南東北旅行④

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南東北旅行⑤

うおおお

仙台から普通列車で10分ほど揺られて降り立ったのは、仙台市の南隣にある名取市。実は2回目の訪問である。仙台都市圏の郊外のこの街に何故筆者が固執しているかはこの旅行記の一つ前に投稿しているnote記事なんかを見ていただけると分かるかもしれないが、ともかくちょっとした思い入れがあって今回の泊地とした。

駅前からはバスに乗車。市内を走っているのはコミュニティバス(自治体が経費を負担して運行するバス)の「なとりん号」。コミュニティバスというと本数が少なかったり不案内だったりして使い勝手が良くないものも多いが、この「なとりん号」はコミュバスとしては路線も本数も充実しており、何よりGoogleマップの乗換検索で出てくる(運行側で専用のデータを用意する必要があるためコミュバスや地方の路線バスだと対応していない所もかなりある)ところに行政のやる気が感じられ好感が持てる。

穏やかな浦

名取市は町の成り立ちとして大きく分けて二つの核がある。一つは東北本線の駅が置かれているかつての奥州街道宿場町である増田、そしてもう一つが今回向かっている市北東部の閖上(ゆりあげ)だ。太平洋に面し漁村に端を発するこの地区は近年観光開発も行われており、長らく気になっていたので今回訪れることにした。
終点一つ手前のバス停「サイクルスポーツセンター」で下車。その名の通りの施設に直結しており、そこに閖上地区唯一のホテル「名取ゆりあげ温泉輪りんの宿」が併設されている。

ひろびろ

早速チェックイン。名取市では近年サイクリングを軸にした観光整備が行われているようで、この施設はその基地となるような位置付けらしい。自転車を直接持ち込めるよう、エレベーターや廊下、客室も全体的に広くつくられていた。何より新しい(2020年オープン)のでとても清廉で快適な空間だ。

閖上に沈む日

屋上が開放されておりちょっとした展望台になっている。ホテルは太平洋と内浦の間に建っているので、朝日も夕日も見られるという寸法だ(朝は爆睡していて見れませんでしたが)。名取の町並みとその向こうに広がる山の稜線に沈んでいく夕日、これは良いものを見ることができた。

丁寧な夕食

筆者は宿泊先を素泊まりにして近くの飲み屋なんかで夕食を決め込むことが多いのだが、ここは周囲にそういう店が無いので夕食付のプランにした。閖上は漁港だが、このホテルで供される夕食はご覧の通りバランスの取れた、なおかつハレの日らしくもある楽しいメニューである。確かに過去の旅を思い返すと、海沿いに行くと食傷気味になるまで海鮮を食っているきらいがあったので、これはこれで良いものだ。それでいて素材は地のものとのことで、市内で採れた野菜や地元のレストランの逸品が盛り込まれている。ごちそうさまでした。

食休みののち大浴場へ。小綺麗な温泉で一日の疲れを取っているうちにすっかり日も沈み、辺りに夜が訪れた。

The Milkey Way(ちょこっと)

さて、閖上に宿を取ったのには実は大きな理由があった。というのも7月上旬のこの時期は天の川が南東から立ち上がってくるので、太平洋に面し南東側が開けているこの地なら天の川を撮影できるのではないかと考えたからだった。…が、海岸線は危険防止のためか思いのほか照明具が多く、天気には恵まれたもののなかなか険しい戦果であった。上記画像は目いっぱい加工しての見栄えである。ただまあ収められただけ良しとして、ちゃんとした星空撮影はまた今度別の機会に狙うこととしよう。

部屋飲みオタクスタイル

旅行先の夜は部屋飲みが欠かせない(要出典)が、先述したようにこの辺りには店が全く無いためどうしたものかと悩んだ(ホテルに来る前に買い出しも考えたが駅周辺にコンビニも無かった)。そこで夕食の際にレストランの店員さんに訊いてみたところ、一部のメニューはテイクアウトできるとのありがたい言葉を頂いたので、予め閖上しらすのサラダとハイボールと調達して冷蔵庫に入れておいたのだ。酒飲みにとって旅行中「どこで酒を入手しておくか」という兵站(?)は極めて重要であるが、我ながらナイスプレーであったと思う。シャワーを浴びナイトウェアに着替え、しばし愉しんでから就寝した。


おはようございます

1泊して7月3日日曜朝7時。お早いチェックアウト。オタク旅行では早朝出発は珍しくないが、今回は別にこの時間から移動開始するわけではなく、この時間ならではの場所に行くためであった。

