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ネパールの森で移動生活を続けるラウテの人たち


モンスーンの森は霧の中

今井 前回までも出ていただいたドキュメンタリーフォトグラファーの門谷JUMBO優さん。前回まではThe 3rd Eye Chakra Field Bag Worksというアウトドアバッグ作りについてお話を伺いましたけれども、今回からはJUMBOさんのもう一つの側面であるドキュメンタリーフォトグラファーとしての活動についてお話を伺いたいと思います。
実は、JUMBOさんは昨日まで、ネパールのある民族の村に出かけて取材をされていて、ちょうど首都のカトマンズに戻られたということなんですけれども、昨日まではどういったところにいらっしゃったんでしょうか?

JUMBO ネパールというとヒマラヤのイメージがあると思うんですけれども、僕が昨日までいたところはジャングルというか、緑豊かな森の中で、それでいて人里も近いネパール特有の「里山」に近い、そういう環境でずっと撮影活動してました。

村上 ちょうど時期的にはモンスーンかなと思うんですけれども、お天気はどんな感じですか。

JUMBO そうですね。ちょうどモンスーンど真ん中ですね。西ネパールは他の地域に比べるとモンスーンの入りが遅いんですけど、それでも僕が滞在してる間にモンスーンにしっかりと入って、毎日毎日大雨でした。それから標高が高いところは猛烈な霧です。全く何も見えない、そしてすごく寒い。そんな夏です。

村上 移動は車ですか。

JUMBO 基本的な移動は車を使いましたけれども、移動しながら生きている民族の撮影だったので、彼らの後をついて森に入るときは全て徒歩で移動してました。

村上 徒歩というのは、民族の中に入るんですか。それとも少し遅れてついていくのでしょうか。

JUMBO 基本的には一緒に移動します。もちろん撮影なので自分が撮りたいカメラポジションに合わせて、前後したりするんですけれども、基本的には彼らと共に行動します。

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村上 彼らは大体何人ぐらいのコミュニティなんですか

JUMBO 現在150人弱ですね。

村上 150人がぞろぞろと一団となっていどうするんでしょうか。

JUMBO 実は今回は僕らが到着した時点で彼の移動は終わっていました。ちょうど新しいキャンプ場を作ったところだったんです。なので僕らが行ってる間に新たな移動は撮れなかったんです。ですが基本的には彼らは1日か2日かけて自分のテントを、核家族というか、自分と配偶者、それから子供がいれば子供も。そういう単位で一つのテントに住んでいて、テントごとに移動します。

村上 そのテントというのは僕らが想像するようなアウトドアのテントではないですよね。

JUMNO 違いますね。森から取ってきた木をうまいこと利用して骨組みを作って、葉っぱであらかた屋根を吹いて、その上に布をかぶせて、その水を防止する。形としては、長方形に屋根が乗ったような、すごく原始的なスタイルのテントですね。

村上 それを2日3日かけて移動するときには一旦ばらして、それごと持っていって組み立てるのか、あるいは行き着いた先の材料を利用して建てるのかどっちですか。

JUMO これもケースバイケースなんですけれども、森の中でもなかなか得にくいまっすぐ生えている大黒柱になるような柱は、大事に持ち歩きます。
それ以外の骨組みは現地調達するのが普通です。

村上 移動するときも大黒柱を運び、家財道具もそれなりにあると思います。移動するには労力がかかるような気がするんですけど、なぜその部族は移動するのか、その目的は何ですか。

JUMNO 彼ら曰く、「そう生まれついたから、それを続けたい」。そういう答えしか返ってこない人たちです。現実的な話をすると、彼らは森の木を切って器を作って、それを周りの農耕民族・定住民族と物々交換をしたりとか、お金で売ったりとか、そういう交易をしながら生きている人たちなんですね。なので1ヶ所にとどまってしまうと、容器がそのエリアに行き渡ってしまった時点で、もう彼らの商売が成り立たなくなるので、そのために、かなり高い頻度で移動を繰り返してるっていうふうに推察してます。

村上 定住している間は、一番優先されるのはその器がそろそろ出てきて売るかっていう、JUMBOさんからするとそういうふうに見えるってことでしょうか。

JUMBO 僕は彼らの撮影を10年近くやってきてるんですけれども、移動に関するルールはなかなか見えてこないところがあって、確かに物が飽和してしまうから移動するっていう、その理由はすごく大きなファクターだと思うんですけれども、それ以外にも、「夢のお告げ」であるとか、「キャンプ地で誰かが亡くなったら必ず移動しなければいけない」とかいろいろな掟や縛りのもとに生きている人たちなので、一概に、いつ、どういうふうに移動していくかっていうのは決まってないですね。
また最近は、地域のコミュニティとの摩擦も増えてきています。昔は森はみんなのものだから、そういう人たちが入ってきて木を切ったとしても、大きな問題にならないことが多かったみたいなんですけれども、現在では森っていうのは、コミュニティが大切に育てて、コミュニティに住んでる人が家を作るときに木材を切るとか、また薪にするために木を切るシステムになっています。そこによそ者が来て木を切り散らかして器を作ってそれを売るとなると、最初の数日はいいかもしれないですけど、もう何ヶ月も居続けられると、コミュニティの人たちも困るし、やっぱり感情的にも悪くなってくるので、そういったところも、いろんな塩梅を見ながら移動してる感じですね。

