【前編①】地域に根ざした食料システムとは?
こんにちは。池田です🥐☕️
そして、一生大好きなわんこチロル🐶
さて今回は、地域に根ざした食料システムとは何か?それがなぜサスティナブルなのか?という点を説明していきます。
地域に根ざした食料システム
まず、前回の記事でも少しだけ説明した「地域に根ざした食料システム」と私が呼んでいる local food systemについて説明していきます。
A local food system is a collaborative network that integrates sustainable food production, processing, distribution, consumption, and waste management in order to enhance the environmental, economic, and social health of a particular area. (Local food systems, community-wealth.org より引用)
つまり、重要なのは大きく分けて3つ:
①Collaborative network
②Sustainable food production, ...waste magagement
③A particular area
だと思われます。
(Local food systems, community-wealth.orgより引用)
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1つ目のCollaborative networkとは、関係する出来るだけ多くの人々(アクター、ステークホルダー)が関わっているネットワークであるということを指しています。
もちろん、食の生産や加工の過程に直接関わる人々(生産者や加工業者、運送業者、販売者など)が協力して作り上げるシステムであるという意味がまず第一にあります。
しかし私は、このcollaborateを広義に解釈し、例えば、地方自治体、様々な企業、住民や、その地域で活動するNGO団体、学校など、地域で活動をする人なら誰もが参加できるネットワークのことを指していると考えています。
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2つ目のSustainable food production, processing, distribution, consumption, and waste magagementという点も重要です。
食料システムが何をもってサスティナブルかは後ほど説明したいと思いますが、ここで押さえるべき重要ポイントは、食料システムが生産から消費、廃棄物の管理までの一連の流れだという点です。
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3つ目のa particular areaというのは、ひとつの限られた地域において、という意味です。
豆知識?ですが、私たち地理学部ではこのスケールの部分が最も議論になる点のひとつです。そもそも地域ってなに?どこからどこまで?という議論は授業の中でも頻繁になされ、答えの出ない問いです。訳すことはできても、定義が非常に難しいのがこの「地域」ですね。この話に関しては、別の回で詳しくできればなと思います。
なぜローカルはサスティナブルなのか
ローカル、つまり地域に根ざした食料システムはなぜサスティナブルなのでしょうか?この問いはさまざまな点から説明できます。
完璧に網羅することはできないと思いますが、出来るだけ多くの要素を挙げていきます。
また、私自身が、農業に特化した専門であるので、ここでは漁業など他の産業には触れずに、「生産」については畜産や野菜、麦、米などの生産に限って話をしていきたいと思います。
(フランス リモージュ近郊でWWOOF をした時)
ローカルがサスティナブルな理由
環境に優しい
自然を破壊するシステム
気候変動の問題を発端として、何をするにも環境問題への配慮が不可欠な時代になりました。地域に根ざした食料システムは、環境にとって優しいと言われます。
その理由は、適切な経営規模です。地域に根ざした食料生産は基本的に、地域で必要な最低限の食料の生産を担っています。
つまり、理論上、お金を稼ぐために農家が経営を超大規模化して生産量を無限に増やしていく必要がありません。なぜなら、生産した作物が必要以上の仲介業者を介すことなく適正価格で取引されると仮定されているからです。
ちなみに、あくまで理論上の話なので実際の現場の状況は異なり批判も多くあります。
(余剰を他の地域に売ることで地域経済を回すという考え方は重要ですが、その場合は「過剰」ではないと考えます。ひとまずこの話は隅に置いておきます。)
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ここで触れておかなくてはならないのが、市場経済や行き過ぎた資本主義(私はこれを新自由主義経済と呼んだりしますが、定義は様々なのであまり突っ込みません)の存在です。
1970年代以降、貿易の自由化や欧州共通農業政策(PAC)による構造的な改革の影響で、多くの農家は経営の大規模化を進めました。大量に生産することでより多くの収入を得ようとしたのです。これが、グローバルな食料システムの始まりです。
日本と比べて見てみましょう。
日本の農家は一般的に兼業農家と言われており、2019年の一経営体あたり耕作面積の平均は1.77haです(北海道を除く)。つまり、農業以外の仕事や年金などの収入があるために小規模でもやっていけるということです(農林水産省 2019年度調査より)。
一方でフランスは、農家といえば専業農家が一般的で、2013年の平均経営面積は58.7haとなっています(Farm structure survey2013より)。ドイツも平均58.6haなので、日本との規模の差がお分かりいただけるかと思います。そして、殆どの大規模農家は企業などに雇われたサラリーマンです。
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少しずれましたが、話を戻しましょう。
従って、この数十年間で著しい経営規模の拡大を経験したのがフランスをはじめとするヨーロッパの国々でした。そしてそれは、環境への様々な悪影響をもたらしました。それらの問題は、欧州の政策に後押しされた「負の遺産」と言われています。
なぜ、経営規模(農地や畜舎の面積)が大きいと環境に負荷がかかるのか?
