【小説】 Alarm
「じゃあ朝4時に起きて8時に俺を起こしてよ」
そう言って彼は眠った。冗談だろうなと思って聞き流しているものの、よくそんなことを平気で言えるな?と時間が経ってから思うことが多々ある。
正直な話、私はそこまで頭が良くない。
だからその場で言い返せないし、周りから言われたらそのまんま間に受けて行動したりする。もう少し考えればわかるじゃんって言われることもあったし、考えろよって言われたことも一度や二度じゃない。
わかってるよ、そのくらい。
考えてるよ、言われた通りに。
でも、周りからしたら「考えてない」
いつまで経っても、私は考えられていない。
じゃあ何を持って「考えている」なのか。
その問いに対する答は未だ、根深い問題として私の中に居座っている。
本当はただ、苦しみたくないから直視してないだけなのに。
わかってるよ、その程度。
考えてるよ、この関係も。
だから、そろそろ痛みと向き合う時が来たのかもしれない。
本当はただ、考えずに楽な道を選べればよかったけれど。
それでも。
目覚ましをかけずにふと目が覚めて携帯を見たら3:58だった。
私の身体も素直なもんで、言われた通り4時前に目覚めたりする。
こういう従順さが結局、都合のいい相手となりうる要素なのだ。
わかってる。
4時を過ぎた頃にそっと布団を抜け出して、私は洗面台に向かった。
口の中に溜まった汚れを歯ブラシで洗って濯ぐと、すっかりピカピカになって、舌触りのいい歯が心地よくて、ちょっとびっくりした。磨き終わった歯ブラシはゴミ箱に捨てて、軽くメイクをしたら荷物をまとめる。
「8時に起こして」なんて、甘えでしょ?
今時はアレクサやGoogleに頼めるんだから、そっちに頼んでよ。
などと怒りが勝手に湧いてくるから可笑しい。
行動してしまえば、どうとでもなるのだ。
「おはよう、今日は用事があるから帰るね」
そう書いてしまったら、また怒鳴ってくるのが目に見えるから書き直す。
「おはよう、今朝実家から通知があってちょっと急ぎで帰らないといけないから帰るね。あと私、あなたの目覚まし時計じゃないので自分で起きてね。そして最後に、今までありがとう。さようなら」
まだ日が昇る前に家を出る。歩いていると、少しずつ明るくなった空が始まりを告げているかのように鮮やかだった。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?