見出し画像

【詩】「夜を越えて」

もうシャッターが下りた店が並ぶアーケードを歩く
寝ないままに過ごした夜はもうすぐ浅くなり朝になる
ざわめきは気だるくなったけど途切れることはない
携帯振りかざす人が散らばる橋に花束たちは萎れてる

数えるのが馬鹿らしくなるくらいジョッキを空けて
久方ぶりの吉報を祝って待ち続けた自らを労わった
既に色褪せた思い出に醒めながらも縋り続けていた
そんなモノクロの過去の一つを僕はようやく塗りかえた

どれだけ言葉費やしたら僕は「あなた」に逢える?
疲れきった身体を何とか動かして駅に向かいながら
脈絡のない問いを重ねて打ち消すことを繰り返す
僕の言葉はもう誰にも届かないこと分かってるのに

始発電車の空気はどんな季節でもいつも冷ややかだ
シートに身を預けるけど最近心配性な僕に眠りはまだ来ない
車窓を流れる景色は次第次第に明るみを帯びていく
射す光は単なる光に過ぎないのに何故に救われた気がするのだろう

指折り数えるには指がとっくに足らなくなるぐらい生きてきた
そして生の残りをこの指で数えられる可能性はいつもある
知っていながら僕は後悔の数を増やしゆっくりと忘れていく
この手で築き上げた迷路の中で出口をずっとさがしている

どんな言葉をつらねれば僕は「あなた」に逢える?
壊れかけた心をどうにか繋ぎとめる日々を過ごしながら
泣き笑いみたいな人生を演じる僕は苦笑いし続ける
装う言葉しか言えないのに何かを期待してる己が滑稽で

足を引きずりながらドアを開けて静かに部屋に入った
ネクタイをほどいて溜息をついてベッドにもぐりこむ
積み重なっていく過去たちと確実に減り続ける未来たち
総て現れたそのときから消えてしまうそのときに向かって歩いていく

どれだけ言葉費やしたら僕は「あなた」に逢える?
疲れきった自分に何とか強がって虚勢を張りながら
憑かれたようにその問いを問いかけ続けるだろう
僕の言葉が誰にも届かないこと分かっていたとしても

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?