この質問に対する主な切り口として、土壌の枯渇、水質の汚染、生物多様性の減少が挙げられます。
詳しい説明は省略しますが、農薬や化学肥料の大量使用による土壌の枯渇は分かりやすい例です。土の質が悪くなって作物が取れにくくなり、さらに薬品を投入するという連鎖も起きます。
また、これらの薬品が地下水を経由して川や海に流れ込むことで水質が汚染され、海の生き物が失われます。畜産業による水質汚染は欧州ではかなりメジャーな問題です。
フランスでは、汚染された海岸の海藻が有害物質を出し、野生動物が死ぬという事例もありました。
(以下で紹介するThe New York Times 記事より引用)
さらに、時代とともに植物や鳥類の多様性の減少が見られ、それが大規模農業による弊害だと発表する研究も多くあります。生物多様性です。
例えば、大規模農業は農地周辺の木々(hedge)をなくすことで機械化と効率化を図ります。そのせいで、住処が無くなったり食べるための虫が少なくなった鳥たちが生きていけなくなってしまうのです。
これらの話を詳しく知りたい方は、New York Times のこちらの記事をご覧いただければと思います。↓
Killer Slime, Dead Birds, An Expunged Map: The Dirty Secrets of European Farm Subsidies (Apuzzo and al, 2019)
(画像や図での解説が多くとても美しい記事になっているので、英語が苦手な方もビジュアルを是非ご覧になっていただきたいです。)
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だからローカルが良い
このような環境負荷を減らすには、規模の縮小が必要不可欠です。規模を縮小することで、自然農法や有機農法などの化学的なものに頼らない農法を実践していくことのできる可能性も高まります。土壌や水質を蘇らせて土の中や海の中の生き物を守ったり、農地と農地の間に木を植えて鳥たちを呼び戻すこともできるかもしれません。
したがって、フランスにおいては、小規模な農業、あるいは適切な農地の規模を保つことのできる地域に根ざした食料システムはとても重要だという流れになって来ています🙆♀️
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疲れました。
前編では、地域に根ざした食料システムとは何か?また、なぜそれが環境に優しいのか〜土、水、生物多様性〜?でお届けしました。
長くなりましたが、読んでくださった方がいたら、本当にありがとうございました...
優しくなるための第一歩。
前編②では、エネルギー問題や食料廃棄について、補足的に説明したいと思っています🤸♂️
また、後編では、地域に根ざした食料システムがなぜ社会的倫理的に優しいのかについて説明していきます👩🌾🐷🐥🌱
お楽しみに!
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池田夏香:パリ第10大学(Université Paris Nanterre) / 地理・都市政策・環境学部(Géographie, aménagement et environment) / 農的な場や地域の振興に関わる分野を専攻しています。(Nouvelles ruralités, agricultures et développement local)
プロジェクト/インターンシップ:イルドフランス国立自然公園における農法の転換と水質汚染改善へ向けたコンサルタント(Consultancy for the sustainable transition of agricultural production systems to improve water pollution in the Vexin-Française Natural Park in Ile-de-France) / インド ポンディシェリにおける地域食料システム構築プロジェクトでのインターンシップ(Research internship for local food system in Pondicherry, India)/ 長野県 岩野地区堤外農地における浸水と農家のレジリエンス調査(Community practices of the Japanese agricultural village: Evolution of factors of resilience and vulnerabilities in Iwano, Nagano prefecture)