見出し画像

夢には現実を変える力がある

武蔵野美術大学 大学院造形構想研究科クリエイティブリーダーシップコース「クリエイティブリーダシップ特論2021」第2回:岩渕 正樹さん
2021年4月19日 by コク カイ

「クリエイティブリーダーシップ特論2021」は武蔵野美術大学大学院造形構想研究科クリエイティブリーダーシップコース(通称「ムサビCL学科」)が行われている、クリエイティブとビジネスを活用して実際に活躍されているゲスト講師を招いて、参加者全員で議論を行う形の講義です。受講生たちは毎回の内容をレポート形式でnoteで連載しています。多彩の分野に関する面白い内容がたくさんあるので、どうぞ読んでみてください。

今回のゲストはニューヨークで活躍しているデザイナー、教育者の岩渕正樹さんです。

岩渕さんは大学院卒業後に一時期IBMでデザインの仕事を携わっていました。その後アメリカのパーソンズ美術大学に留学し、卒業後に同大学で非常勤講師を務めながらTeknikio社でサービスデザイナーとして活動しています。彼は多岐にわたる分野で一人の教育者、研究者、実践者として活躍しています。

彼が持ち込んだテーマは「デザインを通してソーシャルドリーミングする(Social Dreaming through Design)」です。では、ソーシャルドリーミングは一体何か?ビジネスの場面でよく「ビジョンを作る」という言葉を耳にしますが、このビジョン(Vision)はドリーミング(Dreaming)と果たしてどう違うのか?

実は「ビジョンもドリームから来たものだ」と彼は解釈しました。ビジョンだけはなく、クエスチョン(Qusetion)やパッション(Passion)も夢から来たものです。ビジョンは何もないところ生れるものではなく、目の前の現実に対して何かしらの妄想(=夢)から始まって、その妄想の解像度を少しずつ上げていく過程で誕生するものである。そしてこのビジョンをどうやって実現できるのか(=質問)を考えるようになって、最後は諦めずに(=情熱)色々試行錯誤することで、妄想は初めてイノベーションに変わり現実になります。

コク カイ (1)

もちろん、この「ソーシャルドリーミング」は岩渕さんの造語ではなく、もともと20世紀に同じ名前の心理学の一分野から来た言葉です。その分野は主に個人的な夢を他人に言葉で共有することで自分の心理状態をより深く知るような研究を行っていたそうです。近年になって「スペキュラティヴ・デザイン」という本が出版された時に再びこの概念が提起されて、本の中ではこの言葉を「個人的な夢はいかに未来に向けて社会変容を促すか」というような扱い方をしていました。

このソーシャルドリーミングが取るべき態度も従来の工業社会のデザインと全く違って、ユーザーのニーズを中心にではなく、社会をよりよくするために何ができるかからデザインしていきます。そして、新しい製品をどんどん作るのではなく、新しい文化をどう生み出すかから考えて行きます。つまり、全ては「いかに望ましい未来を作るのか」を中心とした議論です。

これはスペキュラティヴデザインの考え方ととても一致しています。今までの技術中心的な考え方というのは「技術がどう発展していくのか」や「技術が社会をどう変わるのか」などを注目してきたが、これからの社会は「人間がどう生きていくべきか」、「多様な価値観や文化がどう共存するべきか」というような人間中心の問いを考えるようになります。スペキュラティヴデザインが関心を持つ部分もそこにあります。

彼の観点によれば、これから起こりうる未来に向かって、単に何かの可能性を提示していく(アスペクト)ではなく、いろんな分野の人を巻き込んで、人間社会を巡るさまざまな問題を一緒に考える(ドリーム)ことこそデザイナーの役割である。ただそこを行きすぎるとファンタジーの領域に入るので、そこまでに止まる議論や実践がソーシャルドリーミングである。

コク カイ (2)

彼が提示したデザインの新しい在り方はとても示唆的で、これからの社会にとって必要不可欠な視点だと考えます。ただ、このようなソーシャルドリーミングを実践するにはデザイナーの力だけでは物足りない、学者であろう、アーティストであろう、ビジネスマンであろう、技術者であろう、社会に向かって何か新しいものを作り出そうとする人は皆、広い意味での「デザイナー」です。皆が力を合わせて、それぞれの分野から同じ目標を持ってアプローチしていくしか、望ましい未来に導く方法はないと私は考えます。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?