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村上 伺っていると動くことによって得られるものと、逆に他のコミュニティからハードルみたいなのもありながら、それでもやっぱり行き着く先っていうのは、自分たちは移動する民族なんだから、というそこに戻っていくっていう感じなんでしょうかね。

JUMBO ラウテっていう民族なんですけど、どの世代の人に聞いても、「自分たちはラウテに生まれついてここまで生きてきた。だからこれからもそうしたい、次の世代にはまた変わるかもしれないけれども、今はこの生き方を続けたい」そういう答えが返ってきます。これは本当にお年寄りの人に聞いてもそうだし若い人に聞いてもそうだし、そこだけはぶれないですね。


人間界と自然界のはざまに暮らす

今井 まるで民俗学の本の中に出てくるような民族だなとお話を伺って感じたんですけど、まだそういう人たちがネパールには少なからず残っているっていうことに驚きました。
ラウテ族の人たちは移動と定住をくりかえしているということですが、定住してるときはどういう暮らしをしてるんでしょうか?

JUMBO 彼らの移動パターンは、基本的に、季節ごとに住みやすい場所を目指していくという大きな流れがあります。今は夏ですので、ネパールの南、それから西の方って、気温がすごい高いんですね。平地の方だと、50度近くまでなるところがあるので、そういった住んで不快なところには夏、彼らは近づかずに、標高の高いところで暮らしています。
今回彼らと出会った場所も、大体標高2100mぐらいの場所で、ちょうど雨季に差し掛かっていたので毎日毎日霧が出て、雲の中から少し太陽が現れたと思ったら、雄大な森がワーッと現れたりだとか、人里が雲に隠れたり現れたりしたりだとか、すごく幻想的な森の風景でした。それと同時に、今回キャンプをしていた場所の同じ地区では、ちょうど西ネパールを縦貫する大きな道路を国が建設していて、その建設現場のすぐ近くだったんですね。
なので人間界と自然界の狭間というか、ちょっと説明が難しいですけどもそんな場所でした。

村上 ネパールって、それこそヒョウとかも出たりっていう話もありますが、森の中は、どんな音の中を歩いているようなイメージなんですか。

JUMBO ネパールは野鳥天国なので、一番聞こえるのは鳥の声です。それも日本の森を歩いているときに聞こえる数とは比較にならないぐらい多種多様ないろんな声が聞こえます。あとは森の中で雨が降ると、葉っぱに水がのって、たとえ空が晴れていたとしても、風が吹くとしばらくしとしと雨が降るみたいに水滴が落ちてくるんですね。湿り気のあるというか、いろんな変化(へんげ)する水の音、それが聞こえてくるイメージでしょうか。

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村上 その中でラウテ族の皆さんの会話は聞こえるものですか。

JUMBO 彼らの集落の中ではそういう会話はたくさん聞こえます。ただ、彼らは独自の言語のカムチ語という言葉を喋るので、僕らには全く何を言ってるのか理解できない、そういうもどかしさもあります。
彼らは世界中の同じような誘導民族や少数民族が抱えてる問題と同様、アルコールの問題がすごく今あります。酔っ払っているときは、やっぱり歌うし、がなるし、笑うし、すごく賑やかなんですけど、ただ、しらふのときは基本的に他の民族に自分たちのことをおっぴろげにしないルールがある人たちなので、カムチ語という独自言語でお喋りするのはあるんですけれども、カムチ語で歌を大声で歌うとか、カムチ語を他の民族にお伝えて親交を深めるとか、そういったことは一切しないです。

村上 移動して当然インフラがそんなにあるようなところではないと思うので、全てを自分たちで賄っていくのかなあと思うんですけど、やっぱり忙しいですか。

JUMBO 緩急をしっかりつける人たちという印象を僕は今持ってます。怠けるときは本当に怠けるも、お酒を飲んでひっくり返るときは、本当にお酒飲んでひっくり返ってるだけ。でも、やっぱり薪を取ってこないと夜の暖が取れないですし、薪取りっていうのは絶対行かなきゃいけないですから、薪のストックがなくなればそういう行動をちゃんと取る。食べるものも、食べ物なしで生きていくわけにはいかないので、お金が必要だったら、森の木を切って器を作るし、森に何か食べるものがあるんだったら、食べるものを取りに行く。
肉が食べたくなったら、お金を作って、ヤギとか鳥を食べます。あと、彼ら自身が森の中で狩猟していいのは猿だけなんですね。なので、さら肉が食べたくなれば、猿狩りをする。人間っていうよりも、言い方おかしいかもしれないですけど、本当に野生動物の生活リズムを垣間見ているような、そういう人たちです。
(文 ネイティブ編集長・今井尚、写真提供 門谷”JUMBO”優)

次回のおしらせ

ドキュメンタリーフォトグラファーの門谷JUMBO優さんが10年にわたって追い続ける西ネパールの遊動民族「ラウテ」の人たちの暮らしについて、引く続き伺います。ネパール・カトマンズから2022年の最新の報告です。
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