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一時行方知れずになった話

小学生の時、ほんの一時的に行方知れずになったことがある。

小学生のころは本当にろくな事をしなかった。
授業中キーホルダーで遊んで怒られたり、宿題を自室の引き出しに全部隠し続けたり、図書室の本を側溝に落としたり。
親は割と放置気味な人だったので、口うるさく言われたり怒られたりはあんまりしなかった。

そんなあたしが小学校中学年の頃、事件が起きた。
冒頭やタイトルに書いた通り、一時的に行方知れずになった。
授業が始まってもあたしが席におらず校内を探し回るも居ない。トイレにも隠れていない。
担任の先生だけならず、ほかのクラスの先生や学年の違う先生まで4、5人ほどが血相を変えて探し回った。
しかし、あたしは見つからなかった。

事件の始まりはお昼休み。
あたしはいつものように校庭に出て走り回っていた。ドッチボールをしたり、大縄跳びをしたり。
遊具も沢山あったが昼休みは大勢が使うため、存分に楽しめない。
そこであたしはいい事を思いついた。

昼休み終わる直前に遊べばいいんだ。

チャイムが鳴るギリギリに走って教室に戻っちゃえば大丈夫。

あたしは思いついたら即行動する子だった。
昼休みももうすぐ終わる、みんながボールを片付けて教室へ向かいだした時にあたしはお目当ての遊具へと向かった。

ちょっとしたヤグラになっている登り棒だ。

登ってみたかったけど、生徒が多いとなかなか順番へ回ってこないし、登ってもパンツが見えてしまう。
人が居なくなった今こそチャンス!
あたしは嬉々として登り棒に掴まり、よじよじと登った。

登り棒は思っていたよりも高さがあり、登り終わって周りを見ると校庭1面が見渡せた。
廊下も見える。
すごい!すごい高いとこに来ちゃった!
あたしは大興奮だった。
あー楽しい!
でも、もう走って教室行かなきゃ!

あたしは急いで降りようと登り棒に掴まって下を覗いた。

登り棒は予想よりも高い。
地面が遠い。
なんだか血の気が引く。

降りるだけなのに、足が全く動かなかった。
下を見てはダメなのに、下ばかり見てしまうし、落ちた時を想像してしまう。

そう、あまりの高さに怖くなり、降りれなくなったのだ。
慌てて周りに助けを求めようとしても、もうすぐ授業が始まる時間。
友達はもちろんもう居ない、というか生徒がほぼ居ない。
慌ててキョロキョロと人を探すと遠くに兄が見えた。

お兄ちゃんがいる!
お兄ちゃんたすけて!
降りれなくなっちゃった!
おにぃぃちゃぁあああああああ!!!

兄はあたしに気づかず校舎へと走っていった。
そして、誰も居なくなった。

マジかよ……。
え……取り残された……。
キーンコーンカーンコーン
あ、チャイムが……。

あたしは途方に暮れた。
授業が始まってしまった。怒られる。
教室に行きたいのに、降りられない。
だれにも気づいて貰えない。
あたしはこれからこの登り棒の上で生活するんだ……。
雨風を避ける壁も天井もない、登り棒の上で。
食べ物は無いから、登り棒になにか木の実が生えるのを待つしかない。
トイレは、どうしよう。
あたし、ここで暮らすんだ、家に帰れないんだ。

ここであたしは泣いた。
大号泣。
だって登り棒の上は天井も壁も無いし、木の実だって生えたって絶対美味しくない!
なのに降りられないからもうここで一生暮らすしかない。
わーんわーん!
そりゃもう大声で泣いた。

授業が始まって暫くして校舎から誰かが何かを言ってる声がした。
下駄箱の方を見ると、先生たちがワーワー言いながらこちらへ走ってくるではないか!

先生!
せんせぇええ!!!!

あたしは漂流者が助けの船を見つけた時のように大声でおーいおーい!と叫んだ。
やった!助けが来た!
あたしは木の実を食べなくてもいいんだ!
そう思うと嬉しくて涙が出た。

先生達は登り棒の上で縮こまってるあたしを見て、誰が下ろす?どうやって?と話し合い、1番ガタイのいい男性の先生が途中まで上り、あたしを抱き抱えて下の先生に渡して降ろしてくれた。

怒られるかなと思いつつ、登り棒に登ったはいいけど怖くて降りられなかった。チャイムも鳴っちゃって誰もいなくなって、困ってたと説明した。
途中兄を見つけたが大声出しても兄は気づかず教室へ行ってしまったのも話した。

先生達は怒ることなく、怖かったね頑張ったねと優しく慰めてくれた。

学校から母に連絡が行き、先生が教室にあたしが居ないことに気づきクラスメイトに聞いてもどこに行ったか分からない、他の教室にもトイレにも居ないと騒ぎになりほかのクラスの先生達と必死に探してたことを知った。

そして、何も悪くないただ声に気づかなかっただけの兄が母にしこたま怒られる羽目になった。

ごめんな、兄ちゃん✌️

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