【読むラジオ】#010 あいさつは「ご飯食べた?」
デザインの力でカンボジアに貢献したい
今井)4回目の今回はずばり、貝塚さん自身について伺いたいと思います。貝塚さんの今のお仕事や活動についてお話を伺えたらと思います。 .
貝塚)私は神奈川県の出身で、高校まで普通の生活をしていたんですけれども、高校卒業のタイミングでカンボジアに初めて行くことがあり、そこでカンボジアにドハマリしたんです。大学に進学し、デザインを専攻していたんですけれど、そのデザインのかたわらカンボジアに行きたくてしょうがなくて、第3外国語でカンボジア語を専攻しました。
さらには国際協力 NGO でインターンをする経験もし、その経験がもととなって、もっと勉強したいという思いがすごく強くなり、大学院でカンボジア研究に移りました。
最初2013年ぐらいに本格的にカンボジアへ移住し、そこから2年間ぐらいはの研究で村に住み込み調査をしました。カンボジア人の家にホームステイして生活する形でずっとやってきたんですけど、このまま研究職でずっとやっていくのかすごく悩んだ時期があって、やっぱり自分はデザインがすごく好きだったので、デザインと国際協力を合わせた活動ができないかと考え、今活動している「ソーシャルコンパス」という団体を数人のメンバーで立ち上げました。
今は国際機関や行政と協力しながら、いろいろな社会課題、たとえば環境問題ですとか交通安全とか、そういう問題をデザインや映像で解決する活動をしています。また最近ですと、アジアのアーティストを支援する活動、日本人向けのクメール語講座などもおこなっています。
村上)異国人がそこに来てくるだけじゃなくて、そこに仕事をする上で、苦労されたこととか、難しいなと思った壁ですとか、そういった事って何かありましたか?
貝塚)もう数年前になるんですけど、カンボジアではデザインという概念自体がそこまで成熟していなかったこともあり、そもそも「デザイン」といっても通じなかったりしたので、最初はそういう中でカンボジアの人と意思疎通ができるのか、コミュニケーションを取りながら何か作ることができるのか、という不安がすごくありました。ただ実際にはそれを吹き飛ばすような、カンボジア人のバイタリティがあったので、意外と苦労せずに、楽しくやらせてもらってます。
村上)カンボジアの人たちは、アートとかどういう風に捉えてるんですか?
貝塚)最近のアーティストは社会批判まではいかないですけど、社会を読み取って表現していくことが最近の現代アーティストだと多い傾向があります。政治体制に対する問いかけがアートに含まれていますね。
村上)鑑賞するとか置いておくというよりかは、もう一つの言葉だったり表現手段だったりそういう役割を大きくになってるんですか?
貝塚)それはすごく感じます。個人個人の経験ですとか、生い立ちが作品に含まれていることは、アジアの特徴というか、カンボジアにおいては結構強く出てくると感じています。
「衣食住」だけでは人間、生きていけない
村上)カンボジアで仕事をしていく中で、研究でやっていけるんだろうかと迷った時とか、あるいは今、未知のことをやる中でも、誰かの背中を見て、こうしてみようかなとか、こういった人たちが横にいるから続けられて来れたとか、そいう事はありましたか?
貝塚)私の原体験として、大学院生の時に私がインターンをさせてもらっていたNGOの方に聞いた話があります。その方は、1979年まで続いたポルポト政権下のカンボジア内戦の後に、タイとカンボジアの国境にある難民キャンプで活動されていたのですが、その方は難民キャンプで図書館支援をされてたんです。その方に聞いた言葉が私はショックだったんです。その方が言ったのは、難民キャンプではいろいろなインフラが整ってくる中で、食事が普通に支給されて、寝る場所も確保されてくるんですけど、それだけだと人は生きられないらしく、亡くなってしまう方がいるということでした。やっぱり文化的なものとか、生きがいみたいなものがなく、ただご飯を食べて、寝て起きてというだけだと、生きる気力がなくなってくるというお話でした。
それを聞いて、やっぱり文化とかアートを切り口に、この国の発展とか、人の生きがいみたいなところで一緒に何かできたらいいなっていうのが、すごく根底にあります。
村上)だからなんですね、カンボジアにすごく魅力があって、カンボジアにしっかり入ったにもかからず、そこでもアートをやりたいと思ったのは、今の方の言葉が根底にあったんですね
貝塚)そうですね。あとは、やっぱりビジュアルの力ってすごく大きいと思うんです。特にカンボジアやアジアの国では識字率がそんなに高くないので、いくら良い資料を作っても伝わらないことがあります。なので情報を伝えるツールとしても、デザインやアートってすごい可能性を持ってるなと感じています。
今井)後半は今コロナで現地の人の暮らしがどういう風に変化してるのかについてお話を伺っていきたいと思います。
日本でも「新しい生活様式」などと随分、暮らしが変わりましたが、カンボジアの人たちの生活は今どんな様子でしょうか?
