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良すぎるのもダメ

私が以前バイトしていた職場でとある悩みを持つ男性アルバイトが居た。
彼は学生アルバイトのA君。
元々野球少年で色黒のガタイがっちりなイケメン。そしてお喋りも上手なナイスガイ。
そんな彼の悩みは「目が良すぎること」だった。

目が悪く、ずっと眼鏡をかけている私にとってみれば贅沢な悩み。

「なーんも困ること無かろ?裸眼で大体見えるんじゃろ?ええじゃん!」

と茶化すとA君はニッコリ笑った。

「いや〜!たしかに見えるんすよ!」

すっとA君が遠くを指さした。
指していたのは20mほど先にある小さな案内板だ。

「なっちゃん、あれ見えます?」

「見えない」

「俺、裸眼で片目でもバッチリ見えるんすよ」

すげぇ……。
メガネ掛けていてもぼやけて何となくしか見えない小さな文字をA君はスラスラと読んでみせた。
やっぱり見えるって良いな、裸眼って良いな、目をギュッとすることも無いから目の周りも疲れないし、メガネ代もコンタクト代もかからない。
どう考えても目が良いことにメリットしか感じなかった。
いいな!凄いな!と言ってる私をよそにA君はふいっと顔を伏せて真顔になった。

「目が良すぎるってのは、見えちゃいけないモノまで見えてしまうんすよ」

え?
それって……。
例えば見えすぎて対面した人の毛穴どころか細胞まで見えるとか、それとも心霊的なものだろうか?
安易に羨ましがってはいけなかったかもしれない。
以前目が良すぎて平均的な視力に弱めるための矯正メガネをかけている人に会ったことがある。
良すぎても何かしらのデメリットは存在してて、それは本人にとって深刻な悩みなのかもしれない。

私は慌ててAくんに謝った。
するとAは渋い顔をして話し始めた。

「あれは、高校の時っす…俺、片想いしてる子が居たんすよ。休みの日に外で遊んでたら向かいからその女の子が歩いてくるのが見えて……」

「え、うん、女の子……」

「その子が、男と仲良さそうに歩いてたんすよ。絶対普通の視力だったらあの子が居たことさえ見えなかったはずなのに!!視力が良いばっかりにあの子が男と歩いてるの見えてしまって!!勝手に失恋したんすよ!!」


Aくんの魂の叫びだった。
何事も良すぎても何かしらのデメリットはあるらしい。

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