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ゲストには見せないガイドの舞台裏

自然が好き、だけでは続かない

今井 これまでたくさんのガイドががってんさんの門をたたいて、そこを巣立っていったと思いますが、長くガイドとして継続していくために必要なことはどういうことだと思いますか。

がってん ガイドってサービス業なんだけどちょっとだけハードです。天候に合わせて動くとか、そういうことが多い業種です。ガイドになろうって思って門を叩いてきた時に、もし無理だと思ったら、すぐにやめたほうがいいと思うことがあります。
自分が遊んだり自然が好きだったり、自分がチャレンジしたいことに向き合うことが好きというのと、ガイド業としてフィールドに出るのはかなり違うところがあるので、もし自分で遊ぶとか自分で探求したい自然観がある場合は、そっちの方がいいんじゃないかと思います。

村上 辻さんはどうですか。ガッテンのところから巣立って、今大事にしていることには、どんなことがあるでしょうか。

辻 最初にがってんの家族の暮らしを見て、カヌーガイドの暮らしがかっこいいなーとか、憧れの部分があったんです。ただ続けていくには「柱」が必要だと思うんです。一つはその時の単純な憧れだったりとか、ガイドとして生きていこうという思い込みとか、ガイドとしてやって行くんだっていうなりきりの部分。そういうことが結構大事な気がします。あとは技術的な部分や、向き不向きであったり、経済的な部分であったりとかするんですけども。

村上 ガイド業っていうのは表現者でもあるんだという話を前回していただきました。ガイド業を表現者として捉えると、「舞台」の上で「見せる部分」と、お客さんに「見せない部分」が明確にあると思うんです。ゲストのお客さんにはここは見せない部分だっていうところ、どう捉えてらっしゃるでしょう。

辻 あんまりオン・オフはないかもしれないです。全ては臨機応変であり、ゲストのその人となりによりであり、決まったものはない気がします。
ただ、できるだけ判断だけは違えないようにフラットであるように心がけます。それでもやっぱり漏れてしまうのか、出してるのかわかんないですけど、たとえば天候が崩れそうになった時のガイドの動きの変化であったり、表情であったり、語気の変化だったりといったことは、ゲストに伝わったらいいと思っているところはありますね。

がってん たとえば山の上で大雨が降って川が増水してきて、夜寝てる時に脱出することも多々あるんです。当時はデジタルがあまりなかったので、川に棒を刺しておくんです。まず着いたら着いた時点での水位を確認し、夜にも水位の変化を知る。そう言われてみれば、それをやってることはあまり知られないようにしていたと思いますね。
自分の中の判断基準をそこに持っていたということと、仮にもう水が増えてだめだなと思った時に、川の水が増えるんだよっていうのも(安全を担保した状況の中でですけれども)、これから水が増えてくることを共に観察することさえも伝えたいことの一つ、「劇場」の一つだと思います。全てが新しい音として伝わればいいし、自然ってこうやって近づいてくるよとか、自然は心地いいだけじゃないんだよっていうことをぎりぎりまで表現にすり変えて伝えていました。その辺は結構僕のスタイルの表現方法だったかなと思います。別の若いスタッフなんかはドキドキしちゃうことがあったんだろうなと思います。
また、ゲストが来る前にフィールドリサーチをするんですが、川が増水するときにその川のポテンシャルの限界値は我々が見ておかなきゃいけない。だから川が増水し、ゲートがどんどん閉められていくなかで、逆に我々はゲートの中に入っていくこともありました。みんなが撤退したからって我々が撤退しちゃいけないんだと、亮多と二人でずぶ濡れになりながら東屋で寝てたのを思い出しました。

辻 結局、河原は全部水没して、二人で墓地の中で寝ましたね・笑

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パドルを持てば性格が分かる

村上 そういった意味では、弟子はゲストが見せない舞台裏に触れられる特権もありますね。

辻 そうですね。こっちもなりきっているので、 がってんがやろうとしてることとか、大事にしてる事も分かりつつ、ふむふむと観察できるような役得はあったかもしれないですね。でも、舞台裏の二人の僕たちは、ガイド中は一切しゃべらなかった気がします。それを今思い出しました。

今井 今お話を伺うだけでもガイドにはゲストにはわからない苦労がたくさんあるんだなと思いました。一つのツアーをする前には具体的にはどういう作業をされているんでしょうか。

