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食材、器、調理道具にもこだわった小さな食堂「アルプスごはん」
信州・松本で6席の小さな食堂「アルプスごはん」店主の金子健一さん。顔の見える関係を築いて仕入れる野菜だけでなく、器や調理道具にいたるまで、お客さんとのふれあいや、その日の気分にあわせてチョイスしています。自らも野菜を育てるからこそわかるベストなものやタイミングで食事を出しています。
定番の一品に季節の野菜を添えて
今井 前回まで信州・松本の柳沢林業の原薫さんからお話を伺ってきましたが、今回も同じ松本からご登場いただきます。村上さん、紹介お願いできますか。
村上 長野県松本市で「アルプスごはん」という食堂を営む金子健一さんです。その土地で採れたものを非常に丁寧にお仕事されて、ごはんを出される金子さんです。僕も何度か食事をいただいているんですけど、食べた後に体が喜ぶ感じがするんです。やっぱり食べ物って元々はその土地から生まれた命です。僕は命をどうこうって、ものすごく考えているタイプじゃないですけど、それでもやっぱりこの土地で生まれたものならではの味が、舌を通して体の中に染み渡っていくような、そんな体験をいつもさせて頂いています。やっぱり体は資本だよね、ごはんが資本だよねって、毎回感じさせていただくような、そんなご飯を頂いています。金子さんよろしくお願いします。
金子 よろしくお願いします。村上さん、ありがたいお言葉嬉しいです。ありがとうございます。長野県松本市で「アルプスごはん」をやっております金子健一と申します。お店では地元の農家さんのお野菜とか、調味料を使って、ごはんをお出ししております。
今井 アルプスごはんでは、普段どんなメニューを出していますか。最近のメニューでいうとどんなものがあったでしょうか。
金子 味噌ポタージュという、冬の根菜を使ってポタージュ風にしたりですね、あとは「松本一本ねぎ」っていう松本の伝統野菜があるんですけども、それを使った一品ですとか、あとは野沢菜漬などの信州ならではの食材を使ってごはんを作っています。
村上 始めの頃は夜も営業されてましたけど、今は朝と昼を営業されてるんですか。
金子 去年6月から朝と昼の営業にチェンジしました。
村上 どうしてですか。
金子 コロナの影響もあって、夜にお客さんが少なくなってきたっていうのもあったんですが、前から朝ご飯をやりたいなって思っていたんです。元々夜に水餃子を出していて、それが好評だったので「朝に水餃子」も面白いなあと思って、朝ごはんにチャレンジしました。
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村上 朝からあのごはんを食べられるって思うと、松本の人たち本当に羨ましいなって思います。
金子 会社の前に来て下さったり、近くに信州大学があるんですけども学生さんたちが学校に行く前に来てくれたりとか、それがすごい嬉しいです。今までお客さんが帰られるとき「ありがとうございました」って言っていたのが、「行ってらっしゃい」っていう新しい声かけができて、それも嬉しい一つです。
村上 メニューをすごくたくさん作ってるわけではなくて、今のシーズンだったらコレっていうふうに決めてらっしゃるんですよね。
金子 農家さんが作ってくださるお野菜によって変えていくようなメニュー構成です。ただ、高野豆腐を使ったエビごま味噌和えっていう料理があるんですけど、それはもう定番です。大豆を使った炒り漬け大豆っていう料理や、きのこを使ったなめたけなども定番で、そうした定番に季節の野菜を入れ込むような感じです。
お客さんと向き合うライブ感
村上 レストランだと、メニューを見て選べるっていうのも一つの楽しみだと思うんですけど、アルプスごはんの場合、中に入って席に着いたら、金子さんが用意してくれて食べられる。なんだか自宅に戻ってきたような感じもするし、でも一つ一つが非常に丁寧で、季節であるとか土の香りであるとか、ふだん忙しく生活してると忘れちゃいそうなことを、その時間と共に教えてくれるような、そんな不思議なお店だなって感じるんです。それは金子さんがそういうお店作りをしたいと思って作られているんですか。