活気あふれる朝市

閖上のシンボルとも言えるゆりあげ港朝市。毎週日曜の朝に開かれているこの市は、出店や屋台などもあり地元の方たちで賑わうちょっとしたお祭りのような雰囲気だ。観光向け一辺倒ではない、早朝だけやっている“本物”の朝市は今や貴重な存在だが、ここにはその光景が残っているようだ。

漁港らしさ

店先をひやかしているとふとアナウンスが耳に入った。曰く、夏季限定の周遊船がちょうど今日から運航開始らしく当日券の発売を行っているとのこと。時間を余しそうなところだったのでまさに渡りに“船”である(は?)。案内所でチケットを確保、こういうその場ですぐ行動を決められる機動性の高さは一人旅の長所と言えるかもしれない。
市の店でも海鮮丼やあさりめしなどが売られており惹かれたが、腰を落ち着けて食べられそうな場所が無さそうだったことと、ちょうど案内所がある建物に食堂も入っていたのでここで頂くことにした。

朝から決めていく

食堂は何店舗か入っているフードコートのようなスタイルで、その中から漁港らしく海鮮丼をチョイス。季節ものの生ウニに閖上名物のシラスといいとこどりだ。さすがに朝食だからとビールは自重したが、自重しなければよかったかもしれない。
満腹になり、同じ並びの焙煎珈琲の店でドリップコーヒーを購入し啜れば「整い」だ。Twitterをしゅぽしゅぽやっていることさえも贅沢な朝のひとときである。

そうこうしているうちに周遊船の時間になった。乗り場の桟橋から乗り込んだのは漁船サイズのモーターボート。朝市が面しているのは浦なので穏やかだが、なんとこのまま太平洋に出るらしい。

太平洋の青さ

小さい船なので海面が近いのは魅力的なのだが、防波堤を回って外海に出た瞬間からまあ揺れる。しかもちょうどこのあたりは名取川の河口で流れがうねっている所らしい。ただ数分なので酔うほどではなく、アトラクションのような楽しさだ。
一通り遊覧したところで、「帰りは飛ばしますよ」と船長。確かに同じルートを戻るだけだし真っ直ぐ帰るのかな、と思っていると、スピーカーから流れだしたのは映画「トップガン」のテーマ曲…。

あとはご覧の通り。楽しかった。

さて、船から降り次の場所に向けて名取川の方へ歩を進める。
ここまでお伝えしてきたように、閖上には新しい観光施設が多くある。泊まった輪りんの宿は先述の通りだし、朝市も建物は真新しい。きれいで整った施設に周辺の景観も緑が計画的に配されており、とても心地よい観光地だ。
…察しの良い読者ならもうお気づきかもしれないが、この地を訪れたからには、こうした今の閖上が生まれた背景も押さえておきたい。

東日本大震災で、太平洋沿岸に位置するこの地は甚大な被害を受けた。町の全てが流されてしまったと言っても過言ではない。つまり今の閖上は、1からリスタートした地だと言える。当時の遺構や記録・記憶を残していく伝承館も見学しつつ、復興も終盤に差し掛かった今の閖上を眺めた。

建ち並ぶ復興団地

かつての宅地よりも内陸側に共同住宅型の復興住宅が建設されているほか、ゆったりとした戸建ての新興住宅も広がっていた。ただ見ての通り空き地もかなりあり、現実に集団移住(空港線の駅近くに美田園北団地が造成された)もあって地区の人口はこれ以上はなかなか回復しないだろう。だからこそ魅力増進による交流人口の増加を図って、昨今の観光的開発が行われているように思われる。
起きてしまった過去はどうすることもできない。その事実を乗り越える、などと外様の私が簡単に言えたことでは無いが、現地を見て感じたのは、この町はなんとか過去を「過去」として飲み込んで、「今」から明るく楽しい「未来」へ向かっているということであった。そしてその姿勢は来訪者や外の人間にも必要な認識だと思う。

穏やかな川のほとり

最後に「かわまちてらす閖上」を訪れた。閖上地区の復興開発のランドマークで、名取川のほとりに建てられた地元の飲食店が何店舗も入った施設だ。川を生かした景観に加えてふらりと立ち寄れる雰囲気も良く、観光客というよりは地元住民でにぎわいが創出されていて、1からのスタートであることを逆手に取った魅力の高いまちづくりが実現されていると感じる。これがこの町に生きる人、この町を生かす人の力なのだろう。

「復興観光地」とも言うべき閖上地区は種々の来訪動機とは別に前から来たかったところであったが、とても楽しく充実し、なおかつ個人的に深い感慨を得ることもできた、良い観光地であった。

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