がってん 一番最初にするのは、2度目に下る川でも、前回と変わったところがないかとか、石の動き具合とか、河原の状況は変わってないかとか、そういう単純なことをするんです。そして始まる前日の夕方ぐらいですかね、例えば5日間なら5日間のだいたい何時にこういうふうに行くわ、多分ここで上がるからこうなるというようなことを、手書きのメモで書いて渡すんです。その前日や前々日ぐらいに現場に入った時、僕はもう本当にあまり喋らないんですが、ガイドの皆に望んでいることは、そこで自分なりの表現を取り入れてほしいなと思っていたんです。僕が気がつかないことを、例えば亮多が気が付いてくれて、ゲストにそれをリリースしてくれる。それをすごく望んでいたので、無言の空気圧を常に出してました。

村上 いかがですか、辻さん。

辻 そうですね。ツアーの前にがってんから行動計画みたいなのを渡されるんですけど、とにかくがってんは徹底的に準備していました。右手から出すか左足から出すかみたいなくらい、スケジュール表は本当に分刻みでシミュレーションしているんです。それを渡されるんだけど、いざ始まると全く違うんです。それは無視してるわけじゃなくて、まさに臨機応変にやってるんです。弟子としては大変と言うか、「おっと、こうきましたか」みたいな感じのことはよくあったかもしれないです。

村上 自然というものは下見をしたりできるけど、ゲストの方については来てみないと分からない状況ですよね。

がってん カヌーのパドリングのレクチャーをする時に、カヌーとパドルとその人の関係を陸上で見ると、なんかね、この人はきっとこうなんだろうなと、なんかふわーっと思うんです。そして川と私、川とゲストっていう、その三つのトライアングルがピタッと合った時に、「じゃあぼちぼちスタートしようか」みたいな流れになってくるんです。

辻  カヌーのガイドって、川の流れの上にゲストは自分の船で乗ってしまうので、もうどうしようもない面もあるんです。そこをガイドして行くところがカヌーガイドの面白いところでもあるんですけども。カヌーに乗ってなかなかうまくいかない操作をしていると、その人なりの性格やクセなどがよく見えます。

村上 たとえば海難レスキューみたいなことを考えると、ゲストが急にパニックになるなど、何かしらアクションしなきゃいけないことも起きるのではないかと思うんですが、そういった時はどうされるんですか。

辻 川の今の置かれてる状況次第なんですね。例えばスキーで転ぶことはあってはいけない事故ではないように、それと一緒でカヌーをしていたらひっくり返ることはカヌーの一部なんです。でもそれが、今こけていいのか、今は絶対こけちゃいけないのかっていうことが結構大事です。北海道の川の場合は水の冷たさであったりとかここではこけちゃだめというところが結構あるんです。なんですけどこけてもいい場所では、がってんなんかは特に「ははは」みたいに、ひっくり返ること自体はダメとはしなかった気がします。でもここは絶対ダメっていう所は本当にシビアにガイドし、転んだ時の対処もガイドの仕事の一部です。

村上 このゲストはひっくりかえっても笑って済む場合でも、同じシチュエーションで全く同じようにひっくり返っても、この人はちょっとパニックになるみたいなことも、もしかしたらあるのかなって思うんですけどその辺りはどうですか。

がってん その辺は、パドル持つと結構わかりますね。ちょっと言い方はアレですけどこの人は川をなめているなと思うこともありました。そういうときは早めに言います。「そのままでは死んでしまうよ。行くのか行かないのか、今決めたらいい」ってスパッて言っちゃう時もあるし。

辻 その辺は、がってんは全くもって遠慮がないですね。ゲストだからとか、ガイトだからというよりは、もう本当にその辺は遠慮なく「あなた死ぬよ」って言う。そういうタイプのガイドでしたね。

村上 辻さんはどんなタイプなのですか。

辻 けっこう口うるさい、先回りしちゃうタイプ。

がってん あーそうだねー笑

村上 一緒にいたときは、がってんのやろうとすることを「完コピ」するというか、なりきっているといっていました。でも今は違う。そこはどの辺りから枝分かれしたんですか。

辻 川が変わるとガイドの仕方であったり、いろんな基準が変わっていくんです、フィールドが違うので。そこに来てくれるゲストもかわってきます。なので基本の形、絶対やることさえ決めておけば、あとは結構柔軟に変えていると思います。

今井 そもそもが自然相手ですし、そこに技術的なことや無数のバリエーションのなかで仕事をされていることがよくわかりました。

(文 ネイティブ編集長・今井尚、写真提供 辻亮多)

次回のおしらせ

愛媛県今治市の野外自然学校で野外教育活動をする木名瀬裕さんと、その弟子で北海道美深町でアウトドアガイドをされている辻亮多さんに、ガイド業を通じて伝えたいことを聞きます。お楽しみに!

The best is yet to be!

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