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新橋 午前3時43分

今、深夜のタクシーの座席にもたれかかりながら、もう早朝なのに妙に熱を帯びて冴えた頭で、フリック入力をしながらスマホでこの文章を書いている。

久々に、朝方までお酒を飲んでいた。新橋、日本のサラリーマンの飲み屋街で。コロナ禍がウソだったのではと感じてしまうほどの人混みと熱気で、人にぶつからずに歩くことが精一杯だった。

楽しかった。
私は楽しかったんだ。

生まれたてのヒヨコのような、ほわりとした初々しい温かみが胸に小さく広がっているのを感じて、その体温を手に取って味わうように、大切に噛み締めた。


9月末に、沖縄の無人島へ行った。仕事の先輩であるてらけんさんが企画してくれたツアーで、高橋歩さんという事業家の方、そして仲間内20人ちょっとくらいで2泊3日の時間を共に過ごした。



ーーー楽しかった。

ただただ、本当に楽しかったのだ。



遊びに行ったんだから、楽しいのなんて当たり前じゃないかと思うかもしれない。けれど本当に純粋に、ただただ楽しかった。別れ際に涙が出てしまったバイバイは、もう何十年ぶりだっただろうか。そして東京に帰ってきてからも、しばらく「楽しかったな」というウキウキとした余韻が続いていた。

ただワイワイしただけではなくて、そこには安心感があったのだ。



ーーー私は小さい頃から、団体行動が苦手だったし、大人数でわいわいご飯や飲み会に参加するのが本当に苦痛だった。

グループで集まってしゃべることに対して、「その場にふさわしい言葉選びをする」「空気を読む」「面白いかけあいをする」みたいに、"自分が面白い人間かどうかが試される舞台" だととらえていたのだ。

だから緊張もするし、どこに意識を向けてしゃべっていいのか全くわからなかった。一対一でだったらいくらでもしゃべることができたが、5人以上になるととたんに苦手意識が発動した。(一対一のペアが崩れて、自由形式になりがちになるからだと思う。)

だから、飲み会に誘われても、直前に頭痛がしたり腹痛がしたり、挙句の果てには全く気乗りせず、当日ドタキャンすることも少なくなかった。今思えばだったら最初から断れよって話なのだが、「断ったらもう誘われなくなるんじゃないか」という不安もあり、とりあえず参加表明するようなふしがあった。

ーーつまり、人の目を気にして考えすぎなのである。誰も「面白いこと言って欲しい」と期待して誘っているわけではない。べつに、ご飯食べて飲んで、軽く楽しもうって感じなのである。でも、ひとりで自意識を過剰に肥大化させて、勝手にストレスを感じて首を絞めていたのだ。

話を戻すと、その新橋の飲み会は、無人島メンバーのお店を貸し切って開催した。ゲイバー「NOMENOME(のめのめ)」のオーナーでありママであるみっちぃと、その彼氏がこだわりのお酒を振る舞ってくれ、その場を盛り上げて沸かせてくれた。

お酒を飲み始める前に、みっちぃから怪しげな錠剤が配布された。ミラグレーンという薬。二日酔いによく効くそうで、本当に翌日なにも不快感が残っていなくて驚いたほどだった。

お店の名前が「のめのめ」なだけに、かなり飲まされるんじゃないかと心のどこかで身構えていたけれど笑、アフターケアまで考えた上で遊べるようにしてくれていたし、どんどん飲む時に、様子を見ながらお酒の濃度も調整してくれていたのに気づいた。

私は酔っていくほどに顔が白くなるし、見た目からは酔っていると気づかれないことのほうが多いのだが、「あ〜お酒が回ってきたな」と自分の中で自覚しているときにはもはやほぼソーダ水のようなカクテルを出してくれる。「お水飲んだほうがいいよ」とはあえて言わないママたち。よく見ているなぁと勝手に気遣いに感動していた。



そして、「飲み歌」とよばれる、誰もが知っているような有名なポップス曲の一部を「お酒を飲む」を促すような歌詞に編曲して歌う、飲み屋カラオケでは定番の遊び方も堪能した。飲み歌と聞くと、いわゆる "陽キャ" の遊び方を連想して、自分とは無縁だと思っていたけれど、やってみると本当にくだらなくてガハハハと笑ってしまっていた。

例えば、アニメ「シティ・ハンター」のオープニング曲であるTMネットワークのGet Wild。サビの部分は『 Get wild and tough ひとりでは 解けない愛のパズルを抱いて』と、何度か同じフレーズが繰り返しになる。ここが、「一杯目、ひとりでは 飲めない酒のグラスを持って」のように酒バージョンに変貌するようなイメージだ。

Get Wildを歌っている友人の隣で、延々と「三杯目」まで立て続けに飲み続ける別の友人の姿。まさに理不尽なのだが、飲んでいる本人の真剣な顔をみるとアハハハと笑ってしまった。

今でも思い出すとジワジワ笑いが込み上げてきてしまう。


「うちはバーじゃなくてね、エンタメ企業なのよ」
と、カウンター越しにさらりと言ったみっちぃが眩しかった。



まだ直接会って2回目、3回目なのに、なぜ皆んなにこんなに気を許しているんだろう…。実は臆病で人見知りな私は、そう単純に不思議だった。

きっと私は、この大人になってからできた友人達のことを、心から好きになったんだ。そしてもっと好きになりたいと思ってるんだ。いったん、そんなふうに結論づけている。



友だちでもあり、それぞれの目標を追うのを応援する仲間でもあり、そして「自分も負けてられないぞ」と奮起できるライバル同士でもある。

今までだってずっとそんな存在はいたはずだけど、きっと心の中に、そんな存在を受け入れて感謝できるだけのスペースができてきたんだと思う。



人よりもずっと遅いペースなのかもしれない。今まで自分本位で傷つけてきた友人たちもたくさんいたと思うし恥ずかしい。

でも、こんなに臆病だった私でも、大切だと思える友人ができたことをうれしく思っている。傷つきやすい裸の心を守ろうとして、必死について行こうとした、人を好きになることを諦めたくなかった昔の私が知ったら喜んでくれるだろうか。

小さい小さい一歩だけれど、私にとっては偉大な歩みの記録。



タクシーが自宅に到着し、運転手さんに短くお礼を告げる声が、心なしか少し高くなっている自分がいた。

おやすみなさい。
有難う。




ーなつえりのブログやメルマガに書くまでもない話
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