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秋月圓の2冊目(秋)|それでも日々は続く vol.5

谷垣大河(Tanigaki Taiga)
1994年生まれ。天牛堺書店、紀伊國屋書店を経て2022年に清風堂書店入社(2025年2月末で閉店)。
X(Twitter)@Silver_Hammer6

秋 峰善(Shu Pongseon)
千葉市稲毛区育ち。2024年3月「秋月圓」創業、『夏葉社日記』刊行(第3刷)。2025年1月「シリーズ人間」創刊(「新世界」)。趣味は将棋(歴3年)とサッカー(歴30年)。
X(Twitter)@shugetsuen

執筆者プロフィール

2月17日(月)

自宅の電波が弱く、ひとりで最寄りのカラオケ屋に入りオンライン打ち合わせ。昨夏から水面下で進めている企画、こだまさんといりえさんの往復書簡本である。いつの間にか、手紙のやり取りをしてもらって半年が経っている(来月からnoteで連載予定)。今年の秋には秋月圓の2冊目として刊行したい。

本をつくれるようになって意識しているのは、先の見えない企画にチャレンジすること。「好きな作家にこんなテーマで書いてもらおう」という出版社にいるころの企画の立て方からは、いよいよ卒業してしまった。あるとき、もしかしたら本をつくるというのは事故のように出合う企画を成り立たせることなのかもしれない、あるいはそんな場にたまたま居合わせるというのが編集の仕事のような気がした。いまでは企画会議でベテランに一蹴されるなんてことはなくなったが、だからって自由気ままに本をつくっているわけではない。みずからに課すのは、なにかしらの痛みや困難がつきまとうものに挑戦すること。どんな本になるのかまったく予想できない企画を選ぶようになった。秋月圓の2冊目(「こだまといりえ」と呼んでいる)もそんな企画。

14時からはじまった打ち合わせ。ぼくはこのおふたりが好きだ。ふたりとも優しくて可愛くて気遣いのできる素敵な人で、いつも話し終えたあとは気分がいい。個人的には反省することが多い。「ちゃんと言葉で説明できていたか」「ちょっと話を遮ってしまったかも」と悩む。ぼくはあいかわらず下の歯が抜けたままだったが、そこにはだれも触れなかった。おふたりはこの往復書簡を楽しくやれているといってくれる(打ち合わせも楽しいらしい)。本をつくる前には「コンビニのレジ前にある豆大福のような本」(気軽に手に取ってもらえるような本)と説明していたが、原稿が集まってくると(素晴らしい文章なので)、当初の想定より豪華な装丁・造本にしなくてはならないような気がしてくる。読者のみなさんに大切に受け取ってもらえる、それこそ手紙のような本にしたい。14時半にはおおまかな話し合いが終わり、少しダベって15時に終了。


2月28日(金)

きょうは谷垣さんの働く清風堂書店さんが閉店する日。何度も行こうかと思った、迷った。いや、行くべきだったかもしれない。ほんとうにごめん。ぼくの力不足です。いまからでも新幹線に飛び乗るべきだろうか。このあと後悔しないだろうか。先日、映画館で観た『SE7ENセブン』のサマセット(モーガン・フリーマン)の言葉を借りよう。「いまでもその選択が間違っていたとは思わない。しかしそのことを後悔しない日はない」。

いまやるべき作業がまるで終わらない。何週間も入力し続けている、生まれてはじめての確定申告。著者やデザイナー、本屋さんへのメールの返事。3月から連載予定のnote(「こだまといりえ」)の準備。「シリーズ人間」の原稿チェック、それぞれに感想を書く。

最終日、谷垣さんは忙しいだろうか。toi booksさんのポストを見ると、どうやら店の前でお酒を振る舞うようである。行きたかったけど、これも天命。大河さんが忙しくも、楽しく最後まで働けることをお祈りします。

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