親方を演じたピエール瀧の存在感が凄い。
罪を犯した者がしれっと復帰できる業界に対して色々な意見はあると思うが、少なくとも今作においては彼が猿将という役どころに適任だったのは間違いないだろう。
やがて応援したくなる主人公
角界に入門した主人公・小瀬清だったが、その振る舞いはハッキリ言って非常識。
相手が先輩であろうと殴り掛かり、土俵上でガッツポーズをするなどやりたい放題。
相撲ファンの視聴者からすると「とんでもない!こんな力士は応援できない」となるだろう。
しかし彼の背景事情や父への思いが徐々に明らかとなるにつれ、ぐんぐん惹き込まれていく。
一心不乱に稽古に取り組み始める姿を見ていると、いつの間にやら「頑張れ!」と声援を送りたくなってしまうのだ。
主人公を演じた一ノ瀬ワタルは元格闘家の俳優。
最初は「だらしない身体で」と監督から注文を受け、猿桜の成長に合わせて少しずつ筋肉量を増やしていった。
初めての稽古から数えて撮影は2年半にも及び、クランクアップの際は号泣。
役者とスタッフが本気で取り組んできた作品であることが、映像を通してひしひしと伝わってくる。
相撲は神事かスポーツか。
土俵の中には何があるのか。
是非この作品を見て確かめてみてほしい。