【小説】 書く
「この前読んだ新刊、どうだった?」
席につくなり覗き込んで聞いてきたマホは息を弾ませて聞く。
「よかったよーとても柔らかい感じがして、マホが好きそうな感じがした」
「でしょでしょ!」
「後半の展開には正直驚いたかなー」
「おお、お目が高い。そこがあの新刊の面白さよねーほんと、こういう話ができる友達がいてよかったってつくづく思うわー」
「私も」
そう言って笑った。
少し涼しくなってきたばかりの、秋の初めのことである。
私とマホは中学からの幼馴染と言ってもいい関係で、一度同じクラスになってから仲が良くなるまでが早かった。お互い、思っていたことを言い合って笑って時々むすっとしたりして、面白おかしく過ごしている。
その関係は高校になっても変わらなくて、相変わらずお互いの好きな話をしている。最近は少し、恋バナも混ざったりして。
「でさーさとけんったら次は補習するぞって脅してきてー」
マホは相変わらず自分のペースで話す。
今日あった出来事を上から下まで、レシートのようにつらつらと話していく。私も、そんな話をラジオ感覚で聞いていたりして、時々相槌を打ちながら、単語帳をめくる。
次の中間テストは、少しいい点数をとって次に繋げたいと思っているからこそ、曖昧な返事になってしまっていた。
「…もう!カヨったら単語ばっかり。少しは聞いてくれたっていいじゃん」
次第に怒り出したマホを宥めるべく、パタンと閉じる。
「聞いてたよ?時々、聞いてなかったのは認めるけど、でも聞くべきところは聞いてた。ほら、さとけんに補修を脅されたんでしょ?宿題提出してないのが重なったからって脅されるのは違うって言ってたじゃない」
「…聞いてたんだ?」
「そりゃあね」
「聖徳太子だわーカヨ、国を納められるかもよ?」
「お、いいねえ。じゃあ私が総理大臣になったら真っ先に学費を無償にしたいね」
「どうして?」
「そりゃあ、学ぶことにお金がかかるなんて馬鹿げてるからよ。学びたいと思う人全てに門戸が開かれるべきでしょ?」
「おおーカヨ様、頼みます」
そう言って、マホは笑った。
秋の夕暮れが色濃く空に映し出されていて、鱗雲が棚びくように流れていた。穏やかな時間が、そこにはあった。
ある日、久しぶりの息抜きにと思い、小説を読んでみた。
思いの外、序盤からグッと引き込む言葉に連れられて、あっという間に引き込まれた私は読み切ってしまった。
読み終わった後の余韻と充足感に浸りながら、室内の天井を見上げる。
何にもない真っ白な天井に、今読んだ世界が飛んでいる。
いい小説とは、通奏低音のような気がする。
肌触りのいい音が一定に響いて、雪の上を踏み固められたような、淡い思いが込められている。
そんな、自分の感覚を大切にしていきたい。
視線を戻したノートに自分の感じたことを書いて、記して、また思う。
いつか、未来の私が読み返した時に再解釈できることを祈って。
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