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住む・住まない。限界集落とのかかわりのカタチ

町の中での立ち位置を探る

今井 これまで映像をアーカイブする活動を続けられているということですけど、木村さんは今後、どのようにこの町と関わっていこうという気持ちですか?

木村 そうですね。限界集落とか、人がいなくなっていく場所に対して、自分がそれを救いたいみたいな立場ではないところに今来たなっていう感じなんですね。それよりも自分にとっては秘密基地みたいな状態なのかもしれないと思っています。僕は大土町の魅力の一つとして、直径が200メートルぐらいの中に、水が山の上から流れてきて、それが村の中においしい水を提供していて、そばには泳げるくらいの大きな川が流れていて、二枚田さんの育てている田んぼがあって、畑もあって、家が10軒あって。生活をすることの最小単位がすごくわかりやすい形でそこに現れているっていうふうに僕は思っていて、わかりやすいから気持ちがいいのかなとか、そんなことも考えたりするんですけど。だから僕はちょっと混乱したときとかはそこに1回行くみたいな避難場所にしています。

村上 住まなくても、別の形で、大土に関わる自分の立ち位置というか、自分の居場所というか、そういったものをだんだん見つけてきて、そこに違和感もなく、それこそ木村さんだけじゃなくて、そこに住んでいる二枚田さんも木村さんってこういう感じで関わってくれるんだよねみたいなその距離感も含めて、ポジションというものを獲得されてきてるのかなっていうような、聞こえて来たんですけどいかがですか。

木村 やっぱりそう思いますね。ちょっと周りを見ると、大土町でたまに会う、なんかそういう人がちらほらいるんだなっていうのもなんとなくわかるんですよね。別に待ち合わせをするわけでもなく、行くとなんかたまにあの人に会うみたいなのがあったりとかして。

村上 2018年から4年ぐらいの間の中で、いろんな人をちょっとずつ見てきた中で、こういう人は離れても残るのかなとか、こう関わっていると一時の関わりになっちゃうのかな、みたいなところの差みたいなものとか感じますか。

木村 そうですね。どうなんだろう、それはわからないかな。とはいえでもね、月に1回ボランティアの受け入れをしていて、1回に5~6人来るのかな。コロナ以降はあんまりないんですけど海外からもいっぱい来るんですよね。そういう人たちが毎月いて、リピーターも多い状態で、ファンがすごく増えている状態だと思うんです。
そういう中でものすごく熱意を持って、大学を卒業したら大土に住みたいんですっていう感じで加賀市に就職を決めて、移り住むみたいな子も何人か見ています。ところがやっぱりそれほど長く続くものではないなっていうのは、この4年間だけでも相当事例が見受けられました。

村上 何かいい意味でちょっと抜けているというか、日本の中でのボランティアって清廉潔白というか、すごく一生懸命みたいな感じがしちゃうんですよね、そのボランティアっていう響きが。意外と海外を含めると別にボランティアでもっといろんなあり方があるじゃないですか。
そういった意味で何かある意味その日本的なボランティアと思ってきちゃうと、一生懸命すぎて、役に立ったとして何か一時すごい場所を作っても、それってやっぱり続くもんじゃないなというか、非日常感が続いている中だと、日常の中にはなかなか馴染んでいかない。そういう感じも、大土に限らずですが、ボランティアに話を広げていくとそんな印象も持つんですけど、どうですか。

木村 どうなんでしょう。僕自身がボランティアとして入ってきたわけではないというのがあるんですけれども。住もうとするときの状態が熱ければ熱いほど、大丈夫かな?っていう感じで見てしまうというのもあるし、逆に言えばそれほど熱くなってもなかなか住めるものではない今の大土町の状態というのも、一つの問題でもあるかもしれないんですけどね。

村上 今の住もうと思えば思うほどっていうのも、何か他者の話をしているようで、昔の木村さん自身の話をしてるようにも聞こえます。

木村 そうですね。

村上 そういった意味で木村さんも振り返ると、最初の頃は、ボランティアって言葉ではないにしても、なんか熱くなっていた感じですか。

木村 そう思います。空っぽでただ熱くなっていた状態から、自分の立ち位置って本当は何だったっけ?というところを考えるための4年間だった気がします。


集落を存続させる英断とバランス

今井 体験するとか経験するとか驚くとかいうことと、暮らすということの間にはかなり違いがありそうな感じがお話を伺って思いました。大土には二枚田さんという唯一の住民が今もいらっしゃるということですが、その他にも村をもう離れた人たちがたくさんいらっしゃって、ただ、今も家を手放さずに関わり続けている人もいらっしゃるというふうに伺いましたけれども、村を離れた人たちの思いを皆さんが何か感じ取ることってありますか。

