七澄シロ

写真好きな文字書き。 パズルみたいにぱちりとハマる小説と、何かを誰かを思い浮かべるよう…

七澄シロ

写真好きな文字書き。 パズルみたいにぱちりとハマる小説と、何かを誰かを思い浮かべるような写真が好き。 頭の中を文章にして生きていきたい(`・ω・´) #140字小説 #小説 #スマホ写真 #風景 #写真

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    さくっと読めるのでおやつにどうぞ。

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    あなたのかけらを拾って、

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僕らの話

久々の再会は小さな液晶越し、それでも近くに感じて嬉しい。 『聞こえてる?』 『うん、聞こえる』 他愛ない話からこれまでの思い出を振り返って笑い合う中、不意に君が小さく鼻を啜る。 躊躇いがちに名前を呼ぶと顔を上げた君が平然と笑うから、僕も飲み込んだ。 もう少し話そう、今度はこれからの話を。

    • 上鄉

      いつか、と思っていた。 車窓を流れる山々は見慣れないもので、遠く離れたことに安堵する。 ずっとあの街が嫌いだった。 隙間なく並んだビル、人が溢れる街は何でも揃うのに空虚で酸素が薄い。 だからいつか、とずっと。 空の匂いがする。笹鳴りが笑う。 誰もいない駅のホームで、生まれてはじめて息をした。

      • おもちゃばこ

        部屋を片付けていたはずが、散らかした思い出の真ん中で座り込んでしまった。 全部捨てていい気もするし、どれも持っていたほうが良い気もする。 大切なものはしまったり飾ったりできるけれど、大切だったものはいつだって置き所が分からない。 君は幸せになったかな、いつかの幸せが手のひらの上で呟く。

        • こたえはない

          問いかけたい相手はさっきまで見ていた夢の住人で、眠りから覚めた今となってはもう二度と会えない相手だ。今の二人だからこそ話せる話をしてその結論に心底納得できたのに、それが何だったのかがどうしても思い出せない。それはきっと、今の私が欲しい答えだったはずなのに。 ねぇ、なんて言ったの。

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        記事

          追想

          雨音はどうして記憶を連れてくるのだろう。 あの緩やかな上り坂が、濡れた草木の匂いが急勾配の階段がフェンスに寄りかかるタイヤが、砂利の駐車場が目の前に引きずり出される。 もう歩くことのない道は何処よりも遠い。 置き忘れた感情も連れてきてくれればいいのに。 雨は答えず、ただ降り続けるだけだ。

          夏に恋う

          靴擦れに靴擦れを重ねても痛みには慣れない。 日傘に守られるのは半身だけで残りはただ耐えるしかない。 感じる息苦しさ、本当に外したいものはなんだろう。 流れ落ちる汗は決して涙の代わりにはならない。 待ち望んだ夏はまだ遠いらしい。 青空が濁りきる前に目を閉じよう。 次に見るのは星の降る空がいい。

          夏空

          気づけば紫陽花は色褪せていた。 ツツジが彩っていた街路をオシロイバナがたくましく陣取り、塀から覗き込むテッポウユリが香る。 夏が来る。 あるいはもう来ているのだろう。 名前に刻まれた季節は未だに苦手だが、それでも特有の空の青さは待ち望んでいる。 飲み込まれそうな、包み込むようなあの、青を。

          始まりはからっぽ

          広くなった部屋を見渡す。 そうだ、越してきた日もこんな部屋だった。 カーテンのない窓から風が吹き込んで、フローリングの上に転がったまま雲が渡っていくのを眺めていた。 始まりと終わりは似て非なる。 電気を消して壁をひと撫で、ドアを開けて呟く。 「行ってきます」 もう帰らない部屋へ感謝を込めて。

          始まりはからっぽ

          近いから、遠い

          「ん、」 ベッドの上で彼女が吐息を漏らす。 瞬間、衝動的な感情が背筋を駆け上って息を飲む。 いつも通り目を逸らしてやり過ごせばと視線を落とした先、今度は無防備な白い腕が現れて脱力する。 人の部屋でよくもこんなに熟睡できたものだ。 「あんま油断すんなよ……」 まだもう少し、幼馴染でいたいのに。

          近いから、遠い

          Lost time.

          「いつかまた会えると思ってた」 その言葉は、もう二度と使いたくない。 かなしさを固めたような言葉だと思った。 触ったらきっとひんやりとする。 指先からじわりじわりと温度を奪って、こぼれた涙すら凍ってしまうような、そんなかなしさ。 ずっと書き上げられずにいた自分のための文章の一つがようやく形になって、それでもまだ無造作に見せられるような覚悟は持てなくて、少しだけ猶予期間。 手紙のようで日記のような、遺書のようで決意表明のような、懺悔のような。 五年後に読み返すための文章

          躊躇いでなく戸惑い

          一冊の本を差し出しながら彼が私を見つめる。 彼は読書を愛する人で、私はその横顔を見るのが好きだった。 本のタイトルは『君に好きだと伝える方法』、まさかこんな日が来るなんて。 あの、と躊躇いがちに彼が口を開く。 私は緊張を隠し、なるべく自然に「はい」と微笑みかけた。 「貸し出しお願いします」

          躊躇いでなく戸惑い

          はじめてのおねがい

          ‪花束とケーキを差し出せば、予想通り彼女は目を丸くした。 勿論彼女は僕の母ではなく妻で、表札には二人の名前しかない。 「どうしたの?」 不思議がる彼女から外した視線が照れくささに泳ぐ。 「その子に頼まれてね」 彼女は小さく吹き出し、膨れたお腹を優しくさすりながらありがとう、と二回呟いた。‬

          はじめてのおねがい

          器の小さな僕へ。

          それと正義は紙一重だ。 見ない振りをする事は簡単だろうが、浮かんだ靄を払うことは困難だ。 相手は「そんなことで」と怒るかもしれないし笑うかもしれない。 それでも、ルールに則って自分の尊厳を守る為に闘うことは恥じることではない。 そう思えたことが確かな成長だ。 頑張った事、ちゃんと見てたよ。

          器の小さな僕へ。

          運命や縁なんて幻想だと思っていた。 だけど今は違う。 それを具現化した君がそこにいる。 僕らの糸はほつれていた。 ぎりぎり切れずにいた最後の一本をそっと手繰った先に今があって、何も当たり前なんかじゃないことを僕らはもう知っている。 だから今日もまた、当たり前みたいに「幸せだね」と笑うんだ。

          希望、あるいは連鎖の物語。

          目の前には扉があった。 無色透明、ノブさえ付いていないのに、それはどうしてか扉にしか思えなかった。 透けて見える向こう側には空が広がっている。 柔らかな風が肌を撫でる。 その心地よさにゆっくりと目を閉じた。 生まれてから今まで、どれだけの優しさをもらって、どれだけの優しさを渡せただろう。 一番返したい人は決まってる。 誰より愛して、信じて、そばにいてくれた人。 それなのに、「いつか」と交わした約束を破ってしまったのは私のほうで、それを謝ることすらできなかった。 せめて代

          希望、あるいは連鎖の物語。

          三日月一つ

          約束のチケットを握りしめながら命の終わりを見つめて、他愛ない会話の他愛ない言葉に必死で涙を堪えて、見上げた空に三日月一つ、それだけで救われたりもする。 狭い心と傷だらけの手とぎこちない笑顔で、それでも抱きしめたいものがある。 「そこにいて」じゃなく「そばにいて」と言えたら、言えたら。

          三日月一つ