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【小説】 ならずもの

どうしても、譲れない線がある。
その線を越えてこちら側へやってくる者が、ならず者がこの世には存在する。
大きく踏み込んで切り込んでくるし、マシンガンのように捲し立てる時もある。息継ぎする暇も与えないほどの自分勝手な傲慢さ。お前は自分より下だと分からせてあげているのと言わんばかりの罵声。全て、自分自身に自信がないからそういった行動に出るのだよとどこかのコラムは書いている。
だから、相手にするだけ無駄なのだとも。
それでも、その場に居合わせてしまった自分はどのように切り返すのがいいのだろう。と、いつも思う。
相手はまず耳を持たない。
こちらの意見を聞くという姿勢すらない。
そして落ち着くという理性もない。
感情に任せて思いついた言葉を片っ端から投げてくる。
話を聞いていないとわかるや否や、さらに怒りに火を注ぐ。
口だけは達者で、どこまでも地の果てまで追いかけてくる。
「お前が悪い」
「私はこんなに大変だった」
「どうしてこんなこともできないの?」
「使えない」
「その程度なの?」
罵声を一通り浴びせたかと思えば世間話に移る。
やれあの子の子供が大きくなっただの、誰々が結婚しただの、車を買っただの家をリフォームしただのああだのこうだの。
正直どれもどうでもいい。
好きにしてくれ、他人の人生だろ?
出てくる登場人物の1割しか知らない私に、どう反応することを期待しているのか甚だ疑問である。
「「浅いな」」
と、最近常々この頃ことあるごとに、そう思ってしまう。
考えが、浅い。
目先の誰かの話ばかりでつまらない。
誰がどうしてようと勝手だし好きにすればいいのに。気にしてる。
何を持とうが何を買おうが、どこへ行こうがどう生きようが勝手なのに。
「「知らんがな」」
そう、仏のような気持ちで話を聞いてあげるのも限界というものがある。
それが俗にいう「仏の顔も三度まで」と言う諺だ。
この人はこの言葉すら知らないまま死ぬんだろうか。ここまでくるともはや哀れである。
嫌気がさした関係性を改善することなど出来ないので、私にとっての「ならずもの」とは縁を切ろうと思い立ち、私は神社へ向かった。
2礼2拍手1拝
きちんと耳を揃えてお祈りする。
どうか、これ以上ならずものと関わることがありませんように。
然るべき防衛本能とも取れる祈りを心に刻み、ならずものとは縁を切る。
これ以上、お互いが疲弊しませんように。

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