木村 ここが本当に難しくてですね、何度か「あそこの空き家だったら本当に来てないからお借りできる、もしくは購入できるんじゃないか」と考えてコンタクトを取ったこともあったんですけど、無理なんですよね。多分自分の想像の外にある思いなのかなとか。
僕、実は昨年の12月に自分の母が亡くなって、父も母も亡くなった状態で実家が群馬にあるっていう状態なんですけど、今は姉が使ってるんです。住んでいるわけじゃないんですけど、使っていて、それがもう空き家で管理も大変だし、売るかってすぐなるかって言ったらやっぱりそれはなくて。そういう路線で考えていいものなのか、ちょっとわからないです、本当に。

村上 それこそ10軒それぞれの事情があると思います。その中でも一つは二枚田さんがあれだけきれいに村全体を維持管理しているっていうのは、「家を持っていたい」と思わせる部分に間違いなく影響していると思うんですけど、いかがですか。

木村 まさにそうだと思いますね。なかには毎年この時期には帰ってくるご家族もいらっしゃって、そのときにずっときれいな状態が保たれているあの集落にもどってきたら、手放したくなくなるだろうなっていうのは想像できます。

村上 改めて考えるとすごく不思議なバランスで、住んでいる人は確かに1人だけど、所有者の人もただただ家屋として所有しているってよりかは、何かもうちょっと違った、手放したくないという意味での関わりであったりとか、ボランティアの人たちももしかしたら気づかないかもしれないけど、有機的に出入りがあったりとか、ともすれば木村さんみたいな存在がいたり、一つ一つがすごく不思議なバランスで、うまくかみ合っているというか、でも一方でまだ実は結構危ういっていうか、何か一つ変わると変わってしまうようなものなのかもしれないけど、それでもやっぱりしっかりと今、かみ合っていると思うんですよね。多分その木村さんはかみ合わせの一つになりつつあると思うんですけど。

木村 いやあ、どうなんでしょう、それがかみ合わせの一つになっているかどうか、少なくとも僕のメインの関わり方であるアーカイブにしてみては、なかなかそれは難しいですね。透明人間みたいな形の関わり方というか。いるようでいないような感じだと思っているんです。
ただ一方で、大土町が今の状態で存続できているっていうのは本当に二枚田さんの英断がいくつもこの4年間ですらあったんです。集落の中に別荘地みたいな計画を立てようとする人が来たり、ある有名シェフを招いておいしいシェフのいる村として売り出そうみたいなお話が来たり、そういうものはすっとよけられる二枚田さんという存在は重要だと思うんです。

村上 その、「よける・受け入れる」という差分には何があると思いますか?

木村 多分、二枚田さんにとって大土町を少しでも後世の人に興味を持ってもらって、自分がやっているようにきれいな状態に保っていこうとか、人がいつも気持ちよく過ごせる場所を作ろうっていうことの中に、入ってこない人、そこにそぐわない人たちっていうのがやっぱりあるんじゃないかなと思っています。
経済を必要以上に回すみたいなことはあんまり考えていない。いつも長期的なビジョンを持っているなと思います。

村上 僕も木村さんの紹介で、二枚田さんと話をさせていただきましたけど、二枚田さんがおっしゃっていたのは、どうしても先送りしてしまうと環境上厳しい場所だし、人もいつまでそこにこのまま残してくれるかっていうのもあります。先送りするのはほとんどあまり意味をなさないですし、何かしら決めていかなきゃいけない。
でも決めていく一つ一つが、大土の未来にかなり関わっていくところの重みというか、人のスピード感っていうものはすごく何か戸惑っているような感じも実は僕は二枚田さんから感じています。木村さんご自身のことで考えると、僕は今現在加賀に住む可能性はかなり少ない中で大土を訪れて、前提として木村さんはもう加賀のどこかのエリアで人生のしばらくのこの時間を過ごすっていうことを前提に見ているじゃないですか。
そういった意味では、たまたまかもしれないですけど、住むところを探してる中で木村さんが見た大土と、そういう形で大土と出会ったのは、振り返ると何か影響ありました? それともあくまで場と自分の関係ですか。

木村 そういう意味では本当にシンプルに、場と自分の関係を探る中で。というか結構撮影をやっているとなんか人生全体がいつもロケハンみたいなモードが少しあって、そういう中で大土町ほど自分がカメラを構えたくなるシチュエーションっていうのは、なかなか出会ったことないなっていう感じはあります。

今井 木村さんが生活の最小単位がこの町にあるというお話を伺って、すごく規模が小さいので、1人の考えや、1人誰かが入ってくること、出ていくこと、一つ一つの小さな要素がその村にとってすごく大きな影響を与えるものなのかなと思いました。だからこそ逆に、たった1人の行動がすごく大きなチャンスにもなるのかなって思いました。私は大土町に行ったことがないですし、町民と話したわけでもないですけれども、お話を通してそういうことを考えました。
(文 ネイティブ編集長・今井尚、写真提供 木村悟之)

次回のお知らせ

石川県加賀市にある人口が1人という大土町に関心を寄せ、定点観測をしたり、元町民から過去の映像をお借りしてアーカイブするプロジェクトに取り組んでいる映像作家の木村悟之さんとの最終回。まさに暮らし続けることとはどういうことかに直面する木村さんに、ネイティブとは何かを伺います。
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