現役駅員が人身事故のウソホントを語ります
皆さまこんにちは。
私は首都圏の某駅で駅員をしています。
新学期や新年度、年末は特に鉄道における人身事故の件数が多くなるシーズンと言うのは皆さんも何となくイメージが湧くと思います。
しかし、実際現場では何が起きてるのか、駅員のアナウンス内容が二転三転するのは何故かなど、利用する側としては疑問の絶えない部分でもあります。
そこで今回は、実際に人身事故の対応を経験した身として語れるリアルを紹介します。細かめに語るつもりなので少し長くなってしまうかと思いますが、少しでも読者である『お客さま方』の理解を深められれば幸いです。
なお今回は、最も一般的である不意の転落や飛び込みの場合を想定して語ります。
人身事故が起きるとどうなるのか
まず、列車の運転士は線路や列車に飛び込んでくる人を認めた時点で汽笛吹鳴と非常ブレーキを扱います。そしてその後『防護無線』という、周囲の列車に「直ちに止まれ!」と指示する信号を発信します。これがよく聞く「緊急停止(危険)を知らせる信号の受信」です。
ちなみにこの防護無線、人身事故に限らず、列車の安全運行に支障があると乗務員が判断すればどんな場面でも使用されます。首都圏のJRでは、山手線の防護無線で中央線や総武線が止まったことに対して「関係ないのに止まんなよ!」とお怒りのポストがXにて散見されますが、異常事態の詳細は第1発見者である乗務員にしか分かりません。もしかしたら、山手線の運転士が他の路線の異常に気付いたことで事故を未然に防げるかもしれません。
とりあえず周囲の列車全てを止めた後、乗務員から輸送指令へ詳細の報告があり、関係ないと判断された路線から順次運転を再開します。
鉄道に馴染みのない方にとってはしっくり来ないかもしれませんが、我々鉄道マンは『視界の中に危険があればとにかく列車を止めろ』と口酸っぱく指導されています。自動車事故のように、対向車線だから関係ないとはいきません。
そしてもう1つ、一見無関係の路線が運転見合わせとなる事についても説明します。
たとえばABCDの4つの線路が走っている区間のうち、B線で事故が起きた場合、負傷者の一部や荷物がA線〜D線まで広範囲に飛散する事もあります。また被害がB線のみだったとしても、救助にあたって必ず人が立ち入る為、A線とC線の列車と衝撃してしまう事を防ぐ為に隣接する線路も運転見合わせとなります。この為、並走する路線では状況によって運転見合わせとなってしまうのです。
事故の対応について
事故発生の報告が上がると、輸送指令から関係駅へ初動連携と出動指示が出ます。並行して、乗務員や駅員から警察と消防に通報を入れます。また、ここで鉄道側の責任者が指定され、警察官や消防と事故対応についての窓口となります。
ホームにて駅員と乗務員が合流し、事故発生時の概況を取りまとめつつ、消防救急の到着が間に合わなければ負傷者の救護と周囲のお客さまの案内に入ります。
ちなみにここでよく噂されているのが、負傷者の救護は割り箸やトングで行われてビニール袋に詰められる、というものですが、人間の生死判定が出来るのは救急救命士および医師ですので、基本的には『生きている』として救護を行います。ただし、あまりにも酷い状態であり、誰が見ても亡くなっていると判断出来る『社会死』の場合もありますが、生死に関わらず一人のヒトとしての尊厳の観点から、やはり割り箸やトングは使いません。
また「ブルーシートって事はダメだったのかな」というような意見もありますが、冷静に考えてください。いくら人身事故といえど、普通に列車を使ってただけの皆さんの目の前にいきなり負傷者(しかも四肢が切れているかも)をドカッと担ぎ上げるのは皆さんにも負傷者にも失礼極まりない事です。なので、ブルーシートはあくまで目隠しの為として用いられます。
救護が終わったらさっさと動かせよ!
さて、負傷者の救護が終われば対応終了かと思いがちですが、まだ終わりません。ここからは主に警察の仕事です。警察官は主に以下の事について現場検証や防犯カメラの確認、関係者への聞き取りを行います。
1.事件性の有無(誰かに突き落とされたのか自殺か)
2.運転士の運転に過失は無いか
3.飛び込むまでに本人がどんな動きをしていたか
4.鉄道職員の所属氏名や列車の詳細
私は警察官ではないので詳しい事は分かりませんが、鉄道敷地内とはいえ事故処理について全権を握るのは警察官です。警察官が良いと言わなければ我々は運転再開が出来ません。
最終的な安全確認って何やってんだよ!
警察官の現場検証も殆ど終わる頃、他の駅では「最終的な安全確認を〜」とアナウンスし始めます。現場検証終了後は、運転士や検査係などによる車両点検、および鉄道側の責任者による関係者の線路外への退避確認が行われます。各々の対応が終われば勝手に出ていくだろと思いがちですが、過去に、線路内で事故処理にあたっていた救急隊員が運転再開した列車に轢かれて亡くなるという、取り返しのつかない二重事故が起きた事をきっかけに、警察、消防、駅の責任者が各々の統括する人員について全員ホーム上または線路外に出て、尚且つ再度立ち入ることは無い旨の確認と指示が義務付けられました。
こうして線路内に誰もいない状況に戻って、初めて運転再開となるのです。
しかし例外として、停車位置や構造物、立地の影響で当該列車を動かさないと現場検証や詳しい捜索が出来ない場合、その列車のみ運転再開させて、後続の列車は運転見合わせを継続して再度関係者の作業が行われる場合もあります。これについては完全にケースバイケースなので、同じ駅や場所でも対応が変わってきます。ご容赦ください。
最後に
さて、ここまで長々と語ってきましたが、最後に皆さまにお願いがあります。
まず1つ目は、駅員に怒鳴らないでほしいということです。皆さまから見れば、駅員は切符の取り扱いや振替輸送などで大きな権力を持っているように思えるかもしれませんが、全て上層部が他会社と取り決めた範囲でしか取り扱えないので、むしろ一番指示待ちの部署というのが現状です。そのため、バスやタクシーに振替輸送が出来ないと伝えると高確率で悪態や舌打ちをされますが、一人の駅員の独断ではどうにも出来ません。ご意見は各会社の問い合わせ窓口等にお伝えください。
2つ目は、スマホ等で無闇に写真を撮らないでほしいということです。普通に考えて、遺体を撮るっておかしい事だと思いませんか?ましてそれをSNSに上げたりする感覚が分かりません。我々が必死に対応してる中でそのような事はしないでください。野次馬として集まってくるのも同じです。迅速な救助と早期運転再開の妨げとなります。
事故発生によって皆さまの予定に大幅な影響を与えてしまっている事は重々承知していますが、駅員や乗務員も被害者の一人であるということを頭の片隅にでも留めておいていただけると幸いです。
ここまで読んでいただきありがとうございました。