貝塚)カンボジアは比較的コロナが抑えられてる国の一つではあるんですけども、市中感染がだいぶ増えてきています。みなさん必要以上に怯えてるっていうイメージはないんですけど、ちょっと恐怖を持ちつつ生活をしているという感じです。
村上)カンボジアの人たちって、毎週のように実家に帰るっていう話をされていたじゃないですか。移動ができなくなるようなことが起きてたりするんですか?
貝塚)そうなんです。都市部に住んでる人は地方に戻るのを控える傾向はあって、彼らの中での生活スタイルっていうのは多分コロナの影響を受けて変わってるのかなと思います。
村上)逆にそのこともあって、元の村に戻る人もいるんですか?
貝塚)村に帰る人は、私の周りではいないですけれど、今は距離を置くことですね。村に帰ると、村はクローズドな社会なので、やっぱり都会の人が来るっていうのはかなり、周りの目とかもあります。日本でもそうだと思うけど、気にはしていると思います。
村上)仏教がすごく根付いている点では、仏教がこのコロナに対して、こういったことをもっとした方がいいとか、支えになってたりしますか?
貝塚)仏教ではなですが、カンボジアはもともとあまり手を洗う習慣がないんですよ。ですけど最近だと都市部ではマスクをつけたり手を洗うようになったんです。実は以前から国際NGOなどの衛生教育として手洗いはすごく発信されていたんですけど、やっぱり元々ある慣習が強かったんです。ただ、このコロナをきっかけに国際的な情報などにすごく耳を傾けるようになったっていうのは変化として感じてますね。
村上)コロナだけじゃないと思うんですけど、僕はすごくカンボジアって新陳代謝がいいっていうか、何かいいものが来たらすぐ勉強して取り入れようとする軽やかさを感じます。
貝塚)おっしゃる通りだと思います。例えばですけどキャッシュレスとかもここ数ヶ月でいきなり進んだりとか、 QR コードで感染者の滞在が分かるようなシステムを作ったりですとか、すごくスピーディーです。そういう軽やかさはすごくありますね。
村上)それはどこに軽やかさのもとはあるんだと思いますか?
貝塚)日本は慎重じゃないですか。テストを重ねて重ねて、クリアしたら導入みたいなところがあると思うんですけども、カンボジアは同時並行でやるみたいなところがあるのかなと。とりあえずやってみよう、それで良くも悪くもどんどん進んでるような環境はあると思います 。
村上)ここは色あせない、これがカンボジアなんだなって思うところはどの辺りにありますか?
貝塚)物理的なものはすごく変化するんですけど、お互い助け合う考え方とかカンボジアの方が大切にしているものは、色あせないなと私はずっと思っていて、そこがやっぱりひきつける魅力の一つでもあるのかなと思います。
「ご飯食べた?」からはじまるコミュニケーション
今井)貝塚さんは最近、言葉についての本を出されたそうですが、どういう内容なんでしょうか?
貝塚)そうなんです。最近の日本人向けに『漫画で学ぶ初級クメール語』っていう本を出させていただきました。そもそも出すきっかけというのが、最近技能実習生とかで日本に来るカンボジアの方が増えていて、日本の雇用側とカンボジア人の方の衝突とか、いろいろうまくいかないことってよく聞くんですよ。なんかそういうのを解消できるようなツールとして一つ、カンボジアの文化も学びつつコミュニケーションが取れるような簡単なクメール語も学べるような本を作りまして Kindle で出版しました。
村上)その本の一番 本の一番キーになる、仲良くするコツってどの辺にあるんですか?
貝塚)そうですね、カンボジア人にとって挨拶とか、「衣食住」の「食」がすごく大事です。挨拶が「ご飯食べた?」とかなんです。日本だと「初めまして」とか「どうですか最近」みたいな感じですけど、カンボジアだと「ご飯食べた?」みたいな。そういうところをコツとしてつかむとコミュニケーションが広がりますね。
村上)ぜひそれを読んで、カンボジアの人たちと笑える「鉄板ネタ」を勉強したいなと思います 。
今井)長くカンボジアに関わられて来られて、カンボジアのネイティブになるって、どういう事だと思いますか?
貝塚)そうですね難しい質問では、あるんですけど心の中にいろんな情報を入れられる少しスペースを持つことがすごく大切なのかなと思いますね。
村上)今はなかなかカンボジアにはこういった状況なので戻れないと思いますけど、きっと貝塚さんにとってカンボジアには「帰る」っていうことなのかもしれませんが、またカンボジアでお会いできるのを楽しみにしています。4回にわたって本当にどうもありがとうございました。
次回のおしらせ
#011 宇宙管制官に聞く「離れている人とのつながり方」
宇宙飛行士とのコミュニケーションを通して、心の健康を見守る有人宇宙システムの山村侑平さんに「伝える・伝わる」をテーマにお話を聞きます。
The best is yet to be, お楽しみに!
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