金子 お店としてはやってるんですけど、どちらかというと金子の台所みたいな感じですね。席数が6席なので、作ってるところも丸見えなので、そういうライブ感とか、家にいるような感じでリラックスして松本・安曇野の食材を使ったごはんを食べてもらえたらなって思ってます。
今井 お店では器にもこだわってらっしゃるって聞いたんですけれども、どんな器なのでしょうか。
金子 陶芸家の方と一緒にお仕事させてもらったり、単純に自分がファンであったり、そういうお守りみたいな感じで器を使わせて頂いてます。
村上 ごはんをよそうときも、どれがいいですか?って、選ばせていただきました。
金子 お客さんがいない時はそういう楽しみ方もできるなと思って選んでもらってます。
村上 箸置き一つとっても縄文シリーズがあったり・笑
金子 そうなんです。長野県富士見町に土偶の箸置きを作ってる作家さんがいらっしゃって、6種類ぐらい土偶がありますね・笑
村上 僕が勝手に想像すると、まだまだ裏に器がめちゃくちゃいっぱいあるんじゃないかなと思うけどその辺どうなんでしょう。
金子 控えていますよ。この人にはこれを、っていう楽しみも自分の中にあって。器もそうですし、この人これ好きかな?とか、そういう器でお出しでるのも楽しみのひとつですね。
村上 食べる側にとってはそうやって楽しめたり、器について話しながら食べるのはなんとも言えない時間なんですけど、ごはんを作る金子さんの立場からすると、器が変わったり調理する時の木べらひとつとってもですけど、物が変わるとそれによって味やでき栄えが変わったりするものですか。
金子 気分が変わるだけで、作るものはそんなに変わらないですね。やっぱり同じものをずっと使い続けるよりかは今日はこの器の気分だなぁとか、今日はこの木べらの気分だなとか、そうしていた方が自分にとっては心地いいんです。
村上 確か金子さん、木べら何本持ってるんでしたっけ。
金子 何十本とあります。松本で大久保ハウス木工舎という木工作家の大久保公太郎さんという方がいるんですけど、彼の木べらが大好きで。大久保さんの木べらだけでも18本もあります。
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村上 道具ひとつとっても、金子さん自身がこれも試してみたいとかがあって、多分食材も同じなんじゃないかなと思っているんです。ねぎを見たらこれも調理してみたいっていうように、金子さんのワクワクした気持ちが料理になって、僕ら食べる側の人たちも楽しんでる。そんなイメージをすごく感じるんです。
金子 「ワクワク」って本当に自分にとってキーワードで、何か迷った時はワクワクする方に舵取りすることが多いです。
村上 僕が南極で越冬していた時に、隊の中にシェフが二人いるんですね。そのシェフが言ってたのが、南極観測隊にはそれぞれいろんな役割があるけど、シェフが楽しみでもあり、しんどいのが、「成績がすぐ出ちゃうこと」だというんです。食事って食べたらすぐに、おいしいとか、あ〜みたいなのはすぐ出るじゃないですか。その点どうなんですか、アルプスごはんはお客さんと席が近い中で振る舞われるのは、どういう気持ちなんでしょうか。
金子 毎回緊張します。特にお子さんはものすごく正直なので、ちょっとでも違うと思ったら手をつけてくれないです。最初はもう落ち込んだりするんですけど、全く食べないわけではなくて、やっぱり食べてくれるものがあるんです。それを話をしていくと、なんで食べてくれたのかっていうのがわかったりします。ダイレクトに反応を貰えるのが嬉しいし、緊張もする。もう慣れてしまったので、最近はそれさえも楽しめるようになりましたが。
今井 おなかだけでなく、心も満たしてくれるお店だなと思いました。是非食べに行きたくなりました。次回もお願いします。
(文・ネイティブ編集長今井尚、メイン写真・疋田千里)
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次回のおしらせ
長野県松本市で、生産者さんと顔の見える関係を築きながら野菜を中心とした料理を出す小さな食堂「アルプスごはん」を立ち上げた金子健一さんにお話を聞きます。自らも野菜作りをする中で見えてきた、野菜作りと料理の関係。お客さんともコミュニケーションを楽しみながら農と暮らしをつなぐ役割も果たしています。お楽しみに!
The best is yet to be!
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